劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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そろそろ紗耶香を如何するか決めなくては……


蜂起開始

 達也と深雪がブランシュの一員と思しき連中を捕まえてから三日後、平穏だった達也の学園生活は脆くも崩れ去った。

 

『皆さん!!』

 

「うるせえな!」

 

「ちょっと、何?」

 

「音量のしぼりをミスったんだろ」

 

 

 クラスメイトが耳を塞ぎながら文句を言ってるのに対し、達也は半ば諦めの表情を浮かべていた。この時間の放送室の使用申請は出されてないので、間違い無く不法使用なのだろう。

 放送では差別撤廃を目指す同士だと言っているが、実態はブランシュの下部組織『エガリテ』の仕業なのだと達也は知っていたのだ。

 

「達也君、風紀委員の呼び出し、あると思う?」

 

「あるだろ……丁度呼び出しだ」

 

 

 エリカが楽しそうなのを隠しきれてない表情を浮かべているのを見て、達也はため息を吐きたくなった。どうもこのクラスメイトは危険な事を楽しんでるように感じられるのだ。

 

「それじゃあ俺は行くが、くれぐれも無謀な事はしないようにな」

 

「はーい!」

 

「分かってるぜ!」

 

「……美月、何かあったら絶対に止めてくれ」

 

「わ、私ですか!?」

 

 

 ストッパーになりそうな人が居ないのを改めて思い知った達也は、もう一度ため息を吐きたくなったが、今はそんな事をしている場合では無かったのだった。

 風紀委員長と生徒会長の両方から呼び出しが来ているのに、その場に行かなかったらどんな悲劇が待っているか分からないのだ。恐らく遅刻も許されないだろう。

 達也は教室から出て放送室を目指したが、途中で深雪が待っていた。

 

「深雪? お前も呼び出されたのか」

 

「はい、お兄様。ご一緒してもよろしいですか?」

 

「構わないが、深雪のクラスからは此処を通らなくても放送室に行けたと思うんだが」

 

「気のせいです」

 

 

 多分自分を待っていたんだろうと確信した達也は、それ以上追及する事は無かった。兎に角行き先は同じなのだから断る理由も無かった達也は、深雪と共に放送室へと急いだ。

 

「遅いぞ」

 

「すみません」

 

 

 形だけの叱責に形だけの謝罪を返し、達也は状況確認をする事にした。

 とりあえず放送は止まっている。恐らくは電源をカットしたからだろう。放送室の扉は閉ざされており、突入した形跡は無い。如何やら占領した連中は、鍵をマスターキーごと持っていったらしい。

 

「明らかに犯罪だな」

 

「そうです。だから相手を暴走させない為にも此方は慎重に行くべきでしょう」

 

 

 達也の独り言を鈴音が拾い、誰かに言い聞かせるような口調で自身の考えを披露する。誰に言っているのかは考えるまでも無く分かった。

 

「聞く耳を持ってる連中とは思えん。此処は多少強引でも短時間で解決を図るべきだ」

 

 

 一人頭に血が上っているように思える摩利は、鈴音の意見を却下しスピード解決を主張しているようだ。

 

「十文字会頭は如何のようにお考えで?」

 

 

 自分を呼びつけておいてこの場に居ない真由美が気になったが、この場にはもう一人考えを聞くに値する人間が居たのだ。

 

「俺は交渉に応じても良いと考えてるが、学校施設を破壊してまで早急に解決すべきかは悩みどころだ」

 

「なるほど」

 

 

 克人の考えに一礼して下がった達也は、懐から携帯端末を取り出した。決して摩利の刺々しい視線に負けたわけではない。

 

「壬生先輩ですか? 司波です」

 

 

 達也の言葉に周りがざわついた。放送室占領の一人である紗耶香に直接電話を掛けるなど誰も思いつかなかった行動だったし、誰一人中に居る人間のプライベートナンバーを知ってるものは居なかったのだ。

 

「それで先輩、今どちらに……はぁ、放送室に居るんですか。それはお気の毒に……いえ、馬鹿にしてる訳ではないです」

 

 

 達也の聞いている紗耶香の声を何とか聞こうと、周りに居る生徒たちは達也の傍に寄って行く。その中には女子も居るので、深雪の機嫌が忽ち悪くなっていくのを感じた達也は、早急に電話を終わらせる事にした。

 

「それで、本題に入りたいのですが……十文字会頭は交渉に応じても良いと言ってます。生徒会長の意思は……いえ、会長も応じるそうです」

 

 

 達也が否定しかけたところに鈴音のジェスチャーが視界に入り、この場ではそう言う事にしておいた方が良いと判断した達也は、そう繋げた。

 

「ええ、先輩の自由は保障しますよ。我々は警察ではないので牢屋に閉じ込めるような権限はありませんので……では」

 

「おい達也君、今のは壬生紗耶香か?」

 

「ええ。すぐ出てくるそうです」

 

 

 摩利の質問に簡潔に答えた達也は、鈴音や克人にも視線を向けた。

 

「早急に体勢を整えるべきかと」

 

「体勢? 何の体勢だ?」

 

 

 何を言ってるんだと言う表情で、摩利は達也に尋ねた。一方に達也は、何を聞いているんだと言う表情で摩利を見返し、困惑の表情が浮かんでいたのを確認して質問に答える事にした。

 

「何って、中の連中を取り押さえる体勢ですよ。CADは間違い無く持ち込んでるでしょうし、もしかしたら他の武器も持ってるかもしれないんですから」

 

「……君はさっき、自由を保障すると言ってなかったか?」

 

 

 ポカンと口を開けていた摩利だったが、衝撃よりも疑問が勝った為に発言出来た。鈴音は口を開けたまま固まっているが、摩利の疑問は鈴音も思っていた事のようで、達也の答えを待っている。

 

「俺が保障したのは、壬生先輩の自由だけです。それに俺は、学校や風紀委員を代表して交渉してるとは一言も言ってません」

 

 

 あっさりととんでもない事を言い放った達也を、摩利も、鈴音も、克人までもが口を開けて固まってしまった。ただ一人を除いて固まった達也の言葉を聞いて、深雪は笑いながら達也を責める。

 

「悪い人ですね、お兄様は」

 

「今更だな」

 

「そうですね。ですが、壬生先輩の番号を登録してた件は、後でゆっくりとお聞きしますので」

 

 

 場違いな怒りをぶつけられ、達也は苦笑いを浮かべた。待ち合わせの為だけに無理矢理登録させられた番号だったのだが、消さなかったのは達也が単に面倒だったからなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放送室の扉が開いたと同時に、風紀委員が次々と中から出てきた連中を取り押さえる。紗耶香は何が起こったのか分からずに、交渉役だった後輩を怒鳴りつける。

 

「騙したのね!」

 

「いえ、俺は先輩の自由は保障しましたが、この人たちの事は何一つ言ってません。そして会頭も会長も交渉には応じてくれます」

 

「その通りよ」

 

 

 いったい今まで何処に居たのかと問いただしたくなるようなタイミングで現れた真由美が、そのまま放送室を占拠した連中を連れて行ってしまったので、摩利は面白く無さそうに床を蹴り、そのまま達也を風紀委員会本部へと連行していったのだった……その後二時間ほど愚痴を聞かされた達也は、さすがに苦笑いではすまないほどの苦労をしたのだった。




タイミング良く真由美が現れたのはちゃんと理由があります。皆さんなら分かりますよね?

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