劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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情報収集は大切ですね


IFルート泉美編 その2

 生徒会室で作業している間、泉美はチラチラと達也の事を盗み見ていた。もし相手が深雪だったら誰も違和感を覚えなかっただろうが、泉美が達也の事を見ている、と言う事は生徒会室の中では異質であった。

 

「(深雪、泉美ちゃん何があったの?)」

 

「(私が知るわけないでしょ。昨日の試合の後でお兄様の事を見直した、とか言ってたからその事と関係あるんじゃないのかしら)」

 

 

 普段自分に向いている視線が、今日に限って兄に向いている事に疑問を抱きながらも、泉美の視線には兄に対する好意は感じられない。その事は深雪にとって唯一の救いだった。

 

「会長、今日の分は終わりました」

 

「ご苦労様です。じゃあ司波君はもう良いですよ」

 

「分かりました。深雪、何時もの場所で待ってるからな」

 

「はい。お兄様も頑張ってください」

 

 

 普段から作業速度が違う達也は、同じ量の仕事をこなしてもここにいる誰よりも早く終わらせる事が出来る。もちろん誰かを手伝ったりする事も可能なのだが、達也に頼り切るのは如何なものかとあずさが悩んだ結果、こうして自分の分の仕事が終わったら達也は自由にして良いというルールが出来上がったのだった。

 

「ねぇ泉美ちゃん、さっきから手が止まってるけど何か悩んでるのかしら?」

 

「えっ? いえ、そんな事ありませんわ、深雪先輩」

 

「でも、さっきから全く進んでないわよ」

 

 

 深雪に指摘され、泉美はこの数十分ずっと同じ書類を眺めていた事に気が付いた。自分では意識しないようにしていたのに、どうやら達也の事が気になって仕方なかったのだろうと、泉美は状況から判断した。

 

「深雪先輩、司波先輩の人となりってどのような感じなのですか? 他人に興味なさそうに見えて、昨日のように香澄ちゃんを気遣ったり……正直私、司波先輩の事が分からなくなりました」

 

 

 悩んでいても仕方ないので、泉美は思い切って深雪に達也の事を聞いた。別に達也の事を貶そうとかそういった感じではないと深雪も理解していたので、彼女の心はまだ穏やかだった。

 

「泉美ちゃんが思ってる両方も、間違いなくお兄様の一端よ。でも、お兄様の人となりを説明しようとするのならば、お兄様の許可を頂かないと出来ないわね。お兄様には色々と事情がお有りですし、その事情は私個人の判断でどうにか出来るものでは無いもの」

 

「では一つだけ。昨日の司波先輩の魔法、あれはなんですか? 私たちや七宝くんの魔法を一瞬で消し去るなんて……あんな事が出来る人が何故二科生だったのですか?」

 

「お兄様の実力は学生基準では無いから……かしらね」

 

「それはどういう……」

 

 

 続けて質問をしようとした泉美だったが、これ以上は聞かないでほしいという深雪のオーラを受けて黙るしかなかった。これ以上は私の口からは言えない、そんな深雪の声が泉美には聞こえたような気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連日の如く達也の事が気になってしまっている泉美は、事情を知っているかもしれない姉を待ち望んでいた。昨日と同じような時間に帰宅した真由美に真相を聞こうと、泉美は昨日同様真由美の部屋を訪れた。

 

「お姉さま、泉美です」

 

『どうぞ。多分来ると思ってたわ』

 

 

 真由美の返事を受けて、泉美は部屋へと入る。そして姉の言葉に引っかかりを覚えたのだった。

 

「お姉さま、来ると思っていたとは?」

 

「泉美ちゃんの事だから、達也君か深雪さんのどちらかに真相を聞くんじゃないかって思ってたの。で、深雪さんに聞く確率の方が高いだろうってね。深雪さんに聞いた場合、全ては教えてもらえなかっただろうし、泉美ちゃんが深雪さんの説明だけで納得するとは思えなかったから」

 

「……その通りです。お姉さま、司波先輩は何故二科生だったのですか? 九校戦で一条家の御曹司を打ち破るだけの魔法を使いながら、何故実技試験では下から数えた方が早い成績だったのです?」

 

 

 泉美の質問を受けて、真由美は一年前自分が達也から聞かされた事を泉美に伝える事にした。

 

「学校での評価は『魔法発動速度』『魔法式の規模』そして『対象物の情報を書き換える強度』の三つで決まるでしょ? これはライセンスを取る時も一緒だけどね。達也君の凄さは、この三つの評価基準外なのよ。だから学校での評価は低いし、世間から見ても魔法師としては優秀とは言えないの。でも、これが実戦だった場合――実際に魔法を使う場面に遭遇した場合は、達也君は誰よりも優等生よ。詳しい事情は口止めされてるから言えないけど、達也君は実戦において私や十文字くんより凄い魔法師なの。先読みや状況判断もだけど、顔色一つ変えずに敵を屠るなんて、並大抵の経験では無理よ」

 

「……つまり司波先輩は実戦向きの魔法師で、魔法という物を切り取って評価する学校では高い評価を得られないと?」

 

「教師としてなら優秀な魔法師になれるかもしれないけどね。実際去年はクラスメイトに実技の授業中に教えたりしてたようだし、テスト前は一科生二科生関係なく達也君に質問してた生徒がいたからね」

 

 

 真由美は言えない部分を巧妙に隠し、泉美を納得させる事に成功した。真由美は一高に在籍していた中で、深雪以外で唯一達也本来の魔法を両方目にしているのだ。「再成」と「分解」、説明を受けたのは再成だけだが、トラックを一瞬で消し去る魔法を見ているので、妹たちと七宝琢磨の魔法くらいなら瞬時に消しされるだろうと真由美は思っている。

 実際その通りで、達也は真由美が見た「分解」の応用、術式解散で三人の魔法を消し去ったのだ。

 

「これ以上私からは教えられないわ。もしまだ納得出来ていないのなら、達也君本人に聞く事ね。教えてくれるかは分からないけど」

 

「……分かりました」

 

 

 司波達也という人物を知ろうとすればするほど謎が増える一方で、泉美は頭を悩ませていた。深雪、真由美と真実を知っているであろう相手からはこれ以上聞き出せない。となると本人に聞くしか方法は残されていないのだが、本当に知って良いのだろうかと、今更ながらに泉美の中にそのような感情が芽生えたのだった。




泉美はどのような行動を取るのか……

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