劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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甘いルートに持って行く為の下準備です。もちろん、泉美編もあります。


IFルート香澄編 その1

 十三束のと戦闘を終え、達也はそのまま校内を移動していた。生徒会の仕事は「自分の分」を既に終えており、手伝おうにも頑なに拒否する深雪やあずさの視線に耐えられない為に、風紀委員だった時同様時間潰しの為に図書室で資料の閲覧をするつもりだったのだ。

 だが彼は不幸に愛される体質であり、平穏な午後を過ごす事など許されなかったのだった(何処の誰が許すのかは、この際気にしないでおく)。

 

「あっ、司波先輩」

 

「ん?」

 

 

 ロボ研のガレージがある方向から走って来た女子生徒に声を掛けられた達也は、振り返りその女子生徒を確認した。

 

「香澄、こんなところを見回りか?」

 

「普段とは違う場所を回ってみようと思っただけです」

 

「風紀委員の見回りのルートに決まりは無いからな。別に構わないんじゃないか?」

 

「そうですね。気分でルートを変えたら、七宝がいてびっくりしましたけど」

 

「七宝が?」

 

 

 つい先ほど演習室から飛び出して行った七宝が、まさかそんなところにいるとは達也も思っていなかった。もちろん、何故そんなところにいるのか、などと言う詮索は達也はしなかった。

 

「先輩、今から時間ありますか?」

 

「別に問題は無いが……何か用なのか?」

 

 

 達也は即座に適当な言い訳を思い付けず、また言い訳するような事も無いかと考えて素直に答えた。だが、その答えを受けた香澄の表情を見て「失敗したか?」と内心思っていたのだった。

 

「先輩のCAD調整、一年の間でも噂になってるんですよ。もし時間があれば、私のも調整してくれないかなと思いまして。お姉ちゃんが先輩に調整してもらったCAD、部屋に飾ってるんですよ」

 

「先輩のCADを調整した覚えは……ああ、あれか」

 

 

 去年の九校戦、達也は真由美のCADのソフト内に残ったゴミを取り除いた事がある。それを調整と呼んでいいのか分からないが、達也にはそれしか心当たりが無かったのだ。

 

「私たちは家で雇ってるエンジニアがいますけど、お姉ちゃんはどうもそのエンジニアより先輩に調整してもらった方が実力を発揮できる、とか思ってるっぽいですけどね」

 

「七草家が専属で雇ってるのなら、相当な腕の持ち主だとは思うんだが……」

 

「それだけ先輩の腕が凄いって事なのかな、って思ってるんですけど。実際に試してみたいんでお願い出来ませんかね?」

 

「簡単な調整で良いなら。風紀委員ならCADを携帯してるだろ? 今すぐ調整するか?」

 

「お願いします!」

 

 

 何故か凄く気合いの入った返事を受け、達也は再び「失敗したかも」と思っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一高内でCADの調整をするのに、特別な許可は特に必要ない。調整機の使用許可だけもらえば誰でもCADの調整は出来る。したがって普段なら放課後は調整機を使うのに時間がかかるのだが、今日は土曜日。好き好んでこんな時間まで残っている生徒の方が少ない。

 

「それじゃあ、測定するからヘッドセットをしてくれ」

 

「はーい」

 

「(何だか幼児退行してないか?)」

 

 

 学校では香澄は一人称を「私」にしており、泉美程ではないが猫を被っている。その猫の皮が達也の前で剥がれかけているから、達也は香澄が幼児退行しているのではと感じているのだった。

 

「……もう外して構わない」

 

「ふー、これって緊張するんですよね」

 

 

 ヘッドセットを外し、達也の背後に回った香澄が軽く首を回しながらモニターを覗きこんだ。そこで声を上げなかったのはさすがだと言えるだろう。

 

「(なにこれ……普通グラフ化されたデータが表示されるんじゃないの? ウチで調整する時も、グラフ化されたデータを見たような……これって何の数字なんだろう?)」

 

 

 香澄には、これが今測定した自分のデータだという事がすぐに理解出来なかった。だが少し考えて理解出来るくらいには、香澄は座学の成績も優秀だ。

 

「(これがボクのデータなら、司波先輩はグラフ化しなくてもボクの能力を理解出来ているって事になる……それって高校生レベルじゃないよね……)」

 

 

 数字の羅列が動きを止めた、と思ったら今度は達也が物凄いスピードでキーボードをたたき始めた。開いては閉じ、また開いては閉じを繰り返すモニターに目もくれず、達也はキーボードをたたき続ける。

 

「(このスピード、そして完全マニュアル調整、お姉ちゃんが興奮するのも分かるけど……司波先輩って何者? 少なくとも普通の高校生じゃないよね……)」

 

「……み」

 

「え?」

 

「香澄、終わったぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 考え事をしていて、すぐに声を掛けられた事に気付けなかった香澄は、必要以上に慌ててCADを達也から受け取った。だがそんな焦りは、CADを使って魔法式を展開させたのと同時に吹き飛んだ。

 

「何時もより構築が早い……それに、何時もより負荷が少ない」

 

「問題無いか?」

 

「はい! 先輩、ボク感動しました!」

 

「……ボク?」

 

「あっ!」

 

 

 達也は香澄の本当の一人称が「ボク」である事は知っていたが、自分と話す時にはその一人称は使っていなかったと思い呟いたに過ぎない。だが香澄は、自分が被っていた猫の皮を達也の前で脱ぎ捨ててしまった事に恥ずかしさを覚えたのだった。

 

「ねぇ先輩、この後ウチに来てくれないかな? ボクが持ってるCAD、全部先輩に調整してもらいたいんだけど」

 

「……俺はあくまで学生だ。個人の家まで行ってCADを調整するのはライセンスを取ってからだろ」

 

「でも、先輩なら今すぐにでもライセンス取れるよ! なんならボクがお父さんにお願いして取れるようにしてもらうから!」

 

「………(この行動力、さすがは七草先輩の妹と言うべきだろうか)」

 

 

 興奮して自分が達也に抱きついている事に気づかないほど、香澄は今その事だけを考えているのだろう。

 

「分かった。今度別のCADを持ってくれば調整してやるから」

 

「ほんと!? 約束ですからね! 絶対その時は付き合ってもらいますからね!」

 

 

 後日、この部分だけを聞いた女子生徒が勘違いをして、二年の司波先輩にC組の七草さんが告白をしたと噂が流れ、生徒会室に吹雪が巻き起こったのは生徒会役員たちだけの記憶に残されたのだった。




難しい……どうやって持って行こうか悩む……

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