劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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そろそろ入学編のさわりですかね


襲撃者と観察者

 新人勧誘週間も終わりに差し掛かってるにも関わらず、相変わらず達也は風紀委員の仕事で奔走していた。

 

「……分かりました、すぐ向かいます」

 

 

 今日も今日とて達也が巡回してる場所の近くで乱闘騒ぎが勃発したのだ。近くに居るのにも関わらず、現場に行かないと言う選択肢は達也の中には無かったし、もしあったとしても選ばないだろう。

 

「どうも狙われてるようだが、いったい何がしたいんだか……」

 

 

 一回二回なら偶然で済ませる事が出来ただろうが、一日に五回六回となると、これはもう狙って問題行動をしてるとしか思えないのだ。

 

「二科生相手にムキになってる時点で負けを認めてるって分からないとはな……」

 

 

 達也が桐原を倒した事にムキになって一科生が結託して達也を狙った攻撃に出てると達也はとっくに気付いていたのだ。

 

「(サイオン光、狙いは俺を転ばせる為に地面を陥没か……陰湿さが増してるな)」

 

 

 初めの方は直接攻撃だったのに、最近ではこうやって周りのものを使って攻撃してきたりするようになっているのだ。

 

「ッ!?」

 

 

 キャスト・ジャミングもどきで相手の魔法を無効化し、達也は術者の方に向かう。それに気付いたのか、術者が木陰がら猛スピードで逃げ出したのだ。

 

「自己加速術式、この場での追跡は難しいか……」

 

 

 達也の技術なら追えない事も無いが、敵意剥き出しの観察者の他にも、三人ほど自分の事を見てるのに気付いている達也は、おいそれと自分の力を見せる訳にはいかなかったのだ。

 

「(キャスト・ジャミングもどきは兎も角、本来の魔法を使ったらもどきどころの騒ぎじゃなくなるからな……最悪学校を辞めなければならなくなる)」

 

 

 達也本人としては、そこまで学校に執着してる訳では無いのだが、深雪が通ってるのに自分が辞めるなんて事になったら暴走するかも知れないのだ。

 兄としても妹が暴走する原因をなるべくなら取り除きたいので、達也は今回の追跡を諦めたのだった。 

 だが、襲撃者の腕に巻かれていたリストバンドを、達也はしっかりと見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が襲われる少し前、屋上から達也を観察している三人の少女が居た。二人はバイアスロン部のユニフォームで、もう一人は乗馬スタイルと言った不思議な格好だが、勧誘に巻き込まれない為にもこの格好は必要だったのだ。

 

「これなら部活が決まってるって分かるだろうしね」

 

「うん、それに制服だと汚れちゃうし」

 

「汚れるのは一緒だと思うよ……」

 

 

 ほのかのツッコミを、雫もエイミィも無かったものとして話を進めていく。ほのかも諦めて付き合う事にしたのだった。

 

「ターゲットは……おっ、発見!」

 

「忙しそうだね」

 

「うん……」

 

 

 例の闘技場での騒ぎの後、ほのかたちのクラスでも達也の事は噂になっている。もちろん友好的では無く敵意剥き出しの噂だが……

 

「なんか、私たちお兄さんのストーカーみたいだね」

 

「す、ストーカー!?」

 

「違うよ!? 私たちは達也さんが襲われないか監視してるだけで、決して付き纏ってるとかじゃないからね!?」

 

「う、うん……分かってるけど、何で二人はそんなに慌ててるの?」

 

 

 自分で言っておきながら、エイミィはそれほど自分たちがストーカーだとは思っていなかったのだが、ほのかと雫が過剰に反応した為に、「あっ、これストーカーだと思われても仕方ないかな」と思い始めたのだった。

 

「! サイオン光!」

 

「場所は……あ、あれ?」

 

 

 達也の周りにサイオン光が現れたと思った次の瞬間、その光は霧散した。

 

「居た! あそこの木陰!」

 

「駄目だ、間に合わない……」

 

「でも、顔はバッチリ見えたよ!」

 

 

 襲撃者を捕らえる事は無理だったが、顔を見れたのは大きな収穫だった。

 

「それにしても、さっきのはキャスト・ジャミングだったよね?」

 

「うん、雫の家で見せてもらったのと同じだった。でも、達也さんがアンティナイトを持ってるようには見えないんだよね……」

 

 

 先日達也のクラスメイトには説明した技術を、ほのかも雫も知らないのでこの疑問は当然だった。キャスト・ジャミングを使うにはアンティナイトを持ってなければいけないと言うのは常識だからだ。

 

「でも、お兄さんが怪我しなくて良かったね」

 

「そうだね…達也さんが怪我したら深雪が黙ってないだろうし」

 

「また教室が氷漬けになっちゃうよ……」

 

 

 

 既に一回教室を氷漬けにした事があるような口ぶりに、クラスの違うエイミィは驚いた。

 

「司波さんって、そんなに危険なの?」

 

「普段はそうでも無いけど、達也さんの悪口とか言われると」

 

「深雪は感情が制御出来なくなると魔法をCAD無しで発動しちゃうって言ってたね」

 

「それで、如何やって復活したの?」

 

「それが……」

 

 

 雫が答えに窮してるのを見て、エイミィは好奇心剥き出しで迫った。完全に面白そうなものを見つけた時の目をしている。

 

「何々~正直に白状しちゃいなさいよ! このエイミィに隠し事なんて出来ないんだからね」

 

「よく分からないの」

 

「え?」

 

 

 雫が答えを誤魔化してるようには思えなかった。つまり本当に分からないんだとエイミィは理解したのだった。

 

「でも、氷漬けになった人が勝手に復活するかな?」

 

「深雪も溶いてないって言ってたけど、何だか心当たりがありそうな表情だったね」

 

「でも、とっても辛そうな顔してた」

 

 

 暫くその事を考えていた三人だったが、考えても答えが見つからないと思いその悩みは一先ず置いておく事にした。

 

「それにしてもあの襲撃者、何処かで見たような気がするんだよね」

 

「でも、何処でだっけ……」

 

「生徒会なら分かるかも」

 

「思い出した! 剣道部の主将だ!」

 

「それじゃあ生徒会で確認すればいいんだね」

 

 生徒会室に居る深雪に手伝ってもらえれば、すぐにでも達也を襲った犯人を確定する事が出来る。出来るのだが……

 

「その事を如何やって深雪に伝えればいいの?」

 

「もし達也さんが襲われたって素直に言ったら、特定した時点でその人の身が危なくなるよね……」

 

「でも、自業自得だよ?」

 

「でも、達也さんはそんな事望んでないと思うの!」

 

「それなら、他の部活動も気になるから、何か資料を見たいって言うのは如何かな?」

 

 

 雫とほのかの雰囲気から、冗談では無く本気で深雪は犯人を氷漬けにしてしまうのだろうと察したエイミィは、他の手段を提案する。

 

「それなら疑われ無さそうだけど……」

 

「もう私たちはクラブ決めちゃったって深雪に話しちゃったし」

 

「OGの問題行動に巻き込まれたんでしょ? 現部長が問題無いか気になったとか言えば大丈夫だよ、きっと」

 

「そんな無責任な……」

 

「でも、他に方法は無さそう」

 

 

 エイミィの無責任な発言に呆れ気味のほのかと、意外と乗り気の雫を見て、エイミィは無邪気に言い放つ。

 

「ほのか、女は度胸だよ!」

 

「分かったよ……」

 

 

 良く分からない説得に負け、ほのかは生徒会室に行く事を決めた。自分一人なら絶対に出来なかっただろうが、今回は雫も一緒に来てくれると言う事が最大の決め手だっただろう。

 ほのかも雫も心の何処かでは達也が襲われた事を面白く思って無く、その犯人を自分たちで捕まえようと思ってる事には気付いていなかったのだった……




深雪が氷漬けにした人が復活した理由は、分かる人には分かると思います。

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