劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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これで一旦香澄編は終了です


IFルート香澄編 その3

 達也に言われた通り、噂をする人間を無視していた香澄は、噂をしている人間が減っているのを確かに感じていた。だが、それでも全員ではない事も同時に気づいていた。噂を続けている人間が、自分に悪意を向けている事にも……

 

「ボクはどうすればいいんだと思う?」

 

「そんなの私には分かりませんわ。それこそ香澄ちゃんがどうしたいか、なのではありませんか?」

 

「ボクが?」

 

 

 自分がどうしたいのか分からないから相談に来たのに、泉美にそのような事を言われ香澄は戸惑ってしまった。

 

「香澄ちゃんは司波先輩とどうなりたいんですか?」

 

「ボクは……司波先輩と……」

 

 

 どうなりたいかなど、相談するまでも無く決まっている。だがそれは、口にする事を許される事なのかが不安だったのだ。

 

「お姉ちゃんや多くの先輩が何と言おうと、ボクは司波先輩と一緒にいたい」

 

「なら、その気持ちを素直に司波先輩にお伝えするべきなのではありませんか? 結果がどうあれ、私は最後まで香澄ちゃんの味方ですから」

 

「泉美……」

 

「司波先輩が香澄ちゃんとお付き合いすれば、深雪先輩と司波先輩が一緒にいる時間が減るのは当然。そうすれば私が深雪先輩と一緒にいられる時間が増えるかもしれませんし」

 

「あ、あはは……泉美ってそっちの趣味だったんだね。ボク知らなかったよ」

 

「そっちの趣味なんて人聞きの悪い! 私は深雪先輩が好きなのであって、女性が恋愛対象な訳では無いですよ!」

 

 

 妹に背中を押してもらった香澄だったが、その妹の行動理由を知り素直に感謝出来ないでいた。だが、それでも勇気を出す事が出来たのは泉美のお陰だと香澄は胸を張って言う事が出来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前々から約束していた、香澄のCADを達也が調整する為に、二人は調整機がある部屋に二人っきりでいた。もちろん達也に疾しい気持など露ほども無く、彼は純粋に調整の為にこの場所に来ているのだった。

 一方の香澄も達也にCADを調整してもらう事も確かに目的だったが、それ以上に彼女は、覚悟を決めてこの場所に来ていたのだった。

 

「(相変わらず凄いスピード……お姉ちゃんが司波先輩に調整してもらいたがってた理由が良く分かる……九校戦で事実上無敗の記録を打ち立てたのも、司波先輩なら納得出来ると思えるようになってきたし……実際に九校戦で司波先輩に調整してもらったCADで戦った気持ちはどんななんだろう……)」

 

 

 噂には香澄も聞いていたが、達也が調整したCADとそうでないCADで戦った場合、ソフト面で二、三世代程後れを取る覚悟が必要だと言われている。そこに個人の努力と才能、そして戦略が加われば去年のようなお互いに戦って負けただけで、事実上の無敗という記録が生まれても不思議ではないと確信出来るようになっていたのだった。

 

「終わったぞ。後どれくらいあるんだ?」

 

「そうですね……後二、三個くらいですかね」

 

「一気にやった方が楽だと思うんだが」

 

「でも、学校にそんなにCADを持ってきたら不自然です」

 

「なら何処か別の場所で調整をすれば良いだけか……香澄、今夜時間あるか?」

 

「今夜、ですか? ……特に予定は無いですけど、何かあるんですか?」

 

「ウチに来てほしい」

 

「えぇ!?」

 

 

 香澄は達也が言った事を上辺だけしか受け取れなかった。つまり達也が自分を家に誘ったという事実だけ……そこに隠されたCADを纏めて調整したいという達也の気持ちは汲み取れず、自分の都合のよい方向に妄想を膨らませ掛けていた。

 

「別にボクは構わないけど、でもボクたちはまだ高校生ですし……」

 

「何の事だ? 学校でちまちま調整するより、ウチにある調整機で纏めてやった方が効率的だと言ってるだけだが」

 

「えぇ!? 司波先輩が家に来いって言うから……? ウチにある調整機?」

 

 

 勘違いを恥ずかしがっていた香澄だったが、達也の言葉に引っかかりを覚えた。普通の家に調整機があるとは思えなかったし、また普通の家では無い自分の家にも、それ程専門的な機械があるわけでも無かった。

 

「事情があってな。ウチには結構本格的な機械が揃っている」

 

「そうなんですか……分かりました。一回家に帰ってから司波先輩のお宅にお伺いします」

 

 

 そう言って別れ、香澄は自宅に戻り可愛い私服を一生懸命探した。理由はともかく達也の家に上がり込めるのだ。運が良ければ両親にご挨拶でも、と香澄が思いあがってしまっても仕方なかっただろう。

 

「あら? 香澄ちゃんお出かけ?」

 

「お姉ちゃん。これから司波先輩の家に行くんだ」

 

「達也君の!? 何で香澄ちゃんが」

 

「CADの調整をお願いしてたんだけど、学校でやるより早いからって」

 

「なんだ……まぁ達也君だしね」

 

 

 姉の真由美が何を思ったのかは香澄には分からなかったが、姉も自分同様に達也の事を想っているのだと言う事だけは理解出来た香澄だった。

 学校で別れてから数時間後、香澄は達也から受け取った地図データを元に司波家を訪れていた。インターホンを鳴らす前に小さく深呼吸をし、香澄はチャイムを鳴らした。

 

『どちら様でしょうか?』

 

「えっと、七草香澄と申します。司波達也さんは御在宅でしょうか?」

 

『お伺いしております。どうぞお入りください』

 

 

 入る事を許された香澄だったが、今の声には聞き覚えがあった。

 

「桜井さん?」

 

「お待ちしておりました、七草様。今達也兄さまの部屋までご案内します」

 

 

 クラスメイトの桜井水波に招き入れられ、香澄は面食らっていた。確か達也とは従兄妹だと聞いていたが、こんな家政婦のような事をしてるとは知らなかったのだった。

 

「達也兄さま、七草香澄様をお連れしました」

 

『入ってくれ』

 

 

 達也から入室を許された水波は、扉を開き香澄を部屋へ通す。水波自身は部屋に入ろうとはしなかった。

 

「随分と速かったな」

 

「え、えぇまぁ……これって個人宅にあるレベルじゃないですよね?」

 

「まぁな。早速測定するからそこに寝てくれ」

 

「わ、分かりました……? これって服を脱いで測定するんですよね?」

 

 

 当然の疑問だと香澄は思ったが、達也の目を見てその疑問は吹き飛んだ。だが、これは交渉に使えるのではないかと香澄は思ったのだった。

 測定を終え、香澄は服を羽織り達也の背後に近づく。その表情は姉の真由美が悪戯を思いついた時とそっくりだった。

 

「ねぇ司波先輩。乙女の下着姿を見てなんにも無いなんて思って無いよね?」

 

「何が目的だ?」

 

「噂話を消すのと、ボクのモヤモヤを解消する事さ」

 

 

 その時の香澄の目は、きらきらと輝いていたという。




近いうちに甘いIFをやるつもりです

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