劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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他にタイトルが思いつきませんでした……


処理速度

 新人争奪戦と言う面倒事を終えて、此処最近はとりあえず平穏に過ごしていたのだが、とある日の実技の授業で、またしても面倒事に巻き込まれた達也。と言っても魔法戦闘や徒手格闘などは必要としない面倒事だが。

 

「九〇〇ms。達也さん、クリアーです!」

 

「やれやれ、やっとか」

 

「でも、二回目でなら十分早いですよ」

 

「美月は一回で終わらせただろ?」

 

「そ、そうですけど」

 

 

 教師が付かない二科生の授業は、課題をクリアーして提出するのだが、時間内なら何度挑戦しても良いのだ。したがって美月のように一回でクリアーする生徒も居れば、達也のように二回目以降も挑戦する生徒も居るのだ。

 

「それにしても達也さん、本当に実技が苦手なんですね」

 

「結構自己申告してたつもりなんだが」

 

 

 五〇〇ms以内が優秀な魔法師と評される中、一〇〇〇msを切るのに二回も要した達也は、お世辞にも優秀とは言えない。もちろん達也には事情があるのでこのような結果なのだが、そんな事を知らない美月は意外そうに達也を見ていた。

 

「いえ、謙遜とばかり思ってまして」

 

「嫌味に聞こえるかもだけど、実技が人並みに出来たらこのクラスには居なかっただろうね」

 

 

 ペーパーではぶっちぎりのトップなのだから、そうなのだが、達也はなるべく嫌味に聞こえないように言った。

 

「でも、達也さんが実技まで完璧だったら、ちょっと近寄りがたかったでしょうね」

 

「別に他の部分でも完璧って訳じゃ無いと思うが?」

 

 

 屈託無く笑う美月に、達也は苦笑いで応える。だが、美月の表情はすぐに一変した。

 

「達也さん、口惜しくは無いんですか?」

 

「何が?」

 

「本当は実力があるのに、実力が無いように評価されて……」

 

 

 美月の質問に、達也は答えるのを躊躇った。躊躇ったと言うより、何故そんな事を言ったのかが気になったのだ。

 

「処理速度も実力だよ。コンマ一秒が生死を分ける状況だって皆無では無いからね」

 

 

 一般論でかわそうとした達也だが、美月の目はそれを許さなかった。

 

「でも達也さん、実戦を想定したならば、もっと早く展開出来ますよね? 達也さんはこの程度の魔法なら起動式を使わずに魔法式を展開出来るんじゃないですか?」

 

「なるほど、そこまで見られてたとは……本当に良い目をしてる」

 

 

 自分の秘密をそこまで見られていた事に感心しながら、達也は美月の突かれたく無い箇所を容赦無く抉った。

 

「それは……」

 

「確かにこの程度なら起動式は必要無いが、多工程の魔法を使うには如何しても起動式は必要だからね。俺は戦闘用に魔法を学んでる訳では無いから」

 

「達也さん……尊敬します!」

 

「は?」

 

 

 今自分の言った事の何処を如何解釈すれば尊敬に値するのかが、達也には分からなかった。

 

「魔法が使えるから魔法師になるのが普通なのに、達也さんはしっかりと自分の目標を持ってるんですね! 私もこの目をコントロール出来るように勉強してただけですけど、心を入れ替えて頑張ります!」

 

「ちょっと美月、何エキサイトしてるのよ」

 

「へ? ……あわわ!?」

 

 

 エリカにツッコミを入れられて真っ赤になった美月を見ながら、達也は一人違う事を考えていた。

 

「(魔法が使えるからか……使えないのに魔法師にされた俺はただ足掻いてるだけだ)」

 

「ねぇ達也君、ちょっと手伝ってくれない?」

 

「悪い達也、少し手伝ってくれ!」

 

「……やっぱり息ぴったりだな」

 

 

 二人同時に達也に助けを求めてきたので、そんな事をつぶやいた達也だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也に頼まれた買い物を済ませ、深雪は実習室へと向かっていた。途中までは金魚の糞よろしく大勢のクラスメイトが付いてきていたのだが、今ではほのかと雫だけになっている。

 

「良かったね深雪、うじゃうじゃと居たのが居なくなって」

 

「雫、その言い方は……」

 

「良いのよ、ほのか。本当の事だから」

 

 

 笑顔でそう断言する深雪を見て、「あぁストレスが溜まってったんだな」と思ったほのかだったが、実際邪魔だとほのかも感じていたのであえてその事は言わなかった。

 

「お兄様、入ってもよろしいでしょうか?」

 

「構わないさ、次で終わりだから」

 

「えぇ!?」

 

「ぷ、プレッシャー!」

 

 

 実習室を訪ねた時、達也はまだエリカとレオに指導していた。如何やら達也が教えたその場凌ぎの方法で、エリカもレオももう少しのところまで来ているようだった。

 

「良かったな二人共、クリアー出来て」

 

「あぁ達也、ダンケ」

 

「それで達也君、如何して私たちはあそこまで出来たの?」

 

 

 達也は二人に教えた方法で、二人の処理速度が上がった事を説明し始める。レオは単純に目標を一々目で確かめなくなったおかげで魔法式構築に集中出来たからで、エリカの方は単純に片手でCADを使うのに慣れていたからだった。

 

「その場凌ぎだからな。実戦では使えない裏技だ」

 

「ふ~ん、そんな事まで見られてたんだ」

 

「やっぱスゲーな、達也は」

 

 

 感心しながらも、二人は深雪の持ってきた袋が気になるようだった。

 

「お兄様、此方でよろしかったでしょうか?」

 

「ああ、問題無い。時間も無いし此処で昼にしよう」

 

 

 達也が取り出したサンドウィッチにレオもエリカも飛びついたが、美月だけ少し不思議そうな顔をしていた。

 

「実習室で食事をしても良いのでしょうか?」

 

「飲食が禁止されてるのは情報端末を置いてあるエリアだけだよ」

 

「そうなんですか」

 

 

 達也の答えを聞いて、美月もサンドウィッチに手を伸ばす。何だかんだで彼女もまた空腹だったのだ。

 

「深雪たちはもう済ませたの?」

 

「ええ、私たちは先に済ませたわ」

 

「でも意外ね。深雪だったら『お兄様より先に箸をつけるなんて出来ません!』くらい言うと思ってたのに」

 

 

 エリカの顔には冗談っぽい笑みが浮かんでおり、本人も本気では言ってなかったのだろう。だが……

 

「良く分かったわね。何時もならもちろんそうしたのだけれど、でも今日はお兄様のご命令だったから。私の気持ちだけでお兄様のご命令に背く訳には行かなかったから」

 

「……もちろん?」

 

「何時も……何ですか?」

 

「ええ」

 

 

 全く躊躇い無く頷いた深雪を見て、エリカも美月も絶句した。

 

「そ、そうだ! 深雪もちょっとやってみてよ!」

 

「そ、そうですね! 一科生も同じ事をやってるんですよね?」

 

 

 気まずい空気が流れ始めたのを、エリカが何とかして払拭しようと深雪に話を振った。美月も便乗する形で深雪に実技を見せてほしいとお願いする。

 

「授業以外では役に立たない事ならやらされてるけど……お兄様、如何します?」

 

「良いんじゃないか?」

 

「分かりました。お兄様が仰られるなら」

 

 

 達也の許可も下りたので、エリカと美月は深雪に実技を見せてもらう事になった。その結果は……

 

「……二二五ms……」

 

「相変わらず深雪の処理速度は人間の限界を超えてる」

 

「凄いよね」

 

 

 初見の二科生たちは絶句し、既に見た事のある一科生二人は諦めと羨望が混ざった感想を言う。だが本人は納得してないようで、その兄も仕方ないと思っていた。

 

「やはりお兄様に調整していただいたCADで無ければ、深雪は実力を発揮出来ません」

 

「旧型ならこんなものだろ。もう少しマシなものに変えてもらうよう、会長か委員長から学園に掛け合ってもらおう」

 

 

 本当の実力はどの様なものなのか、それが分からない五人はただただ口を開けてその場に立ち尽くしたのだった。




達也の結果も深雪の結果も、原作より速めにしました。後雫の毒舌は原作より多めになってます……主に一科生相手にですが

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