劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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さて、ここから結構苦労しそうだな……


白覆面の正体

 自分が監視していた大型トレーラーが急に見えなくなれば、いくら深雪でも驚かずにはいられない。

 

「これは、結界ですか!?」

 

「そうだ。幹比古だな。大した腕だ」

 

「吉田君の?」

 

 自分を振り仰いで問いかける妹に、達也は頷き答えた。一科生とか二科生とかに関係なく、高校一年生の少年がこれ程の規模と強度を持つ認識阻害の陣を構築した事に、深雪は更なる驚きを隠せなかった。

 

「効果は視覚遮断と聴覚遮断か。実体の移動を阻害する効果は無い……な」

 

「見ただけで分かるんですか?」

 

 

 達也が呟いた言葉にほのかが反応を示す。ほのかからしたら、結界を作った幹比古にも驚いたが、その効果を見ただけで理解する達也にも驚きを隠せなかったのだ。

 

「俺は古術の方になじみが深いからな」

 

 

 それらしい理由を咄嗟に言い、達也はポケットから通信端末を取り出して真由美に連絡を入れた。

 

「七草先輩、司波です」

 

『どうしたの』

 

「実験棟資材搬入口付近の監視装置のレコーダーをオフにしてください」

 

 

 これが街中なら七草家令嬢といえど無茶な要求だが、校内なら、ある意味好き放題な事をやってきた真由美には可能なはずだ。

 

『何故……と訊いても、答えてはくれないわね』

 

「見れば分かると思いますよ」

 

 

 真由美は今モニターの傍にいるはずなので、達也は説明するよりは自分の目で確認させた方が良いと判断した。そしてその判断は間違っては無かった。

 

『確かにこれは拙いわね……はい、切ったわよ』

 

「ありがとうございます」

 

 

 考えてみれば、真由美は随分と達也に甘い。だが達也の方も真由美には結構甘いところがあるので、これはお互い様なのだろう。あるいは、持ちつ持たれつなのか。

 

「深雪、行くぞ。ほのかはここで待っててくれ」

 

「はい、お兄様」

 

「分かりました」

 

 

 さすがに戦闘を得意としているわけでもないほのかを、敵陣のど真ん中につれて行くわけにもいかない。達也に命じられ、ほのかも無理に着いていこうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で白刃が閃く。回避行動は完全に直感頼りのものだった。ミカエラを突き飛ばし、リーナはその反動で自分も後ろに転がった。砂だらけになりながら、内ポケットから旧式の情報端末を取り出す。リーナが側面のスライドスイッチを滑らせると、端末が前後に割れた。その中から現れる、板状の汎用型CAD。潜入工作員なら持っていて不思議のないギミックに、エリカも戸惑いはしない。

 エリカはリーナに目もくれず、まだ倒れたままのミアに向けて、片手突きの体勢に引き絞った小太刀の先端を向けた。

 

「何をするの、エリカ!?」

 

 

 叫びながら魔法式を構築。リーナがエリカを吹き飛ばす為の魔法を発動したが、その魔法はエリカを覆った魔法障壁――事象干渉力の塊に阻まれた。

 

「カツト・ジュウモンジ!?」

 

 

 愕然として振り返った先には巌のような巨体。サイズだけ見れば彼女にとって珍しくない体格だが、その存在感は見た事も無いほど巨大だった。

 事前の調査でも、その力量は要注意とされていた。だが実際に体験してみると、まだこれ程の強敵が潜んでいたのかと驚かずにはいられない。リーナが克人に気を取られた一瞬で、エリカは最後の一歩を詰めていた。

 

「ミア!?」

 

 

 仲間を案じた悲鳴は、見たものを信じられない驚愕の叫びにとって代わられる。ミカエラが素手で小太刀を受け止めていた。CADを使わず防壁の魔法を掌に纏わせて。その魔法は、白覆面の怪人が使っていた魔法と同じものだったのだ。

 

「どういう事……?」

 

 

 呆然と呟いたリーナの耳に、見計らっていたようなタイミングで囁きが飛び込んできた。

 

『リーナ、聞こえますか!?』

 

「シルヴィ?」

 

『良かった! 漸く通じた』

 

 

 通信機を通しての会話ではない。これはシルヴィの得意とする魔法だ。肉体を介さず、空気を音として振動させ、空気の振動を音として読み取る。相手を特定する事が出来れば距離に関わりなく、障害物の有無に拘わらず通信機も盗聴器も必要ない。通信機を手に取る余裕が無い状況では便利な魔法だ。

 

『例の白覆面の正体が分かりました! ミアだったんです! 白覆面の正体はミカエラ・ホンゴウです!』

 

 

 リーナの意識が空白に埋め尽くされる。だがそれは一瞬の事だった。

 

「ミア、貴女が白覆面だったんですか!?」

 

 

 リーナにとってミカエラは、単なるチームメイトでしかない。それでもミカエラが何度も殺し合いを演じた相手だったという事実は、リーナに小さくないショックを与えていた。

 そんな極めて人間的な反応を見せているリーナへ、エリカと睨み合っていたミカエラが視線を向ける。だがそれは潔白を主張するのでも悔恨を告げるものでもなく、敵を警戒する冷たい、非人間的な眼差しだった。

 

「何を今更!」

 

 

 エリカは吸血鬼とリーナがぐるだったと思い込んでいる。そんな彼女には白々しいとしか聞こえないリーナの叫びを言葉で斬り捨て、隙を見せたミカエラを刃で斬り伏せるべくエリカは小太刀を振るう。

 一歩で距離を詰め、ミカエラの首へ水平に走ったエリカの斬撃は、手品のように軌道を変えてミカエラが掲げた手を掻い潜り正面から胸を貫いた。

 だが次の瞬間、厳しく表情を引き締めたのはエリカだった。スカートをはいている事に頭から頓着せず、足を振り上げミカエラの腹を蹴りつける。その反動で小太刀を抜き、更に軸足でジャンプしてエリカは大きく後方に跳び退った。

 エリカの残像をミカエラの右手が薙いだ。鉤爪状に曲げられた指は、角錐状の力場を纏っていた。貫かれた胸の穴は、エリカやリーナが見ている前で瞬く間に塞がった。

 

「治癒魔法!? あの傷を一瞬で!?」

 

「どうやら本物の化け物みたいね」

 

 

 リーナが愕然とした声を上げ、エリカがミカエラを睨みつけながら吐き捨てる。

 

「だったら、これでどうかしら」

 

 

 その声は、トレーラーの陰から聞こえた。その声と共に冬がいきなり勢力を増した。ピンポイントに、ミカエラへ向かって凍気が襲い掛かる。物理的にも魔法的にも、抵抗する間もなくミカエラは凍りついたのだった。




無理が無い程度に改変していきたいですが、難しそうだな……
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