劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ほのか編よりは甘さ控えめなはず……


甘IFルート 真由美編

 卒業式を済ませ、真由美は第一高校を訪れる理由が無くなってしまった。家にいても父親と言い争うだけだろうしと言う事で、自由登校ながら第一高校に入り浸っていたのだが、それももう出来ない。原則的に、どこの高校も部外者の出入りには厳しい。元生徒会長とはいえ、真由美も例外ではないのだ。

 卒業式から春休みまでの間は、真由美も大人しく自宅で生活していたのだが、この度晴れて春休みに突入した事をきっかけに、真由美は実家を出て司波家で生活を始めた。

 

「あれ? 達也君、彼女は……」

 

「『実家』からの楔です。名前は桜井水波、学校では俺たちの従妹と言う事になる予定の調整体魔法師です」

 

「そっか……やっぱり四葉でもそう言った研究は続けられてるんだね」

 

「むしろ四葉が筆頭になって続けてると言っても良いと思うんですけどね、俺は」

 

 

 自分と深雪が四葉の人間であると伝えてあるので、真由美には水波について方便を使う必要は無い。むしろ同じ十師族の娘である真由美には、隠さなくても問題は無いと達也は判断したのだった。

 

「それよりも、本当にここで生活するんですか?」

 

「本当なら卒業と同時に、ってつもりだったんだけどね。達也君も色々と忙しそうだったから、今日まで我慢したんだよ?」

 

「……忙しい理由は知っていますよね。七草先輩だって色々とあったはずですし」

 

「………」

 

「なにか?」

 

 

 無言で自分の事を見詰めてくる真由美に、達也は特に動揺した様子も見せずに問う。この辺りがどちらが年上だか分からないと言われる原因なのだろう。

 

「達也君さぁ、さっきから敬語だったり『七草先輩』だったり、誰も見てないんだからさ……」

 

「水波が見てますよ。それに、俺は元々七草先輩には敬語です」

 

「わざとやってるでしょ? 折角お付き合いしてるんだから、彼氏にはため口で喋ってもらいたいし、名前で呼んでもらいたいのよ」

 

「そんなものなんですか?」

 

 

 真由美が答えてくれないと判断すると、達也は背後の水波に視線で問い掛けた。

 

「そうですね。世間一般的な考えは私にも分かりませんが、恋人関係にある異性には名前を呼び捨ててもらいたいと私も思います」

 

「その辺りは俺には分からないからな……だが、水波もそう思うと言う事は世間一般でもそうなのかもしれないな」

 

 

 感情の殆どが無い達也と、四葉家という閉鎖的な空間で育った水波に、世間一般の感情など分からないのだが、二人はそれで納得したのだった。

 

「ねぇ……二人が特殊な存在だって事は分かったけど、悲しくなるからそのやり取りは止めてくれない」

 

「悲しく、ですか……別に気にする必要は無いんですけどね」

 

「とにかく! 達也君は私に対してずっと敬語だし、ずっと『七草先輩』呼ばわりなんだもん! もう卒業したんだから、先輩は止めてよね」

 

「卒業したからと言って、先輩が先輩で無くなるわけではないのですが……まぁ、仕方ありませんね」

 

 

 達也は一旦間をおいてから口を開く。間を置いたのは、自分の為ではなく真由美の為だ。

 

「とりあえず座ってくれ。真由美の部屋は何処にするか……」

 

「達也君と一緒の部屋が良いな」

 

「俺の? だが毎日深雪と魔法大戦争を繰り広げられるのは勘弁してもらいたいのだが」

 

「妹と彼女なら、彼女の方が立場は上よ。それに、私は学校の先輩でもあるんだから、深雪さんには遠慮してもらうわ」

 

「……さっきは先輩は止めろと言ったくせに」

 

 

 真由美は、達也に上げ足を取られて顔を赤らめる。だが水波には、別の理由で真由美の顔が赤くなっているのだと思えた。

 

「達也さま、真由美さまの部屋でしたら私の部屋をお使いください」

 

「だが水波は何処で生活するつもりなんだ?」

 

「私は使用人同然ですので、達也さまと同室で構いません。床に布団を敷けば問題なく生活出来ますので」

 

「お前も深雪と戦争したいのか? ガーディアン候補なら、ミストレスを刺激しかねない行為は控えるんだな」

 

 

 当たり前のように会話をしている達也と水波だったが、真由美には耳馴染みの無い単語が飛び交ったので慌てて二人の間に割って入った。

 

「ちょっと待って! ガーディアンって何なの? あと、ミストレスって……」

 

「真由美には言ってなかったっけか……四葉家では次期当主候補にはボディーガードがつくんだ。ただ一介のボディーガードではなく専属のおつき、ガーディアンをつけるんだが、このガーディアンは自分の意志では辞められない。ミストレスがガーディアンの任を解くまで一生続けるんだ。俺は現在深雪のガーディアンだし、水波は将来的に必要となる同性のガーディアン候補としてこの家に送られてきたんだ」

 

「四葉って……一個人の存在をなんだと思っているのよ」

 

「普通のガーディアンなら兎も角、俺は人工魔法演算領域で辛うじて魔法が使えるレベルだし、水波は調整体魔法師だからな。四葉家の力が無ければ魔法師として存在出来なかっただろうから仕方ないと言えるだろう」

 

「それでも!」

 

「真由美が気にする事じゃないさ。俺はいずれ四葉から抜け出すつもりだからな」

 

 

 その場合は深雪を見捨てる事になる可能性が高いのだが、達也としても何時までも四葉に縛られ続ける気持ちなど無いのだ。深雪も四葉を捨てて自分について来る可能性だってあるのだ。

 

「その時は私もお供しますよ。四葉家には感謝しておりますが、私は達也さまと深雪さまにお仕えするのですから」

 

「……私は達也君に一生ついていく。例え全魔法師を敵に回す事になっても、私は達也君と一緒にいるから」

 

「大袈裟だ。別に魔法師を敵に回すつもりはないし、シルバーとして稼げるから生活面でも問題は無いだろう」

 

「そう言えば達也君は『シルバー』でもあったのよね……ほんと、色々とおかしいわよ」

 

「おかしいとは失礼だな。戦略級魔法師だろうが、天才魔法技師だろうが、俺は俺だ」

 

「そうね。そして、そんな男性を好きになったのよね、私は」

 

 

 深雪が帰ってくるまで、真由美は達也に抱きついていた。水波の心中穏やかじゃない雰囲気は達也には伝わっていたが、真由美は全く気にしていなかった。

 そして、家族会議の結果、真由美は達也の部屋で生活していいと決定された。――達也の一声で、深雪も水波も諦めたのだ。




次回から、数話にわたってリーナのIFをやります

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