リーナと深雪が戦った翌日、日曜にも関わらず達也は学校に来ていた、その隣には当然のように深雪が寄り添っている。
「まだ、何方もいらしてませんね」
「呼びだした人物が最後に登場するのはフィクションのお約束だが、現実はそういうわけにもいかないだろうな」
達也と深雪が足を運んだのは生徒会室で、深雪の言うように生徒会室は無人だった。だが待ち人の片方は、すぐと言って良いタイミングで現れた。
「おはよう、達也君、深雪」
「あら、エリカ。吉田君と一緒に来たの?」
「偶然よ! ……そこはかとない悪意を感じるのはあたしの気のせい?」
「気のせいよ」
「待たせちゃったかな?」
「いや、こっちも来たばかりだ。悪いな、日曜に」
女子高生同士の気の置けない会話の一方で、男子高校生同士はお決まりの社交辞令を交換していた。
「何かあたしとミキの扱いが違う……まぁいいや。それで今日はどうしたの? 休みの日に達也君があたしたちを呼び出すなんて珍しいじゃない」
「もう少し待ってくれ。話はメンバーが揃ってからにしたい」
「他に誰か来るのかい?」
「ああ、そろそろ来るはずなんだが」
幹比古の質問に達也が返答したタイミングで、ドアがノックされた。インターホンを使わずノックした事については疑問を覚えないでもなかったが、達也もリモコンを使わず自分でドアを開けたのでそこはツッコまなかった。
「お呼び立てしてすみません」
何故わざわざ出迎えを、という疑問を幹比古は抱いていたが、ドアが開いた直後に氷解した。やって来たのは真由美と克人の二人だった。
「吉田に千葉? お前たちも司波に呼ばれたのか?」
「あっ、はい」
動揺を見せた真由美に代わり克人が素朴な疑問を呈した。そしてやはり咄嗟に言葉を失ったエリカの代わりに、幹比古がごく短い答えを返した。
「では始めましょうか」
その答えに被せるようにして、達也が着席を促す。とりあえず席に座り、二人の美少女は達也にキツイ視線を向けて問いただす。
「最初に説明してもらえる? どうしてあたしたちが七草先輩たちと一緒に呼ばれたのか」
「同感ね。私もまずそこから説明してほしいわ」
「我々が追いかけている吸血鬼の捕獲について、お知らせしたい事がありましたので」
エリカと真由美は妙に対立しているような感じだったが、達也にとってその事は瑣事なので無駄な仲裁はせずにさっさと用件を済ませる事にした。
「聞かせてもらおう」
同じく瑣事に興味を持たなかった克人が反応した。幹比古は二人の雰囲気に呑まれかけていて反応出来なかったのだ。
「昨晩、三時間おきに特定パターンの電波を発信する合成分子機器の発信機を吸血鬼に打ち込みました。発信機の寿命は最長で三日。電波の出力は微弱ですが、街路カメラに併設した違法電波取締用の傍受アンテナなら受信可能です」
「ちょっと待って、達也君。昨晩? 何処で?」
「どうやって見つけたのよ?」
「合成分子機器って、何処からそんなものを……」
今度は全員が反応した。反応せずにはいられなかった、というべきか。真由美が目を丸くして、エリカが口惜しさの裏返しか、責めるように、幹比古が呆れ越えを交えてそれぞれ訊ねた。
「これが電波の周波数とパターンです」
達也に説明するつもりは無かった。独立魔装大隊の技術力の一端や、一応秘密にしているリーナの正体まで話さなければならなくなるからだ。それを誤魔化すように、達也が四人の前に一枚ずつカードを滑らせる。
「先輩のチームでもエリカのチームでも傍受アンテナを利用出来るはずですよね?」
「……これで居場所を突き止めろ、って事?」
真由美の問い掛けに達也が無言で頷く。
「……何故これを私たちに?」
エリカが私たち、と言ってるのは何故七草・十文字のチームと千葉一門のチームの両方に、という意味で、それを誤解するほど達也は鈍く無かった。
「我々が追いかけてる吸血鬼の正体ですが、USNA軍から脱走した魔法師の様です。それも単独ではありませんね。脱走者は少なくとも二人以上、もしかしたら十人前後になるかもしれません」
「スターズから十人も脱走者が出たの?」
「いや、エリカ。USNA軍に所属してるからといって、スターズに所属していたとは限らないんだぞ」
「えっ、そうなの?」
「七草……スターズはUSNA軍に所属する魔法師の中から特に魔法戦闘力に優れた者が選抜されて出来ている部隊だ。当然、USNA軍の中にはスターズに所属していない魔法師もいる」
エリカの疑問を達也が、真由美の疑問を克人が正し、そのあと軍紀の乱れが理由か、と幹比古の質問に達也が否を示した。
「……それで結局、どうしろって言うのよ」
達也と幹比古が脇道で盛り上がってるところに、不貞腐れた声で口を挿んだできたのはエリカだった。見れば真由美もうんざりした顔をしている。
「どうこうしろというつもりは無いが、友人が痛い目に遭わされたんだから放っておくつもりは無い。だが必ずしも自分の手で思い知らせてやることに拘るつもりもない」
達也はあっさりと言い放って立ちあがった。
「ご足労いただいて申し訳ありませんでした。物が物ですので直接お渡しした方が良いと思いまして」
「いや、構わない。御苦労だったな。せっかくこうして顔を合わせたのだから、我々は少し話をしてから帰るとしよう」
「そうですか。それでは戸締りをお任せしても良いですか」
「任された」
「ちょっと!」
「待ちなさいよ!」
克人に対して一礼をしてこの場を去ろうとした達也に、美少女二人から待ったを掛けられた。
「何でしょうか?」
「達也君、私たちに協力してくれるんじゃなかったの?」
「あたしたちを助けてくれたじゃない! 何で七草先輩たちとまで繋がってるのよ?」
「別に。さっき言ったように自分の手でどうこうするつもりは無いからな。情報を貰えるのならどちらにも協力するし、使えないと判断したらすぐに手を切る。慣れ合いで倒せるほど相手は簡単ではないからな。そして七草先輩、俺はちゃんと貴女方にも協力してますよ」
「そうだな。これは確かに役に立つ」
達也から渡されたカードを見て、克人が達也の味方に付いた。それを見て美少女二人は納得が行って無いがこれ以上責め立てられないと諦め席に戻った。
生徒会室から出て行く達也の背中を、幹比古が縋りつくような目で見ていたのは気のせいでは無かっただろうが、達也はこれ以上この場に残るつもりは無かったのでばっさりと無視したのだった。
哀れ幹比古。君の胃の痛みはきっと和らぐさ……(遠い目)