劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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描写を全てやると何話にもまたがりそうだったので……


七宝琢磨VS七草香澄・泉美

 第二演習室は一年前に達也と服部が相対した第三演習室より縦に長い。中遠距離魔法を想定した教室だ。床は青と黄色で前と後ろに色分けされており、前後の壁から一メートルのエリアは赤く塗られている。青のエリアに琢磨、黄色のエリアに香澄と泉美。

 琢磨は制服のままの姿で、左の脇に分厚く大きなハードカバーの本を抱えている。香澄と泉美は動きやすい実習服に着替えていた。

 

「この試合はノータッチルールで行う」

 

 

 達也が青と黄色の境界線に立ち、宣言した。ノータッチルールは身体的接触を禁止する試合用のルールで、異性間では余程の事が無い限りこれが適用される。

 

「双方既に知ってると思うが、一応ルールについて説明しておく。色分けされたエリアの外に出てはならない。相手のエリアに入るのも、赤のエリアに出るのも失格となる。相手の身体に触れるのも禁止だ。武器で触れるのも失格となる。ただし、魔法で遠隔操作する武器は違反にならない。最後に、致死性の攻撃、治癒不可能な怪我を負わせる攻撃も禁止する。危険だと判断した場合は強制的に試合を中止するからそのつもりで」

 

 

 琢磨が一瞬鼻で笑うような表情を見せたのには、達也も深雪もほのかも雫も気づいていたが、彼の不遜な態度を咎めた者はいなかった。

 

「では、双方構えて」

 

 

 香澄と泉美はエリアの中央に移動した。琢磨は境界線近くから動かず、脇に抱えていた本をドスンと足元に落とした。達也が三人の顔を交互に見る。三人とも、同じように頷き返したのを見て、壁際に下がった達也が右手を頭上に挙げて、勢い良く振り下ろした。

 想子光が閃き、魔法が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実力差にそこまで開きは無かったが、徐々に琢磨の攻撃を防ぐので精一杯になって来た香澄と泉美。今も交互に防御魔法を発動する事で何とかしのいでいる状態だった。だが、二人の顔に焦りは見られない。

 

「ボクたち、アイツの事少し舐めていたみたいだね」

 

「舐めていたとかそういう言い方はともかく、どうやらその様です」

 

「このままじゃジリ貧だ」

 

「でも、負けるつもりはないのでしょう?」

 

「もちろん。泉美、あれやるよ」

 

「ええ、香澄ちゃん。何時も通りに」

 

「ボクがシュート」

 

「私がブースト」

 

「じゃあ行くよ。カウントダウン」

 

「「スリー、ツー、ワン」」

 

「キャスト!」

 

 

 香澄の発した掛け声の直後、琢磨へ襲い掛かる魔法の威力が数倍に跳ね上がった。

 

「これは……窒息乱流(ナイトロゲン・ストーム)ですか?」

 

「そうだ」

 

 

 驚きと感嘆の入り混じった問い掛けに、達也は短く肯定を返した。

 

「これ程の高等魔法を使いこなせるなんて、さすがは七草先輩のお身内と言うべきでしょうか」

 

「使いこなせてはいないが、それでも大したものだ。これが乗積魔法(マルチブリケイティブ・キャスト)か……『七草の双子は二人揃ってこそその真価を発揮する』と言われるだけの事はあるな」

 

 

 それまでどちらかと言えば初歩的な魔法を使用していた香澄と泉美が、ピンチになって繰り出した高等魔法。これは攻撃を担当していた香澄が出し惜しみしていたわけでも手を抜いていたわけでもない。窒息乱流は難度が高過ぎて香澄一人で発動出来る魔法では無かったのだ。

 息を止めて踏ん張っていた琢磨がいきなり片膝をついてしゃがみこみ、バタバタと風にあおられてページが今にも千切れ飛びそうになっていた本を閉じた。直後、琢磨は再びハードカバーの表紙を開く。その直後、全てのページが一斉に紙吹雪となって飛び散った。

 香澄も泉美も、達也も深雪も、この紙吹雪が無数の刃で構成されている事を知っていた。七宝家の魔法を知る彼女たちには、この魔法が何なのかも知っていた。

 七宝家の切り札の一つ「ミリオン・エッジ」。群体制御により百万の紙片を操り、刃の群雲と成して敵を切り裂く魔法。

 双子が窒息乱流を操りながら別の魔法を繰り出した。酸素を多く含む空気を多方向から紙吹雪にぶつけ、断熱圧縮により紙の発火点を超えた熱風を作り上げて紙片の刃を焼き払おうとする。それは「熱乱流(ヒート・ストーム)」のアレンジ魔法。単純に断熱圧縮空気塊を作り出すよりワンランク高度な魔法で、それを窒息乱流と同時発動しているのだが、今の彼女たちにとっては十分能力の範囲内だ。

 呼吸を許さぬ嵐が琢磨を飲み込み、摂氏五百度超の空気塊が紙片を焼き尽くそうとする。百万の刃は発火点を超える熱を浴びながら、紙片を刃として成り立たせる魔法に守られて琢磨の意思に従い香澄と泉美の血を求めて押し寄せる。

 このまま行けば琢磨は低酸素症に倒れ、香澄と泉美は灰に出来なかった刃を浴びて無数に近い傷を負う。どちらも後遺症が懸念される結末が見えていた。

 

「そこまでだ!」

 

 

 達也の右手が動いた。前に伸ばされたその手に輝く、銀色のCAD。拳銃形態特化型CAD、シルバー・ホーン。窒息乱流、ミリオン・エッジ、熱乱流。バラバラに砕け散る三つの魔法式と、その破片を拭き散らす想子の奔流。中止を告げる達也の声は、はたして三人の意識に届いたかどうか。

 全ての攻撃性魔法が消し飛ばされた静寂の中で、琢磨も香澄も泉美も何が起こったのか理解出来ず呆然と立ち竦んでいる。絶句して立ち尽くしているのは試合の当事者、一年生の三人だけだ。

 十三束も目を丸くしているが、それ程衝撃を受けたという表情では無い。驚いている事は驚いているが、むしろ何が起こったのか理解した上で関心しているという態だった。残る三人、深雪、ほのか、雫は「さすがですね」という顔だ。

 実は何が起こったのか正確に理解しているのは深雪だけだったが、表面的な現象「達也の対抗魔法によって琢磨と香澄と泉美の魔法が一瞬で無効化された」ということすら一年生トリオには理解できていなかった。

 

「この試合は双方失格とする」

 

 

 審判として達也が判定を下す。そこで漸くフリーズしていた香澄が達也に食って掛った。普段の純情さは、今は見られなかった。




お待ちかねの、七宝琢磨フルボッコタイム?
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