劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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よほど腹が立ったんだろうな……


七草家の夜

 西暦二〇九六年四月十三日の夜。今日は来客があるからと言われて子供たちだけで夕食を済ませた後、香澄は泉美の部屋を訪れて放課後の出来事を愚痴っていた。

 

「……ていう調子で、すっごく感じが悪かったんだよ」

 

「はぁ……よく我慢しましたね、香澄ちゃん」

 

「うんまぁ、色々と後始末の事を考えると手を出さなくて良かったんだろうけど、ボクの本音としてはぶっ飛ばしてやりたかったよ」

 

 

 絨毯の上に座り込んでクッションを抱え込んでいた香澄が、仮想琢磨とでもしたのかそのクッションを床に二、三度叩きつけて不満を表明した。

 

「それにしても……お話を聞いた限りでは、七宝君の態度は非友好的に過ぎますね」

 

「非友好的なんて可愛いものじゃない。あれは喧嘩腰って言うんだよ」

 

「はいはい。それで、その喧嘩腰な態度ですけど、部活連執行部員が風紀委員へ対抗意識を見せた、というだけでは説明がつかないんですね」

 

「そうだよ。だから言ったじゃん。アイツは、七宝として七草に喧嘩を売ってきたんだって」

 

 

 クッションを叩きながら力説する香澄の主張を、泉美は単なる思い込みと否定しなかった。

 

「七宝としてなのかはともかく、確かに私的な敵意が感じられますね。今の七宝家のご当主は温厚な方だとお聞きしています。噂から判断する限りでは、七草に直接挑んで来るような事はしないと思うのですけど……」

 

「お姉ちゃんなら何か知ってるかな?」

 

「そろそろお部屋にお戻りになってるでしょうし、訪ねてみましょう」

 

 

 疑問を抱えたままだと気持ち悪いのか、泉美の方が率先急いて真由美を訪ねる提案をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来客を案内し終えた真由美が普段着に着替えてちょうど一息吐いたところで、部屋のインターホンが作動した。

 

『お姉さま、泉美です。お邪魔してもよろしいでしょうか』

 

「いいわよ、どうぞ」

 

 

 どうぞ、というのがパスワード。HARの音声認識インターフェイスが真由美の声を拾い上げ扉を解錠する。入って来たのは泉美と香澄、二人一緒だった。

 

「すみません、ちょっとご意見を伺いたい件がございまして」

 

「何かしら」

 

「お姉ちゃん、七宝家のご当主様ってどんな人だか知ってる?」

 

 

 香澄に質問されて真っ先に思ったのは「何故そんな事を?」だが、真由美はすぐにピンと来るものがあった。

 

「香澄ちゃん……」

 

「な、何かな」

 

「貴女、七宝君とイザコザを起こしたんでしょう」

 

「何で分かるの!?」

 

 

 香澄はしらばっくれる事もなく、いきなり白状した。いや、誤魔化そうという意思はあったのだが、真由美の口調があまりにも断定的だった為に思わず正直な反応を返してしまったのだ。

 

「貴女ね……」

 

「お待ちください、お姉さま。確かに香澄ちゃんは七宝君と危うく私闘になりかけましたが、本日の件に関しては香澄ちゃんではなく七宝君に大きな責めがあると申せます」

 

 

 真由美は疑わしそうな目を泉美に向けたが、泉美の眼差しは断固として揺るがない。真由美は大きく息を吐いて表情を緩めた。

 

「分かった。信じましょう。それで、七宝家当主のお人柄を知りたいんだったわね」

 

 

 真由美は目を半眼にして少し考え込む仕草を見せた。

 

「そうねぇ……私も直接存知あげているわけじゃないけど……堅実で周到な方、かな」

 

「堅実で周到、ですか?」

 

「そう。堅実で周到で、本心では何を考えているのか分からない。幾重にも策を巡らせ手を打って、リスクを最小に抑え成果を欲張りすぎず確実に元を取る。そんなタイプね」

 

 

 泉美が要領を得ない顔で鸚鵡返しに問い返したのに対し、真由美の回答は妹の疑問を正確に読み取った上でそれに答えるものだった。だがこの答えが、妹たちに新たな疑問を与える事になった。

 

「でもさ、それって……」

 

「ええ。やはり、七宝君が香澄ちゃんに見せた態度とは対照的なスタイルに思えます」

 

「じゃあ七宝家として何か企んでいるわけじゃ無いってこと?」

 

「ですが、何を企てるにしても高校生の力だけでは限りがあります。いくら魔法力が高くても、それこそ高が知れている事くらい七宝君にも分かっているでしょう」

 

「アイツには七宝家じゃない、別の後ろ盾があるのかな?」

 

「……飛躍しすぎじゃないの?」

 

 

 どんどんエスカレートしていく妹たちの推理に、真由美は口を挿まずにはいられなかった。

 

「……あはっ、そうだね」

 

「……確かに、考え過ぎですね」

 

 

 二人はそう言って笑ったが、香澄も泉美も、心から納得しているようには見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来客を送りだした弘一は自室に戻り、厳重に鍵を掛けてから電話機に向かった。

 

「先生、夜分に失礼します」

 

『構わんよ。重要な話があるのだろう?』

 

「はい。極めて重要なご相談です。実は先ほどまでマスコミ関係者の客を迎えておりました」

 

 

 客――小和村真紀との会話を、弘一は九島烈に報告する。

 

「今日話を聞いた感じからすると、マスコミに対する工作はかなり進展しているようです」

 

『君の事だ、今日初めて知ったわけではあるまい。マスコミ工作の事はすっかり調べ上げているのではないか?』

 

「お見通しでしたか」

 

『一応、訊いておこうか。何を企んでいるのだね?』

 

 

 疲れがにじみ出た顔で九島が問いかける。

 

「四葉の力は強すぎる。遠からず十師族の、そして国家のバランスを崩してしまうほどに。先生はそうお思いになりませんか?」

 

『反魔法主義者を利用して四葉の力を殺ごうというのか?』

 

「一高に第一○一旅団と縁の深い生徒がいます。十代の少年を預かる高校と軍の癒着。マスコミや人道派の政治家が好みそうな題材だと思いませんか?」

 

『一高には君の娘たちも通っているだろう』

 

「この場合、生徒は被害者で済みます。私が重視しているのは第一○一旅団と四葉の結びつきですよ」

 

『私は君の計画を認可する立場では無い。そのような権限を手にした事は一度も無い』

 

「権限は無くとも影響力はお持ちです」

 

『……君の計画に反対はしない』

 

「それで十分です、ありがとうございます」

 

 

 弘一は満足げな顔で電話を切った。消える直前の画面に映っていた九島の表情は、年齢相応に覇気の無いものだった。




さすがの真由美でも、何か問題を起こしたとすぐ分かるくらいの分かりやすさ……
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