劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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派手な争いになるのか……


IFルートピクシー編 その4

 青木への粛清をする為に四葉家に滞在している深雪は、達也の事が気になってそわそわしていた。付き添いの水波も同様で、自分があの家で生活する事になった時に達也の世話は自分の仕事だと決めていたのに、早速このような事態になってしまったのだから、こちらもそわそわしてしまっても仕方ないのかもしれない。

 

「お兄様の事ですから、ピクシーに骨抜きにされるなんて事は無いでしょうけども……私たちがいない間にピクシーがあの家に居場所を作ってしまわないか心配です」

 

「あのロボットの所有権は達也さまがお持ちですが、貸借契約は生きたままなのですから。例え居場所を作ったとしても、あのロボットは一高に戻される運命ですよ、深雪さま」

 

「そ、そうよね。そもそもお兄様がお人形で遊ぶはずないものね」

 

 

 達也の事を信じている深雪だが、自分のいない家に別の女が――ピクシーはロボットだが、深雪の中では達也にちょっかいを出そうとしている女という認識なのだ――達也の世話を甲斐甲斐しくしていると思うと、魔法を発動させそうになってしまう。だが、ここには達也もいないし、四葉家内で問題を起こせば色々と面倒な事になるし、達也の立場にも影響が出るかもしれない。

 

「深雪様、青木が戻りました」

 

「分かりました。すぐに向かいます」

 

 

 扉越しに葉山に声を掛けられ、深雪は精神を落ち着かせる為に一つ息を吐いた。これから兄を侮辱し軽んじた相手に粛清出来ると思うと、思わず高揚してしまったが、今から興奮してたら青木に勘づかれる可能性があると判断して、普段の冷静さを取り戻す為の行為だ。

 

「水波ちゃん、行くわよ」

 

「はい、深雪さま」

 

 

 あくまでも付き添いで来た水波だが、今は達也が同行していないので、水波がガーディアンという事になっているのだ。屋内だろうと何処だろうと、深雪を護るのは水波の役目なのだ。だから青木への粛清にも付き添うし、命令とあれば自分も青木に攻撃する事を厭わないと思っている。

 

「あくまでも水波ちゃんは付き添いよ。青木さんへの粛清は私と叔母様がします」

 

「畏まりました、深雪さま」

 

 

 自分の心を見透かされた気持ちに陥ったが、それくらいで感情を表に出す水波ではない。それだけ訓練を受けてきているし、深雪ならそれくらい出来ても不思議ではないと水波は思っていたからだ。

 青木と対面した深雪と、先に待っていた真夜が揃うと、部屋の中が急激に暗くなり、気温も下がったような錯覚に陥ったと、後日水波は証言したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青木への粛清を終え、急いで自宅へ帰ってきた深雪と水波は、達也がいるであろう地下室へと向かった。リビングにピクシーがいたが、そっちに気を回している余裕は無かったのだ。

 

「お兄様、深雪です。ただいま戻りました」

 

 

 ドア越しに声を掛けると、中から人が動く気配がした。やはり達也は地下室にいたと、深雪は自分の直感が正しかったと安堵した。

 

「おかえり。早かったな」

 

「青木さんにお兄様を軽んじた罰を与えてきただけですから」

 

「俺を? 別に何時もの事じゃないか」

 

 

 達也は青木の態度について気にした事は無いが、深雪や真夜は何時も気にしていたのだ。その事は一応達也も知ってはいたが、自分を軽んじるのは仕方の無い事だと思っているので、青木の事をとやかくいうつもりは無かったのだ。

 

「それでお兄様、ピクシーは何か粗相をしませんでしたか?」

 

「特にそのような事は無いぞ。元々家事手伝いロボットだからな、作業は滞りなく進んでいたと思う」

 

「そうですか。では私と水波ちゃんはこれから掃除や洗濯をしますので、お兄様はどうぞ続きを」

 

「掃除や洗濯は既にピクシーが終わらせているはずだが」

 

 

 不思議そうに首を傾げた達也を見て、深雪と水波は慌てたように階段を駆け上がっていく。

 

「ピクシー、ちょっといいかしら?」

 

『はい、何でしょうか深雪さん』

 

 

 

 サイコキネシスで会話をしているが、この念話は水波にも聞こえている。そのようにピクシーが調整したわけでは無く、興味がありそうな顔をしていたので、深雪に聞かせるついでだというだけなのだ。

 

「私たちがいない間、お兄様のお世話をしてくれてありがとう。だけど今日からは私たちがやるから、貴女は大人しくガレージに帰りなさい」

 

『それは承諾致しかねますね。私に命令出来るのは達也さんだけです。いくら達也さんの妹である深雪さんであろうと、私に命令する権利はありませんよ。もちろん、水波さんにもですが』

 

「私は別に貴女に命令するつもりはありませんよ。ただ、達也さまのお世話は私たちの使命なのですから、ポッとでの貴女が私たちの仕事を取らないでください、とは言いたいですけどね」

 

『私は達也さんに仕えるのが生き甲斐なのです。それが私の存在意義であり、私が生まれた感情なのですから』

 

 

 パラサイト問題の詳細を詳しくは聞いていない水波は、ピクシーが言っている事の半分は理解出来なかった。ただハッキリと理解出来たのは、ピクシーもまた、達也に魅せられた内の一人で、自分のライバルになりかねない相手だという事だ。それが何のライバルなのかは、水波はあえて理解しようとしなかったが。

 

『私が達也さんの許にいられるのは後数日です。その間はお二人が我慢してください』

 

「ダメよ! お兄様のお世話は私の特権なんだから、水波ちゃんもピクシーも遠慮してください」

 

「いいえ、深雪さま。達也さまのお世話は、深雪さまのお世話同様私の使命です。深雪さまこそご自重ください」

 

『今現在この家の家事一切を達也さんから仰せつかっているのは私です。深雪さんも水波さんも達也さんの意志を無視する事になりますが、それで良いんですか?』

 

 

 リビングの入り口付近で言い争っている三人の脳天に、軽い衝撃が走った。慌てて振り返ると、頭を抑えながら呆れた表情を浮かべた達也がそこに立っていた。

 

「騒がしいぞ。そんなにやりたいのなら、三人で分担すれば良いだろ。それが出来ないのなら、俺は自分の事は自分でやる」

 

 

 この達也の脅しに、三人は渋々ながらも分担して作業する事に決めたのだった。後日ピクシーが一高に戻されたのだが、再び誤作動を連発した所為で、保管場所をガレージから司波家に移されたので、再び三人で分担して作業する事になったのだった。

 ピクシーが達也の部屋で寝た事は、今のところ深雪たちにはバレていないが、それがバレたらまた面倒な事になると、達也はそんな事を思いながら、今日も三人に世話を焼かれるのだった。




一高も達也に任すしか無くなるように動くピクシー……なかなかな策士なのだろうか

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