劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今更ながらこのタイトル……


兄妹愛

 部活連本部での報告と、保健室への訪問を終えた達也は、急いで生徒会室に向かう予定だった。何時も以上に遅くなってしまったので、いくら魔法が使えるといっても女の子一人で帰す訳には行かないと思っていたからだ。だが……

 

「お兄様!」

 

「あっ、お疲れ~」

 

「お疲れ様です」

 

「よう!」

 

 

 昇降口の傍で妹と友人たちが達也の事を待っていてくれていた。

 

「お疲れ様です! 本日はご活躍でしたね」

 

「そうでもないさ。深雪もご苦労様」

 

 

 真っ先に達也に駆け寄って賛辞を送る深雪に対し、達也は優しく髪を撫でた。その動作に友人二人がため息を吐いた。

 

「兄妹だって分かってるんだけどなぁ……」

 

「何かねぇ……」

 

「でも、絵になりますよ?」

 

 

 三人目の友人の感想に、兄妹と他二人の友人は揃って苦笑いを浮かべた。レオとエリカは冗談だったのだが、美月だけは本気の感想を言っているようだったからだ。

 

「それよりも、すまないな、こんな時間まで」

 

「いえ、私はクラブのオリエンテーションがついさっき終わったばかりですし」

 

「そうそう、コイツもさっきまで部活だったから気にしなくて良いのよ」

 

「そうなんだが、オメェが言うな!」

 

「お兄様、此処は謝る場面ではありませんよ?」

 

 

 深雪のイタズラっぽい笑みを見て、達也は苦笑いを浮かべながら友人たちに向き直った。

 

「ありがとう。それで、こんな時間だし、何か食べて帰らないか? 一人千円までなら奢るぞ」

 

「おっ! マジか!」

 

 

 達也の申し出に、レオだけが喰い付いた。普段ならエリカも喰い付きそうなものだが、ついこの間奢ってもらったばかりなので、さすがに遠慮してるのだろう。

 

「お兄様の好意ですし、せっかくですから行きましょう」

 

「そうね……達也君の好意だもんね!」

 

「そうですね! 達也さんのご好意に甘えさせてもらいます!」

 

 

 深雪が助け舟を出すと、エリカも美月もそれに乗っかった。深雪が思ってた以上に『好意』にアクセントが置かれていたようにも感じたが、とりあえずは兄に恥を掻かす事は避けられたので満足していた。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「よ~し! 食べるわよ~!」

 

「お前はついさっきまで遠慮してただろうが……」

 

「せっかくの好意を無碍にするのは失礼でしょ」

 

「がめつい女だ」

 

 

 レオがボソッと言った感想に、エリカは反応した。そのまま何時のの流れの喧嘩に発展したのだが、達也も深雪もまったく気にしなかった。ただ一人美月だけがオロオロとしていたのだが、もう美月も慣れたもので慌てはするが止めはしなかった。

 結局店に着くまで言い争っていた二人だが、食べ物を前に大人しくなった。

 

「そう言えば達也、剣術部の相手は殺傷ランクBの魔法を使ってきたんだろ? 良く無事だったな」

 

「『高周波ブレード』は有効範囲の狭い魔法だからな。触らなければ如何とでも対処出来るさ。刃に触れられないだけでそれ以外は真剣相手と変わらないからな」

 

「……それって、真剣相手など簡単だって聞こえるんだけど?」

 

「危なくないんですか?」

 

 

 間近で見ていたエリカも、噂だけ聞いた美月も心配そうに達也の事を見る。だが、その心配を達也では無く深雪が無用なものだと退けた。

 

「お兄様相手に真剣如きでは勝てないわよ」

 

「随分と余裕じゃない?」

 

「体術ではもちろん、剣技でもお兄様に敵う相手は居ないもの」

 

「えっと……確かに達也君の体術は凄かったし、剣術部には達也君に勝てそうな人は居なかったけど、桐原先輩は別格だったよ?」

 

「『高周波ブレード』って確か、超音波を放ってるんですよね?」

 

「超音波酔いを防ぐために、耳栓を使う術者も居るって話だよな」

 

 

 深雪の自信満々の態度に、友人三人は肯定しつつも疑問を投げかけた。体術なら兎も角、相手は魔法を併用してたのだ。魔法技能に劣る二科生である達也の事が、本当に心配じゃなかったのかと不思議に思えたのだ。

 

「そうじゃないのよ。単にお兄様が優れてるってだけじゃないの」

 

 

 そんな不思議そうな顔を浮かべている三人の疑問を、深雪は失笑を堪えながら答えていった。

 

「魔法式の無効化はお兄様の十八番なのよ」

 

「「「魔法式の無効化?」」」

 

 

 深雪の言った事を、鸚鵡返しするように三人がハモった。魔法式を無効化するような技術を、三人は聞いた事が無かったからだ。

 

「それってレアなスキルよね?」

 

「そうね。少なくとも高校では習わないし、教わったからと言って誰でも使える技ではないわよ。エリカ、お兄様が飛び出した後、乗り物酔いみたいな感覚に襲われなかった?」

 

「確かに……私はそこまで酷くなかったけど、周りには気持ち悪くて立ってられない人も居たわね」

 

「それ、お兄様の仕業よ。お兄様、キャスト・ジャミングをお使いになったでしょ?」

 

 

 深雪に視線を向けられ、達也は素直に認めた。

 

「深雪には隠し事は出来そうに無いな」

 

「深雪はお兄様の事なら何でも分かりますもの」

 

 

 兄妹とは思えない雰囲気に耐えられず、勇気ある少年がツッコミを入れる。

 

「それ。兄妹の会話じゃないぜ」

 

「「そうかな(かしら)?」」

 

 

 ツッコミに対して声を揃えて不思議そうな顔を浮かべた兄妹に、ツッコミを入れたレオが崩れ落ちる。

 

「アンタじゃこの二人には太刀打ち出来ないわよ」

 

「俺が間違ってたよ」

 

 

 同情するようにエリカが慰めると、レオも自分が間違ってたと認めた。

 

「その表現は甚だ不本意だな」

 

「良いじゃありませんか、お兄様。私とお兄様が強い兄妹愛で結ばれてるのは事実なのですから」

 

 

 冗談を重ねるように、深雪は達也に擦り寄って肩に頭を乗せる。その行動にレオだけでは無くエリカまで机に突っ伏した。

 

「あ~あ、私帰ろうかな~」

 

 

 誰もが冗談と理解してる中、ただ一人困惑するように、だけど興味深そうに達也と深雪を見ている少女が居た。

 

「深雪、冗談はほどほどにな。約一名冗談だって分かってないから」

 

「えっ!? 冗談?」

 

「「「………」」」

 

 

 一斉に視線を向けられて、顔を真っ赤に染め上げた美月を、四人は微笑ましいと感じていた。

 

「そう言えば深雪、キャスト・ジャミングって言った? それって確か魔法の妨害電波の事よね?」

 

「電波じゃねぇけどな」

 

「ものの例えよ! でも確か特殊な石が必要なのよね。えっと……アンティ何とか」

 

「アンティナイトよ、エリカちゃん」

 

 

 名前が出てこなくてテキトーに誤魔化したエリカを、美月がフォローした。

 

「そうそれ! アンティナイト」

 

「達也さん、アンティナイトを持ってるんですか? あれってかなり高価なものだったと思うのですが……」

 

 

 キャスト・ジャミングを使うにはアンティナイトが不可欠、この事は常識だと思っていた美月は、達也がアンティナイトを所持してるものだと思いこんでいた。

 しかし達也の答えは常識を覆すものだった。

 

「いや、持ってないよ。価格以前にあれは軍事物資だからね。一般人が持てるものじゃないさ」

 

「でも、キャスト・ジャミングを使ったんでしょ?」

 

 

 今度はエリカの質問に、達也は身を乗り出して答えた。

 

「これはオフレコで頼みたいんだが、俺が使ったのはキャスト・ジャミングの理論を応用した、特定魔法のジャミングなんだ」

 

 

 達也のこの言葉に、エリカも、レオも、美月も首を傾げたが、ただ一人深雪だけは嬉しそうに達也の話を聞いていたのだった。




次回は説明会ですかね……

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