劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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前回ミアを助けたから色々と変わってます


VSパラサイト

 達也と克人がパラサイトを迎撃している場所から少し離れた場所で、幹比古はパラサイトの動きを観察していた。そして、パラサイトが誰を狙っているのかを特定したのだった。

 

「拙いな、エリカが狙われてる……エリカに対抗手段が無い事がバレたのか……」

 

 

 白兵戦ならエリカは既に高校レベルをゆうに超しているのだが、相手が見えなく遠距離攻撃主体では、エリカには対抗手段が無い。その事は幹比古も、おそらくエリカも十分に理解している事だろう。

 

「吉田君、結界を解いてください」

 

「柴田さん?」

 

 

 どうするか悩んでいたら、美月がそんな事を言いだした。幹比古としては、これ以上美月を危ない目に遭わせたくなかったのだが、美月の妙に意気込んでいるような雰囲気と声音から、即時否定はしなかった。

 

「結界を解いてどうするって言うんだい?」

 

「私、見ます」

 

「見るって、パラサイトを? 危険だよ! 今度は柴田さんが狙われるかもしれない」

 

「分かってます。でも、見なきゃいけない気がするんです! 理由は分かりませんけど、皆さんが必死になって戦ってるのに、私だけ安全な場所にいちゃいけない気がするんです」

 

 

 美月は、自分が戦闘用の魔法が得意ではない事を自覚している。だからこれまでは前線に出て戦う、などという事は無かったのだが、今回だけはそれじゃいけないと思ったのだろう。

 幹比古は暫く考えて、懐から取り出した物を美月に手渡した。

 

「これを首から掛けておいて。万が一の時、柴田さんを護ってくれるはずだから」

 

「分かりました」

 

 

 幹比古は美月がそれを首に掛けたのを確かめてから結界を解く。すると美月の視界がよりクリアになり襲い掛かるパラサイトが視えた。

 

「あそこです!」

 

 

 美月が指さした方から触手らしきモノが伸びてくる。幹比古がどうにかしようとしたが、それより先に無系統魔法の弾丸がその触手を弾き飛ばした。

 

「達也っ!」

 

「いい加減ジッとしてるのもな」

 

「司波、吉田、一気に片付けるぞ」

 

 

 克人の一言に、達也と幹比古が頷いて返答する。幹比古の本心からすれば、意気込んで片づけられるなら苦労はしない、とでも言いたかったのだろうが、先輩であり十師族の克人と、何でもありの達也がいれば何とかなるのかもしれないと思えたのだろう。

 

「美月は向こうに行ってろ。先輩の防壁の中なら安全だ」

 

「分かりました」

 

 

 結界を解いた事でこの場が危険地帯だと理解していた美月は、達也の言葉に素直に従った。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

「わ、分かりました!」

 

 

 美月が避難したのを確認して、克人がそう声を掛ける。幹比古は若干恐れを抱いていたが、それでもしっかりと返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子三人がパラサイトと戦っているすぐそばで、女子たちは気になる事をリーナに聞いていたのだった。

 

「それで、その女とリーナの関係は? 本当に共犯じゃないの?」

 

「だからそう言ってるでしょ! ミアがあのパラサイトに操られていたなんて気が付かなかったの」

 

「でも、隣で生活してたんでしょ? 怪しい動きとか無かったの?」

 

「ミアとワタシはそれほど親しくしてたわけじゃないのよ。そりゃ偶には一緒にお茶したりはしたけど、頻繁に会うような間柄じゃないの」

 

「それで、支配していたパラサイトが彼女から抜け出したって事は、その人は用済みって事なのかしら?」

 

 

 エリカが聞き難そうにしていた事を、深雪はあっさりと口にした。普段達也の陰に隠れているから気づかなかったのだろうが、深雪もこういった事を平気で口にするのだ。とても普通の女子高生とは思えない。

 

「分からない……パラサイトの事はUSNAでも良く分かって無いのよ」

 

「使えないわね……」

 

「タツヤと同じ事言わないで!」

 

 

 ついさっき達也に言われた事を、今度は妹の深雪にも言われ、リーナは大声を上げた。

 

「それよりも、エリカと美月がここにいるって事は、パラサイトの狙いはここなんじゃないのかしら?」

 

「そうかもね。でもタツヤとカツトがパラサイトの動きを止めてるし、ミキも頑張ってるから大丈夫じゃない?」

 

「ところでリーナ、その人……生きてるの?」

 

 

 エリカが見たところだと、ミカエラを支配していたパラサイトが抜け出した時、彼女は爆発したはずなのだ。それなのに見た目には何処も外傷はなく、それどころか汚れも見当たらない。

 

「生きてるわよ。意識を失ってるだけで、呼吸はしっかりしてるもの」

 

「ですが、あれほどの爆発で何も無いのはおかしいですよね……パラサイトの治癒スキルが残ってたんでしょうか?」

 

 

 人を疑う事を苦手とする美月は本気でそう思っている様子だったが、エリカは別の可能性の方が大きいと思っていた。

 

「(この人を助けたのはおそらく達也君。それもあの一瞬で……どれだけの痛みを感じたんだろう……)」

 

 

 四肢が吹き飛んでもおかしくは無い爆発だった。その中心にいたミカエラを達也本来の魔法で助けたとしたならば、エリカの想像を絶する痛みが達也に襲い掛かった事だろう。

 

「(普段冷たい癖に、何でそんな時だけ人間味を出すのよ……)」

 

 

 人助け自体は悪い事では無いとエリカも理解している。それでも、今まで自分たちを苦しめ人も殺してきたはずの相手の自爆をわざわざ助けるのはおかしいとも思っている。例え支配されていただけだとしても、エリカにはミカエラを助けた達也の気持ちが理解出来なかった。

 

「……カ、エリカ」

 

「っえ? 何、ゴメン何も聞いて無かった」

 

「パラサイトはお兄様たちが撃退してくれたから、もう移動出来るわよ」

 

「そうなの? さっすが達也君ね。あんな得体の知れない相手を撃退するなんて」

 

 

 女子陣はパラサイトを撃退した事を喜び、また安堵したが、パラサイトと戦っていた男子陣、達也と克人はこの結果には満足していない。

 撃退ではなく撃破したかったのだが、有効な手立てが無い中での戦闘だったので、今はこれで満足しておくしかない。もし不満だと知られたら、女子陣を不安にさせてしまうから。

 

「さてと、リーナ」

 

「なに、タツヤ?」

 

「彼女――ミカエラ・ホンゴウの訊問は十文字先輩たちに任せてもらうぞ」

 

「……分かったわ。その代わり、ワタシも同席させていただけないでしょうか」

 

 

 リーナの申し出を受け、達也は克人に視線を向けた。

 

「良いだろう。ただし、同席だけだ。口出しは許さん」

 

「……それで構わないわ」

 

 

 有無を言わさぬ圧力に、リーナはただただ従うしか道は無かったのだった。




エリカの反応は、負け惜しみなのか、それとも嫉妬なのか……

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