劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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それが一番手っ取り早い……


決闘の発案

 森崎と雫に風紀委員会本部へ連行され、香澄と琢磨は針の筵気分を味わっていた。この場には風紀委員会から委員長の花音と二人を連行した森崎及び雫、部活連から会頭の服部と執行部を代表して十三束、そして何故か生徒会を代表して達也が同席している。

 

「香澄、風紀委員が何をやってるのよ。しかも見回り中に……」

 

「七宝、魔法の無許可使用が校則違反だって事くらい知っているだろう? 魔法を使って喧嘩しようとしただけでも重大な違反なのに、止めに入った風紀委員に攻撃を仕掛けるなんて……」

 

 

 花音に深々とため息を吐かれ、香澄は気まり悪げに目を逸らし、十三束の嘆きを、琢磨は身体を強張らせ正面に視線を固定して聞いていた。

 

「とにかく、事情を確かめる事が先決だと思うが」

 

「まったく……新勧週間が終わったと思ったら面倒くさいことを……」

 

 

 服部のセリフに、花音が不機嫌な顔で頷き、行儀悪く頭を掻きながら下を向いてから顔を上げ、鋭い目つきで香澄と琢磨を睨みつけた。

 

「最初に言っておくわ。香澄は完全な未遂だからね、退学にはならないけど、停学の可能性はある。未遂とはいえCADの操作に入っていた七宝は最悪、退学よ」

 

 

 花音の宣告を、琢磨はピクリとも動かずに受け止めた。彼は身体が震えださないよう、全身に力を込めて立っていた。

 

「それを念頭に置いて話しなさい。いったい何が原因なの」

 

「七宝君が七草家を侮辱したんです」

 

「七草から許し難い侮辱を受けました」

 

 

 花音の視線が二人に向けられると、二人は同時に発言し、決して互いを見ようとはしなかった。

 

「ハァ……服部、この始末どう付ければいいと思う?」

 

 

 花音に声を掛けられ、服部は閉じていた目を開いた。

 

「七宝は部活連の身内だ。俺には、公平な判断を下す自信が無い」

 

「それを言うなら香澄は風紀委員会の身内よ」

 

「ならば部活連でも風紀委員会でもない第三者、生徒会に裁定してもらおう」

 

 

 花音と服部に目を向けられて、達也は内心大きくため息を吐いた。予想通りの展開になったというため息だ。そもそも彼が生徒会の代表としてこの場に送り込まれたのは、あずさが厄介事を予感して逃げたからだ。五十里も「生徒会長の代理は副会長だから」と笑顔で逃げを打った。

 

「二人に試合をさせればいいのではないでしょうか」

 

「えっ、それって二人を見逃すということ?」

 

「話合いで解決出来ない事は実力で決める。それが当校では推奨されていると前委員長に伺いました。実際、自分も去年体験しましたし」

 

 

 一瞬服部の眉がピクリと動いたが、達也の発言に驚きを露わにしたのは十三束だった。花音はともかく、服部も当然という表情を浮かべている。

 

「魔法の無許可使用は重大な違反ですが、未遂の生徒まで処分する必要は無いでしょう。新入生には良くあることですし」

 

 

 今度は森崎が苦い表情で顔を背けた。去年魔法を発動させようとして、達也にCADを蹴り飛ばされた時の事を思い出したのだろう。

 

「お互いの誇りが懸かっているのなら、実力で白黒させておいた方が後々引き摺る事も無いと思いますが」

 

「あたしは副会長の意見で良いと思うけど、服部は?」

 

「依存は無い。司波、手続きを頼めるか」

 

「了解です」

 

 

 服部の言葉に頷いた達也が、あずさの承認書面を取る為に直通階段へ向かう。

 

「司波先輩」

 

 

 その背中に琢磨から声が掛かった。

 

「七宝、不服なのか?」

 

「いえ! 七草との試合を許していただけるなら、お願いがあります」

 

「言ってみなさい」

 

 

 条件を付けられる立場に無い琢磨の発言に、花音は興味を駆られた。だから彼女は続きを促したのだ。

 

「相手は七草香澄ではなく、七草香澄、泉美の二人にしてください」

 

「七宝、アンタ私の事バカにしてるの?」

 

 

 香澄の詰問は、先輩に囲まれた状況における言葉遣いの是非は別にして、当然のものだった。

 

「……『七草の双子は二人揃ってこそ真価を発揮する』、それが理由か」

 

「はい。七宝家と七草家の誇りを懸けた試合です。二人同時に相手にして勝利して、漸く真の勝利と言うわけです」

 

 

 琢磨の真剣な眼差しを受け、達也は視線を香澄に移した。

 

「七宝はああ言ってるが?」

 

「構いません。その思い上がりを後悔させてやります」

 

「では、そのように」

 

 

 そう言って達也は生徒会室へ続く階段を上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会長の決裁印が押された許可書を持って戻って来た達也の背後には、泉美と、何故か深雪とほのかまでついて来ていた。

 

「委員長、こちらに承認印をお願いします」

 

「えっ、承認印? ……何処にあったっけ?」

 

 

 あたふたする花音に、達也が重要物の入った小箱をキャビネットから取り出した。去年までこの場所を整理していた達也にとって、これくらい造作も無かった。

 

「あ、あはは……これで良いのね?」

 

 

 照れ隠しと分かる愛想笑いを浮かべ、許可書に承認印を押捺した花音。弛緩した空気を取り払うように、服部が大きく咳払いをした。

 

「場所は何処を使えば良い?」

 

「第二演習室でお願いします」

 

 

 達也に向けられた服部の質問に答えたのはほのかだった。彼女が第二演習室の開錠コードを預かってきているというのは、説明されなくても全員に分かった。

 

「審判は司波さん?」

 

 

 この質問は十三束だ。彼は深雪が何故ここにいるのか、さっきから気になって仕方ない様子だった。

 

「いいえ、私は立会人です」

 

 

 深雪は十三束の問い掛けをニッコリ笑って否定する。

 

「じゃあ審判は達也さん?」

 

 

 雫の質問は達也に向けられたものだったが、彼が答えるより早く花音が口を挿んだ。

 

「それで良いわ」

 

「俺も構わない」

 

 

 服部が花音の後に続く。二人とも達也の意思を問うつもりはないようだ。

 

「――行きましょう。閉門まで、あまり時間がありません」

 

 

 この試合の発案者である達也は、今更「嫌だ」が通じるとは思っていなかった。ため息を押し殺して移動を促した達也を、香澄は心配そうに眺めていた。

 

「香澄ちゃん?」

 

「だ、大丈夫だよ泉美」

 

「なにも言ってませんが」

 

 

 そんな姉を、泉美は不審に思っていたが、これから決闘なので、余計な事は考えないように香澄を視界から外したのだった。




そろそろまたIFネタを考えなければ……
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