玄関での死闘を終えて、リーナは無事司波家に入る事が出来た。もちろん、これから色々な出来事があるだろうし、悉く深雪とは激突するだろうが、達也と同じ空間で生活出来るようになっただけで、リーナはその苦労を受け入れる覚悟が出来たのだ。
「それで、リーナは何故お兄様と同じ空間にいたいのかしら? 日本人は嫌いじゃなかった?」
「あら? そんな事言ったかしら」
「貴女は頑なに日本人の血が流れている事を認めようとしなかったくせに、日本人が好きだなんて言えるの? お兄様の命を狙ってた貴女が、お兄様の事を好きになるなんてあるのかしら? それとも、USNA軍最強の魔法師であるアンジー・シリウスは対象の魔法師を好きになるような不埒な気持ちで仕事をしていたのかしら?」
深雪の棘の有りまくるセリフに、リーナは怒りを爆発させるつもりだった。だが、二人の間に入った達也が深雪の毒とリーナの怒気を同時に収めたのだ。
「深雪、少し言い過ぎだぞ。リーナも、ここで生活するなら、深雪の冗談くらい軽く流せるようになるんだな」
「申し訳ありません、お兄様」
「タツヤがそう言うなら……」
「それより深雪、デバイスのチェックをしたいから手伝ってくれ」
「はい、畏まりました」
当たり前のように飛び出た単語に、リーナは驚きを隠せなかった。一般家庭でデバイスのチェックをするのが異常であると、軍属のリーナにも容易に理解出来たのだ。
「ちょっと待って! 何で自宅でデバイスのチェックなんてするのよ!」
「地下室に本格的な調整機があるんだよ。それ以上はリーナには関係ない事だからな。リビングでくつろいでいてくれ」
そう言って達也は地下室へと続く階段を下っていく、それに続くように深雪も階段を下っていく。その途中で、リーナに勝ち誇ったような顔を見せたのだが、幸いにして達也には気づかれなかった。
一方でリビングでくつろぐほか無くなったリーナは、兄妹二人で暮らしているこの家の広さに驚き、そして両親がいない事が気になった。実家を出て二人で暮らしているにしては、この家は広すぎるし、そういう事情ならほのかのようにマンションを借りるのが普通だ。
「USNA軍の調査でも、タツヤとミユキの両親については詳しく分からなかったのよね……母親が故人で、父親が再婚したとしか調べられなかったし……」
それが兄妹の両親についての認識でそれ以上は無いのだが、リーナは達也と深雪が、パーソナルデータ以上の能力を持っている事を身を以って知っている。だから両親についても疑ってしまうのだ。
「暇ね……さっき行ったから、地下室でも覗けないかしら」
この家に同居する事にした最大の理由である達也が地下室にいるのだ。そしてライバルの深雪も地下室にいるのだから、自分が地下室に行くのは当たり前である。などという建前を自分の心の中で呟き、リーナは地下室へと足を運んだ。音声認識のロックが掛かっていると先ほど言われたが、どうやら今はロックされていない状態のようだった。
「不用心ね……誰かが入ってきたらどうするのかしら」
自分の事を棚に上げて、リーナはロックが掛かっていない扉に手を掛ける。中で何が行われているのかなんて考えてもみなかったリーナが、その光景を見て驚いたのはある意味当然なのかもしれない。
「な、何でミユキは服を着てないの!? 何で達也は当たり前のようにミユキを見てるの!?」
「何でって、深雪に設定を合わせる為に測定していただけだ」
「それより、何でリーナが地下室に来てるのかしら?」
リーナの驚きに対して、達也は冷静に、深雪は敵を見るような目で対応した。実際このような光景は、司波家に限り頻繁に見受けられるのだ。他人がどう思うかは別として、達也と深雪には当たり前の事なのだ。
「そ、それは……ほら! ライバルのミユキがどんな事をしてるのか気になったし、タツヤの実力が少しでも見れればと思って……その……ごめんなさい」
無言の避難に耐えられず、リーナは素直に頭を下げた。その所為で視線も深雪から下がり、彼女が手にしている物に目が行ってしまった。
「それって……たしかFLTの最新モデルのCAD……何で貴女が持っているの? USNA軍だってまだ入手出来ていないのに……」
「そんな事リーナには関係ないでしょ? そもそも、お兄様はリーナにリビングでくつろいでいろと申しつけたはずよ。それなのに貴女の独断で地下室に来るなんて、この家で生活出来なくてもいいのかしら?」
「そこまで言う事じゃないだろ、深雪。それに、CADはモニターで安く譲り受けただけだ。何もやましい事は無い」
あずさにも使った方便をリーナにも使う。調べようがない事なので、これ以上は深追いしてこないだろうと思っていたのだが、リーナはイマイチ納得してはいなかった。
「モニターで譲り受けたって、FLTと繋がりが無きゃ出来ない事よね。タツヤはFLTとどんな関係があるのかしら?」
「大した事じゃない。俺と深雪の父親がFLTの本部長で、後妻も管理職だってくらいだ」
「ホントにそれだけ? マユミやマリから聞いたけど、タツヤの調整技術は一高で一番だって言われてるわよ? それこそ、本職の技術者に引けを取らないくらいだって」
「リーナ、貴女お兄様の何を知りたいのよ。変な勘ぐりをするなら、今すぐこの家から出ていってもらうわよ」
「別にそこまで言わなくても良い。教えても構わないが、他言無用だからな」
悉く言い争う妹とリーナを見て、達也は首を左右に振ってからリーナに真相を話す事にした。
「俺は『トーラス・シルバー』の片割れとして、FLTで働いている。USNA軍が大量受注した飛行デバイスは俺が術式を開発してトーラスが実用に耐えうるCADを開発したんだ」
「……タツヤがトーラス・シルバーだなんて」
「お兄様が仰ったように、この事は他言無用よ。もし誰かに話したと知ったら、貴女を止めるから」
深雪の脅し文句に、達也はツッコミを入れなかった。つまりはそういう事なのだと、さすがのリーナも理解して首を何度も縦に振ったのだった。
深雪が完全に小姑化してるぞ……