達也の発言を聞いて、レオもエリカも、美月でさえも言葉が出ない様子だった。その三人を、深雪が面白そうに見ているのを見て、達也は思わず苦笑いを浮かべた。
「えっと……そんな魔法あったか?」
「無かった……と思いますけど」
「それってつまり、新しい魔法を理論的に編み出したって事じゃない?」
漸く反応を示した三人に、達也は再び苦笑いを浮かべながら否定した。
「編み出したと言うよりは、偶然発見したって言った方が確かなんだけどな」
「偶然? それでも凄い事じゃないですか! 理論的に新しい魔法を編み出すなんて、高校生で出来る事じゃないですよ!」
謙遜したように捉えたのか、美月がもの凄い勢いで興奮し始めた。その勢いに、深雪もエリカもレオも押され気味だったが、達也だけは全く動じてなかった。
「美月、そんなに騒いだら周りの人たちに迷惑だぞ」
「あっ! スミマセン……」
自分が興奮していた事に気がついた美月は、萎んだように大人しくなった。それを見た達也は一つ頷いて説明に戻る事にした。
「二つのCADを同時に使おうとすると、サイオン波が干渉して殆どの場合で魔法が発動しないのは知ってるよな?」
「ああ、知ってるぜ。前に試した事がある」
「うわっ、身の程知らずね」
「なんだと!」
「エリカちゃん、レオ君も今は達也さんの説明の続きを聞きましょ?」
言い争うパターンになりかけたのを、美月が落ち着かせた事で今回はそこまで発展しなかった。
「俺としては此処で終わらせても良いんだが、聞きたいって? それで、このキャスト・ジャミングもどきは、その干渉波を利用して使うんだ。一方のCADで妨害する魔法の起動式を展開し、もう一方のCADでそれとは逆方向の起動式を展開、その二つの起動式を魔法式に変換せず起動式を複写増幅し、そのサイオン信号波を無系統魔法として放てば、各々のCADで展開した起動式が本来構築すべき二種類の魔法式と同種類の魔法式による魔法発動を、ある程度妨害出来るんだ」
達也の長々とした説明を、三人はポカンと口を開けながら聞いていた。あまりにも専門的な説明だったので、気軽に聞いた事を少し後悔してたのだ。
「だけどよ、高周波ブレードってのは常駐型だろ? 発動した後でも妨害出来るのか?」
その中でも、レオが気になった事を達也に質問した。
「常駐型でも、魔法式を永続的に維持出来る訳じゃないからな。いつかは必ず起動式の展開をしなおさなければならないんだ。今回はそのタイミングを上手く掴む事が出来たから妨害出来たって訳だ」
「うへぇ……」
「けほっ!?」
不意に美月が咳き込んだ。既に空になっているグラスに気付かず、そのままストローを吸い続けた結果咽てしまったのだ。そのおかげか無表情だった美月の顔に、驚愕の表情が浮かんできた。
エリカも眉間に皺を寄せて何かを考えているようだが、表情から察するにおよそ楽しい事では無さそうだった。
「でもよ、何でこんなスゲェ事をオフレコにしたがるんだ? 特許を取れば儲かりそうなのに」
「確かに……達也君、そっちにも理由があるんでしょ?」
レオの疑問にエリカも乗ってきた。如何やらエリカが考えていた事をレオが代弁した形になったようだ。
「一つはこの魔法が未完成だという事だ。相手は魔法を発動しづらくなるだけなのに、此方は全く使えなくなるんだ。これだけでも相当致命的なのに、それ以上に問題なのは、アンティナイト無しで魔法を妨害出来る仕組みそのものに問題がある。魔法が差別の原因だと決め付けている反魔法団体がこの事を知れば、喜んで使うだろう。自分たちは魔法を否定しているのにこの魔法を使うなんて矛盾してるが、国防や治安でも魔法は不可欠なものになってるんだ。この問題が解決出来るまではこの技術を公開する気にはなれない」
またしても達也の長々とした説明に、三人は驚きと納得の表情で頷いた。
「そんな事まで考えてるなんて……」
「新しい魔法を生み出したんだぜ? 俺だったら目先の利益に飛びついちまうだろうがな」
「達也さんはしっかりと先を見据えてるんですね」
三人が感想を言った後、今まで黙っていた深雪が笑いを堪えているような感じで言う。
「そうは言っても、発動途中の起動式を読み取るのも、CADの干渉波を投射する事も誰にでも出来る事じゃありませんし。お兄様だから出来る事なのですから、もう少しお兄様はご自身に自信を持っても良いと思うのですが、そこがお兄様の良い所なのでしょうね」
「それは暗に、俺が優柔不断のヘタレだと言ってるのか?」
達也の発言に、深雪が激しく反論した。
「お兄様は優柔不断でも、ヘタレでもありません! そんな事を言うなんて、例えお兄様本人でも許しませんよ!」
「ちょっと深雪、周りのお客さんに迷惑だよ!」
「そうですよ! 少し落ち着いて下さい」
「……ゴメンなさい」
エリカと美月に宥められ、漸く落ち着きを取り戻した深雪。レオは深雪の反論に驚きの表情を浮かべていたが、達也は涼しい顔してコーヒーを啜っていた。
「冗談に本気で返されるとな。本当にそう思われてるんじゃないかと疑ってしまうぞ?」
「ですから、お兄様はそんなんじゃありません! これは深雪がはっきりと断言してさしあげます!」
「アタシも、達也君は優柔不断でもヘタレでも無いと思うな」
「達也さんははっきりと物事を決められそうですし、思ったことははっきりと言う方だと思います」
「ありがとう、三人とも」
本気でそう思われてると分かる達也は、素直にお礼を言った。だが深雪は兎も角、何故エリカも美月も言葉に力が篭ってるのかが、達也には理解し難かった。
「さてと、聞きたい事も聞いたし、飯にしようぜ」
「アンタってホント食い意地が張ってるわね」
「そう言うテメェだってメニュー開いてるじゃねぇかよ!」
「だって難しい事を聞いてお腹減ったんだもん」
せっかく静かになったと思ったら、エリカとレオがまた衝突しかかった。だが今回は美月も止めようとはしなかった。何故なら――
「達也さん、私はこれが食べたいです」
「あ、あぁ分かった」
――彼女もまた空腹だったからだ。
達也の説明を聞いて散々頭を働かせたのだろう。普段授業をしてくれる教師が居ない分楽をしているので、このような専門的な説明を聞くと、座学の成績優秀な美月でもかなりのエネルギーを要したのだろう。
「お兄様、では私はこれを」
「分かった。エリカとレオは要らないんだな?」
「「要る! ……被るな!!」」
まったく同じタイミングで返答した二人を見て、深雪と美月は楽しそうに笑ったが、達也は少し頭痛を覚えていた。
「さっきから言ってるが、周りに迷惑だぞ」
「「あっ……」」
同じ事で注意され、二人は恥ずかしそうに頭を掻いた。こうして達也の即席キャスト・ジャミング説明は幕を下ろし、友人との早めの夕食を摂る事になった。
書いてて説明くさいと思いました……書くのも読むの疲れました。