劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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朝晩寒いですね、体調は崩してませんか?


尾行のつもりが…

 紗耶香との話し合いの翌日、達也は珍しく生徒会室に来ていた。昨日摩利を使って紗耶香との会話を盗み聞きしようとした相手に探りを入れるつもりだったのだが、生憎それどころでは無かったのだ。

 

「如何しよう、発注ミス!? しかも週明けじゃないと届かないしネットでは売ってない!?」

 

「中条先輩、私が買いに行きますよ?」

 

「本当ですか!? お願いしても良いんですか!?」

 

「え、えぇ。丁度お兄様もいらっしゃいましたし」

 

「へ? ……もしかして司波君、今の見てました?」

 

 

 泣きそうなあずさを見て、これは如何答えたものかと首を傾げた達也だが、とりあえずは落ち着かせるのが先決だと判断したようだ。

 

「何かあったんですか?」

 

「いえ、何でも無いです」

 

「お兄様、少し買出しに行くのですが、ご一緒して下さいますか?」

 

「ああ、今日は特に予定も無いしな」

 

 

 チラリとあずさに目線を向けると、泣きそうだったのが嘘のようにホッとしている。内心ため息を吐きたかった達也だが、鉄壁のポーカーフェイスで表には出さなかった。

 

「それでは会長、市原先輩、少し出てきます」

 

「お願いね~。達也君も悪いわね」

 

「いえ、本当に今日は予定もありませんし」

 

 

 文献もとりあえずは読み漁ったし、今すぐ閲覧したい資料も無いので、達也は本当に今日は予定無しだったのだ。

 

「そうですか。此処最近は忙しそうでしたからね」

 

「そんな事は無いですけど」

 

 

 鈴音が心配そうに達也の顔を覗き込んできたが、表情からは疲れや困惑は読み取れなかった。

 

「それで深雪、何を買いに行くんだ?」

 

「生徒会で取り扱ってる学校の備品です」

 

「そうか」

 

 

 本当に事情を知らなかったら発注すれば良いのでは? と聞いたのだろうが、達也はしっかりと事情を知っている。知っていてあえてその事を聞かなかったのだ。

 

「お兄様が来てくださって良かったです。これで暴漢に襲われても大丈夫ですしね」

 

「やれやれ……学校の傍でそんな輩も居ないだろうに」

 

 

 深雪の冗談に苦笑いを浮かべながら応える達也。この時は二人共冗談のつもりだったのだ。そう、この時は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園の傍で必要なものを買い、後ほど送ってもらう形で目的を果した達也と深雪は、学園に帰る為に歩いていた。周りからの視線には、二人共気付かないフリを貫き通して……

 

「あれは、光井さんと北山さんと明智さんじゃないか?」

 

「本当ですね…何をしてるのでしょう?」

 

 

 物陰に隠れて誰かを尾行しているようにも見えるが、生憎達也たちが居る場所では、その相手が誰かを肉眼で確認する事が出来なかった。

 

「マズイな…」

 

「お兄様?」

 

「深雪、下がってろ」

 

 

 状況を的確に把握した達也は、三人が首を突っ込み過ぎている事を見抜き、更に今の状況を非常に危険なのも見抜いていたのだった。

 

「お手伝いします!」

 

「……駄目だと言っても聞かないだろうな。ただし無茶はしない事」

 

「はい!」

 

 

 妹の頑固さは誰よりも分かってる達也は、苦笑いを浮かべながら深雪の随行を許可したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校から不審な動きを見せていた剣道部主将、司甲を尾行していた美少女探偵団だったが、彼女たちは誘き出されてただけなのだ。

 

「気付かれた!?」

 

「兎に角追わなきゃ!」

 

 

 裏路地に誘い込まれたと気付かずに、逃げた甲を追う三人。しかし追った先に甲の姿は無く、代わりにフルフェイスのヘルメットを被った怪しげな男共に囲まれたのだった。

 

「二人共、合図したら走るよ」

 

 

 冷静に逃走の計画を二人に知らせる雫、CADを起動させ目晦ましを放ちその場から逃げ出す。抜けたついでにエイミィが一発お見舞いしたのだが、倒すまでには至らなかった。

 

「何……コレ……」

 

「頭が割れるように痛い……」

 

 

 暴漢たちが指にはめているものを見て、雫の顔に驚愕が浮かぶ。

 

「アンティナイト……キャスト・ジャミング!?」

 

「まだ足りないようだな」

 

「ッ!?」

 

 

 威力を上げられ、ほのかも雫もエイミィも立ってられずにその場に倒れこむ。

 

「この世界に魔法師は必要無い!」

 

 

 懐から出したナイフで倒れている三人に襲い掛かる暴漢、この時三人は死を覚悟したのだった。

 

「何してるんだ」

 

「当校の生徒から離れなさい!」

 

 

 低く怒りの篭った声と、澄んだ綺麗な怒鳴り声が路地裏に響いた……と思った次の瞬間にはナイフを持った暴漢は吹き飛ばされていた。

 

「深雪! 達也さん!」

 

「「大丈夫(か)?」」

 

 

 こんな状況でも息がピッタリな二人を見て、ほのかも雫も場違いにも呆れ果ててしまった。

 

「この!」

 

「愚か者!」

 

 

 達也に襲い掛かろうとした暴漢に、深雪が攻撃魔法を喰らわせる。

 

「馬鹿な!? 何故キャスト・ジャミングの中で魔法が使える」

 

 

 表情は見えないが、恐らく驚愕の表情を浮かべているであろう暴漢に、深雪が氷柱のような視線を向けて答える。

 

「非魔法師のキャスト・ジャミングなど利きません」

 

「なら、もっと出力を……」

 

 

 仲間の一人が加勢しようとしたが、それは出来ずに意識を手放した。

 

「何事だ?」

 

「魔法など必要無い。お前らの相手はこの俺だ」

 

「生身で俺たちに敵うつもりか? 馬鹿馬鹿しい」

 

 

 暴漢たちは次々と遠距離武器を懐から出したが、誰一人その武器を使う事無く意識を刈り取られた。

 

「もう大丈夫よ」

 

 

 達也が暴漢たちを片付け終わるのと同時に、ほのかたちに手を伸ばす深雪。絶対的な信頼感があるからこそ何もせずに見ていられたのだ。

 

「私たちのピンチに達也さんと深雪が現れるなんて……これは夢?」

 

「違うよほのか、これは現実だよ……」

 

「すっごいもの見ちゃったね……」

 

 

 呆然と立ち尽くす三人に、今見た事を口外しないように頼む深雪。事情があると言って納得してもらったのだが、雫はただ一人その事情について考えていたのだった。

 

「終わったぞ」

 

「お兄様、お疲れ様でした」

 

「如何する? カメラには撮られてないが、師匠に頼むか?」

 

「それは私が」

 

 

 遮音フィールドを展開し、八雲へと電話を掛ける深雪。その間達也は暴漢たちが逃げ出さないように見張っていたのだが、十分やそこらで意識を取り戻せるような衝撃では無かったので、用は暇つぶしをしていただけだったのだった。




追い込んだつもりが逆に誘われていた、普通なら三人は終わってたでしょうね。

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