劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作より真由美のデレ具合がアップしてる為に、こんな展開に……


嫉妬

 携帯端末にダウンロードした使い捨てのキーコードを使って、真由美が鍵を開けた部屋は、父兄や業者との面談に使う談話室の一つだった。応接室ほど格式張って無いが、生徒だけで使うには少しばかり気が引ける作りになっていた。

 

「(良いのだろうか……)」

 

 

 生徒だけで使うのは憚られるような部屋だが、キーコードをダウンロード出来た時点でそれを問うのは今更だろうと思いなおし、口にするのを止めた。

 全自動のティーサーバーが置いてあるのは、飲食可能な部屋を選んだと言う事だろう。

 

「紅茶でいい?」

 

「いえ、お構いなく」

 

「女に恥をかかせないの」

 

 

 そこまで言われれば頷くしかない。全自動といっても紙コップが自動的に出てくるタイプのチープなものではない。ティーカップを抽出口の下にセットしたり、カップに合うソーサーを用意したりの手間はかかる。

 その手順を真由美は楽しそうにこなしていた。

 

「はい。どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 礼儀としてカップに一口つけてから、達也は居住まいを正した。それにつられるように、真由美も腰を下ろして背筋を伸ばす。

 

「相談というのは『吸血鬼』のこと?」

 

「ええ。マスコミに情報が出て来なくなりましたが、被害は沈静化してるのですか?」

 

 

 口火を切ったのは真由美の方だった。彼女も達也と話したいと思っていたのかもしれないと、達也の方でも納得してそのまま話を続けた。

 

「表面的には、沈静化してるわね。ただ、行方不明者が何時もの年に比べて多いって事だから、相手の動きが巧妙化した、と解釈するべきでしょう。一匹仕留めた事で警戒されちゃったのかもね」

 

「仕留めた、と決まったわけではありませんが、多分警戒されているのでしょうね。もしかしたら仲間同士、共知覚を備えているのかもしれません」

 

「きょう……知覚?」

 

 

 耳慣れない言葉に、会話の流れを中断して真由美が小首を傾げた。

 

「共有感応知覚能力の略語です。一卵性双生児の間で観測される事が多い五感外知覚力(E・S・P)の一種ですよ。多いといっても、希少な事例の中で比較的、ですけど」

 

「つまり、一個体が見聞きしたものをグループ全体で体験して共有する、ということ?」

 

「憶測に過ぎませんけどね」

 

 

 真由美が難しい顔で考え込んでしまい、達也がその邪魔をしないよう音を立てずに紅茶を飲んでいると、真由美が何かを呟いた。

 

「……分からない事ばっかりで嫌になっちゃう」

 

「未知の事態は手探りで対処法を見つけていくしかありません」

 

「……そうじゃないんだけど」

 

 

 中身が無い事を言っている自覚があった達也だったが、どうやら真由美の視線には全く別の意思が込められていた。

 

「共有感応知覚能力、って言葉の意味が全然解らなかったのが、ね……ねぇ、それ入試には出ないわよね?」

 

「……ESPは魔法学とは別の学問領域に属すると見做されていますから、出ないと思いますよ」

 

 

 見詰められていた事で感じていた居心地の悪さは、その質問で最高潮に達した。

 

「こんなところかな。じゃあティータイムにしましょう」

 

 

 情報交換を終えて、達也としてはさっさと帰りたかったのだが、真由美にガッチリと腕を掴まれてしまったので大人しくその場に留まった。

 無論、達也の体術ならば真由美の手から逃げる事も可能だったのだが、別に敵意は感じないし、深雪も生徒会室で作業中なので急ぐ事もない、と考えを改めたから大人しくしたのだ。

 

「ね、これ食べてくれないかな?」

 

 

 真由美の手に握られているのは、間違い様が無いくらいの本命チョコだ。先ほど服部が食べさせられたものとは別物である事は、達也の良く利く鼻で確認済みだ。

 

「帰ってから頂くのではいけないのでしょうか?」

 

「だって達也君……いっぱいチョコ貰ってるでしょ? ドレが誰のかなんて覚えてないでしょ? だから今食べてもらって感想を聞きたいの」

 

「覚えてますけど……まぁ、仕方ないですね」

 

 

 達也の記憶力を甘く見ていた真由美は、達也の答えに驚きの表情を見せたが、達也が観念して食べてくれると言う事で、その表情は喜びに取って代わられた。

 

「ね、どうかな?」

 

 

 達也の返事に、真由美が満面の笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会の業務で準備棟に向かっていた。日は既に傾いており、なるべく急いで仕事を終わらせた方が良い時間帯である事が分かる。

 

「あれ、ほのかじゃん」

 

「エイミィ」

 

「珍しいね。ほのかがこっちに来るなんて」

 

「うん、五十里先輩の代理でね」

 

 

 今現在、五十里は未だに花音からチョコレートを食べるように強要されている。昼休みの間では食べきれず、放課後も花音は生徒会室に入り浸っているのだ。

 

「ふーん……あれ、それ水晶?」

 

「あ、うん」

 

「司波君から?」

 

「う、うん」

 

 

 目敏くほのかが付けている髪留めを見つけ、更にそれが達也からの贈り物である事を見抜いたエイミィ。ほのかは恥ずかしがりながらもハッキリと答えたのだった。

 

「チョコのお返しだって。ホワイトデーとは別だって言ってたけどね」

 

「予めお返しを用意しておくなんて、さすが司波君。大人だね~。人気が高いのも納得だよ」

 

 

 うんうん、とエイミィが頷いている横で、ほのかが不思議そうに首を傾げた。

 

「さっき会長と一緒にいたんだけど、あれって絶対チョコを渡そうとしてたんだよね。悪いタイミングで声をかけちゃったって反省してたんだ」

 

「会長?」

 

「あっ、間違えた。前会長、七草先輩。あれは絶対本命チョコだよ」

 

 

 エイミィの話を聞きながら、ほのかは別の事を考えていた。

 目下達也争奪の最大のライバルは深雪だが、彼女は達也と血の繋がった兄妹だ。最後の最後でその事実があるので、ほのかは心のどこかで安心していた。

 だが真由美にはその枷は無い。容姿も魔法力も自分より真由美の方が上だと言う事を理解している。唯一のアドバンテージは「年上では無い」と言う事だが、達也が二つくらいの年の差を気にするとは思えなかった。

 

「おーい、ほのか? 聞いてる?」

 

「ゴメン、仕事急がなきゃ」

 

「そっか。ごめんね、邪魔しちゃって」

 

「ううん、大丈夫だから」

 

 

 八つ当たりしないように注意しながら、ほのかは早足でエイミィの傍から離れた。自分が何を焦ってるのか、自覚しないようにして。




自分で改変してるのに、ほのかが可愛いと思ってしまう今日この頃……

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