劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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どっちの彼氏が上とか……比べる必要あるのか?


IFルート ダブルデート編 その1

 魔法大学と防衛大学は行き来するのに苦労する距離では無い。その距離のおかげで、別の大学に進んだ真由美と摩利は比較的頻繁に会う事が出来ている。

 

「それで、どうなんだ達也君とは」

 

「別に摩利に心配してもらう事は無いわね。それより、そっちこそ修次さんとはどうなの?」

 

 

 卒業を機に達也と付き合い始めたおかげで、二人の会話は女子っぽいものになっている。表向きには達也が四葉である事は隠されたままだが、真由美と摩利には既にバレている。というか、真由美に教え、そのついでに摩利も巻き込んだ形だ。

 

「今度デートする約束なんだ。真由美こそデートとかしたのか?」

 

「私も今度の休みに達也君が誘ってくれたの」

 

「ほぅ、あの男にそういった行動力があったとは意外だな」

 

「私もびっくりしたんだけど、家の事情で深雪さんと水波さんが実家に戻るみたいなの。それで達也君は一日フリーになったからって」

 

「家の事情か……あたしには分からない世界だな」

 

 

 真由美は十師族、恋人の修次は剣の大家である千葉家の人間だ。家の事情といわれれば踏み込む事が出来ない話も慣れているだろう。だが摩利はそういった話には無縁の家の生まれで、自分で言ったように理解が及ばない世界なのだ。

 

「そんなわけで、今度のお休みは達也君と遊園地デートなの」

 

「なに? あたしたちも遊園地に行く約束なのだが……どこの遊園地だ?」

 

「どこって……ここだけど?」

 

 

 真由美が見せた遊園地の名に、摩利は思いっ切り見覚えがあった。

 

「あたしたちもそこに行くんだ。……一応聞くが、何時集合だ?」

 

「何時って……午前九時だけど」

 

「……まさか時間まで同じとは」

 

「何だかダブルデートみたいね」

 

「楽しそうだな、お前は」

 

 

 思いがけないダブルデートに、真由美は心躍らせ、摩利は深いため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日、集合時間二十分前に到着した達也は、お気に入りの書籍サイトを開いて真由美を待つつもりだった。だが、すぐそばに見知った顔を見つけ、どうしようか少し考えて声をかける事にした。

 

「千葉修次さんですよね。ご無沙汰しております」

 

「君は……確か……」

 

「吸血鬼騒動の時にお世話になりました、第一高校二年、司波達也です」

 

「そうだ、司波君だ! ……エリカから聞いたが『大天狗』風間玄信の部隊に所属しているそうだね」

 

 

 その一言で、達也はエリカがどうやって自分が四葉である事を伝えずに兄を説得したのかを理解した。

 

「風間少佐をご存知でしたか」

 

「その筋じゃ有名だからね。ところで、こんなところで何をしてるんだい?」

 

 

 小声での会話は終わり、修次は気になった事を達也に訊ねる。修次から見て、達也はこのような場所に来るようなイメージでは無かったのだ。

 

「待ち合わせです。恋人と」

 

「君もか。実は僕もなんだ」

 

「渡辺先輩、ですよね。去年の九校戦の時にエリカと一緒にいるところをお見かけしました」

 

「あ、あの場面を……いやー、恥ずかしいところを見られてしまったね」

 

 

 自分が妹に怒られている場面を見られたとしって、修次は少し顔を赤らめて視線を逸らした。

 

「おまたせ、達也君」

 

「すまんシュウ、遅れた」

 

「いや、それ程待ってないし、司波君と話してたからね」

 

 

 互いの待ち人が同時に現れたのに対して、達也も修次も驚いた様子は見せなかった。逆に待たせた方の二人――真由美と摩利は二人が驚かなかった事に驚いたのだった。

 

「何を話していたんだ?」

 

「司波君とはただならぬ縁らしくてね。去年の九校戦の時、エリカに叱られているところを見られてたらしい」

 

「あ、あれか……シュウ、エリカは問題無いのか?」

 

「大丈夫。今日は柴田さんと出かけると言っていたから」

 

 

 苦い思い出を呼び起こされ、摩利も苦い顔を見せた。そんな摩利の表情を見て、真由美が首を傾げ達也に問う。

 

「なんの話?」

 

「去年の九校戦、渡辺先輩が大けがをしましたよね」

 

「ええ、達也君が一目で骨折してるって見抜いて適切な処置を指示してくれたやつでしょ?」

 

「はい。その数日後、でしたか。九校戦の会場に修次さんが来られていたのですよ。エリカは修次さんがタイへ剣術指導に行っているはずなのに、何故この場所にいるのかと問いただしていました」

 

「ふーん、エリカちゃんもブラザーコンプレックスだったのね」

 

 

 真由美が何となく零したセリフに、修次が首を傾げた。

 

「エリカも? 他に誰かいるのですか?」

 

「達也君の妹だ。司波深雪、九校戦で見ただろ?」

 

「ああ、あの子か……エリカの友達だよね?」

 

「ええ、妹共々エリカさんには良くしてもらっています」

 

「あ、あぁ……こちらこそエリカと仲良くしてくれてありがとう」

 

 

 自分より年下の達也の見事な対応に、修次が若干たじろぐ。修次も若いころから大人の中で揉まれてきたが、達也ほどスレた感じでは無いのだ。

 

「それじゃあ、早速行きましょうか! ダブルデート」

 

「「ダブルデート?」」

 

「……お前、まだ言ってるのか」

 

 

 初耳の達也と修次は首を傾げたが、摩利だけは先に知っていたので呆れたように溜め息を吐いた。

 

「だって、折角同じ場所にいるんだもの。先輩カップルがどんなデートをするのか参考にしたいのよ」

 

「そんな恥ずかしい事出来るか! だいたいシュウだって嫌だろ?」

 

「僕は別に。摩利がいてくれればそれでいいよ」

 

「バカ……恥ずかしい事を言うな」

 

 

 ラブラブな二人を見て、真由美は対抗心を燃やす。一方の達也は呆れているのを隠そうともしない視線を二人に向けていた。

 

「達也君、折角だし腕でも組みましょうよ」

 

「何が折角なのかは分かりませんが、別に構いませんよ」

 

 

 初々しさのかけらも無い達也の反応にも、真由美は気にする事無く腕を絡める。そんな二人を見て、先輩カップルの摩利と修次は何処か気恥かしそうに視線を逸らしたのだった。




真由美と摩利ならありだな、この展開……

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