劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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甘くなったかな……


IFルート エリカ編 その2

 ささやかな誕生会を終えた達也たちは、それぞれキャビネットに乗り込み帰路に就く。深雪たちもキャビネットに乗り込もうとして、同じ車両にエリカが乗って来たのを不審に思い達也を見る。

 

「今日はエリカがウチに来る事になった。問題は無いだろ」

 

「え、えぇ……問題はありません」

 

「ですがお兄様、エリカが泊まる部屋などありませんが?」

 

「俺の部屋に泊まってもらう」

 

 

 その言葉に深雪と水波の表情が変わる。達也の部屋に泊まるということは、達也と夜を共にするという事だ。この二人がそれをみすみすと許すはずもない。

 

「でしたらお兄様、エリカには私の部屋に泊まってもらい、私がお兄様の部屋に行くのはいかがでしょうか?」

 

「いえ、深雪姉さまにそのような事は。千葉様には私の部屋を使っていただき、私は達也兄さまの部屋に布団を敷いて寝ます」

 

「あの……あたしは達也君の彼女なんだから、二人が割り込む必要は無いと思うんだけどな?」

 

 

 二人が何を気にしているのか理解はしているが、それでもエリカは口を挿まずにはいられなかった。自分の立場を確固たるものにするには、この二人の妨害工作にも抗い、何としても達也の部屋に泊まるのがエリカの目標になっている。その事を理解している達也は、あえて何も口を挿まなかった。

 

「エリカ、だいたい貴女、入学した際にお父様から部屋を用意してもらうのを断ったのでしょ? なのになぜ今更千葉の家を出たいと思ったのよ」

 

「あの時は一人暮らし面倒だなーって思ったけど、達也君の部屋に居候させてもらうのなら話は別よ。あのクソ親父や行き遅れババアの顔を見なくて済むもの」

 

「私の仕事は達也兄さまと深雪姉さまの身の回りの世話です。千葉様の世話は含まれておりません」

 

「自分の事くらい自分でするわよ。あのクソ親父は金だけは持ってるっぽいし、あたしが出ていくとなれば喜んで仕送りしてくれると思うし」

 

「でもエリカ、お兄様のお部屋で生活するなんて、いくら正妻の子じゃ無くても父親がお許しになると思う? 自分の娘である事には変わりないのだから、みすみすと男の部屋に潜り込むのを善とするかしら? 特にエリカの家はそういう事に厳しいんじゃないのかしら」

 

 

 剣術の大家として体面を重んじる節が確かに千葉家には存在する。だがエリカにはそんな事はどうでも良いのだ。

 

「あたしが千葉の娘として認められて、まだ一年とちょっとよ。その娘が完璧に千葉の作法を覚えていると思ってるの? こういう時に便利よね、まだ一年しか千葉の娘として認められていないって事実は」

 

「で、ですが――」

 

「そのくらいにしておけ。何でお前たち二人はエリカを目の敵にするんだ」

 

 

 これ以上の論争は意味をなさないと判断し、達也が仲裁に入る。理由もしっかりと理解している達也だが、そうでも聞かないとこの二人は治まらないだろうと判断したのだ。

 

「だいたい水波、お前はあくまで従妹としてウチに居候しているだけだ。俺たちの世話は別に仕事では無いだろ」

 

「達也君、事情なら何となく知ってるから」

 

「それから、エリカは俺の客人だ。その客人に対して失礼だとは思わないのか」

 

「……申し訳ありませんでした、千葉様」

 

「エリカで良いわよ。千葉って苗字、大っ嫌いなのよ」

 

 

 エリカがあっさりと告げると、水波は達也に視線を向けた。自分の立場的に、達也の客人であるエリカを、苗字では無く名前で呼んでいいものかと悩んでいるのだ。

 

「本人がそれでいいと言っているんだ。いいんじゃないか」

 

「ではエリカ様、たびたびの御無礼、平にご容赦を」

 

「別にいいわよ。水波ちゃんや深雪の気持ちは、何となく分かるもの。ついさっきまであたしが抱えていたのと似てるから」

 

「エリカ……ゴメンなさいね。正式に付き合ってるって宣言してるのに、お兄様といちゃいちゃしてとか思ってしまって」

 

 

 何となく女の友情が再確認されたのを、達也は眺めていた。妹がそんな事を考えていたのかと、少し衝撃を受けていたのもその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に着き、エリカはとりあえずのものを達也の部屋に置いた。着替えなどは最低限のものを何時も持ち歩いているので何とかなるが、正式に家出をするとなるとやはり一度あの家に帰る必要がありそうだった。

 

「達也君、明日は無理なんだよね?」

 

「午前中は会議があるし、夕方から雫の家でパーティだからな。午後の僅かな時間なら空いているが、それで足りるか?」

 

「十分! あのクソ親父に仕送りの約束を取り付けて、ついでにあの行き遅れババアに自慢の彼氏を見せつけるだけだから」

 

「意外と腹黒いな、エリカも」

 

「達也君には負けるけどね」

 

 

 最高の笑顔でそう答えたエリカに、達也は苦笑いを浮かべる。自分でも腹黒いと自覚はしているのだが、改めて人に言われると思うところがあるようだ。

 

「いっそのこと、苗字を『司波』にしようかな。司波エリカ、意外と似合ってない?」

 

「元々がチバだからな。シバにしても大して変わらないからじゃないか?」

 

「そうかもだけど、漢字にしても違和感が無いんじゃないかな?」

 

「似合ってるとは思うぞ」

 

「……深雪は、四葉なんだよね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ達也君も……」

 

「俺は違う。四葉の血は引いているが、一員として認められて無いからな」

 

 

 エリカが恐る恐る聞いた事に対して、達也は実にあっさりと事実を告げた。薄々感づいていたエリカは、事実を告げられてもそれ程驚いたりはしなかった。

 

「じゃあ、このままあたしとお付き合いを続ける事も、結婚する事も出来るのね!?」

 

「水波が一人前になったら、おそらく俺はお払い箱だろうからな」

 

「お払い箱って……表現が古いわよ、達也君? ……お払い箱って?」

 

 

 何となく深雪と達也の関係が普通の兄妹では無い事はエリカも気づいている。だが、これから先に聞かされた事はエリカにとっても衝撃が大きいものであったのだった。




エリカのデレって難しい……

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