達也は学校を出た後、珍しく深雪と別行動を取っていた。理由は、昨日深雪とリーナが戦い、彼女の立場的に考えると色々と面倒な事があったのだろうと容易に想像ができ、案の定リーナからテキストメールが送られて来て、午後に会えるなら会いたいと誘われたのだ。
当然、深雪は反対したのだが、これ以上ややこしい事になり達也の負担が増える事を考えて、後日自分ともデートする事を条件に、リーナと二人きりでの外出を許可したのだ。
「ハイ、タツヤ。待たせたかしら?」
「いや、俺も今来たところだ。気にする必要は無い」
「そう。ふふ」
「なんだ?」
「いえ、タツヤも一人前に男性が出来るのね、と思って」
「どういう意味かはあえて聞かないが、俺は最初から男性だ」
リーナの冗談に、真面目な態度で返す達也に、リーナは思わず噴き出してしまう。
「ゴメンなさい、そういう意味じゃないのよ。男性が先に待ち合わせ場所に来ていても、待ってないフリをするのが日本男児なのでしょ?」
「さぁ? 日本男児がどうこうは知らないが、実際に待ってないからな、俺は」
「ところで、午前中は何か用事でもあったのかしら?」
「俺にだって用事くらいあるさ。それに、リーナだって色々とあったんだろ?」
「……思い出したくも無いわ」
余程嫌な事があったのだろう。リーナは達也の前だと言う事を忘れて顔を思いっきり顰めた。その顔を見ても、達也は特に動じる事は無かったのだが……
「それより、タツヤの方こそ色々大変なんじゃないの? 昨日のアレ、かなり痛そうだったけど」
「問題無い。優秀な治癒魔法師が知り合いにいるから、リーナが気にする必要はないさ」
本当は自己修復術式をリーナと別れて直に発動させたのだが、事情を知らないリーナにその事を話すわけにもいかないので、達也はもっともらしい嘘で誤魔化す事にしたのだった。
「いくら治癒魔法を掛けたって、それは一時的でしか無いわよ。無茶だけはしないでよね」
「君を捕まえる為に仕方なくやった事なのに、君が心配するのはおかしくないか?」
「あの時はあの時、今は今よ。それに、ワタシのフィアンセ候補なんだから、心配して当然でしょ?」
「その話しだが、いったいどこから出て来たんだ?」
リーナのフィアンセ候補などと言われても、達也にはまったく実感が湧かない。そもそもそんな事言われても真夜が反対して潰されるだろうとも思っている。
「えっとね、将軍が貴方の事を気にいってるようで、キョウコさんかワタシのどちらかと結婚させたがってるって聞いたわ」
「……九島閣下がそんな事を。だがリーナはそんな事で決められて良いのかい?」
「タツヤなら問題ないわよ。それに、あんな魔法見せられたら惚れないわけないわよ」
「あんな魔法?」
「最初はエリカとミキと戦ってる時、次は昨日。魔法を全て消し去る魔法なんて聞いた事無いわよ?」
「俺の魔法は実戦でしか使えないからな」
前に達也が言った、「実技よりも実戦で役に立つ魔法師」という意味が漸く分かったリーナは、納得したかのように頷いて、素早い動きで達也の腕に自分の腕を絡ませた。
「おい?」
「今日一日はタツヤはワタシの彼氏なんだから、これくらいはいいでしょ?」
「やれやれ……」
抵抗しても無駄だと言う事は、過去に他の女性で十分に学習している達也は、溜め息一つ吐いてそれ以上は考えないようにしたのだった。
誰もが認める美少女であるリーナと、大人の雰囲気とその見た目から無意識に次々と女性を虜にしている達也が一緒にいる事で、二人の周りでは別のカップルたちが羨望と嫉妬の視線を向けている。
リーナには男から羨望、女から嫉妬、達也には女から羨望、男から嫉妬、と見事に分かれているのだが、偶に諦めや称賛の視線も向けられているのだ。
「日本の恋人たちは意外と嫉妬深いのかしら?」
「さぁ? 俺に聞かれても分からない」
「そうなの? タツヤなら何人もの女の子とデートした事あるでしょ?」
「リーナはいったい俺を何だと思ってるんだ?」
実際にこうして異性と出かける事はあっても、達也はそれをデートだととは思っていない。いや、思えていないと言った方が正しいかもしれない。
「だってマユミやマリだってタツヤの事を気にしてる様子だったわよ?」
「渡辺先輩にはれっきとした彼氏がいるし、七草先輩だって十師族の直系だ。俺なんかより立派な相手が存在するだろうさ」
「タツヤって、自己評価低めよね。クラスメイトの殆どが貴方の事を『好い』って思ってるわよ? まぁ、ミユキがいるからおいそれと口には出さないけどね」
「俺と深雪は兄妹だぞ」
当たり前の返答だが、リーナにはそれが白々しく聞こえた。達也の方は深雪を妹として認識しているが、深雪の方には、達也に対して兄以上の感情を向けているのは、誰の目にも明らかだからだ。
「タツヤ、貴方ミユキの気持ちを知ってるでしょ?」
「……だが実際に俺と深雪は血のつながった兄妹だ。いくら深雪が俺の事を想っていようが、それは覆せない事実だ」
「ワタシやホノカにとっては、その事実はありがたい事なのだけどね」
「ほのか?」
「……タツヤってわざと鈍いフリをしているの? それとも本当に分かって無いの?」
リーナの質問に、達也は苦い笑みを浮かべた。
「ほのかには一度告白されている」
「そうなの!? やるわね、ホノカ」
夏休みの一件を思い出し、達也は更に苦味の増した笑みを浮かべる。返事はハッキリとはしてないが、断ったのだから、達也としては思い出したくない思い出なのかもしれない。
「でもタツヤはホノカと付き合ってないのよね?」
「ああ。俺は誰とも付き合って無い」
「何で? ホノカ、可愛いじゃない。同性のワタシから見ても、ホノカは可愛いしオッパイも大きいわよ?」
「随分と下品だな、アンジェリーナ・シリウス少佐」
「今は階級なんかで呼ばないでよね!」
達也が韜晦しようとしているなどと、完全な日本人ではないリーナには分からなかった。結局話を逸らされて、この話題はこれ以上盛り上がる事は無かった。
「まぁいいわ。それじゃ、ディナーにしましょ」
「いったい何時まで付き合えばいいんだ?」
「本当は夜も一緒にいたいけど、高校生だしそれはまた次の機会にするわ」
「……ホント下品だな、リーナは」
「これくらい普通よ。今時の女子高生でも、これくらいは普通に話すレベルでしょ」
「いや、俺に言われても分からん」
そんな話をしながら、リーナは達也の腕を取り予約していた店へとエスコートするのだが、達也がしっかりと隣を歩いているので、傍から見ればエスコートしているのは達也に見えただろう。
全ては呑めないが一部だけなら……って事で、フィアンセとして連れ帰る事は出来なかったがデートだけは出来る、って感じですかね