劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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黒威さんの為に……


IF微甘ルート 鈴音編

 十三束との模擬戦を終え、家に帰ろうと深雪たちと校門を出た達也は、そこで珍しい人物と鉢合わせた。

 

「市原先輩、お久しぶりですね」

 

「そうですね。卒業式以来でしょうか。司波君もお久しぶりです」

 

「そうですね。お久しぶりです、市原先輩」

 

 

 第一高校OGで、現在は魔法大学に通っている市原鈴音がそこにいたのだ。初対面の水波は、達也と深雪の共通の知り合いだということで挨拶をする事にした。

 

「はじめまして。達也兄さまと深雪姉さまも従妹、桜井水波と申します」

 

「市原鈴音です。こちらこそはじめまして」

 

「ところで市原先輩、このような場所に何か用事でもあるのでしょうか?」

 

 

 これが真由美なら、妹の様子を見に来たとか何とか理由を付けるだろうが、鈴音はハッキリと用件を伝えた。

 

「司波君に聞きたい事がありまして。この後時間、ありますか?」

 

「別に問題は無いですが、市原先輩が俺に聞きたい事とは?」

 

 

 達也としては、鈴音に何かを問われる覚えは無い。だから深雪と顔を見合わせて正直に鈴音に訊ねた。

 

「例の恒星炉実験について、どのような経緯であの実験を行ったのか、どのような道具を使って行ったのかを聞きたかったのです」

 

「あぁ、その事ですか。企画書程度ならお見せしますし、説明が必要ならそれも付き合います。水波、深雪と先に帰ってくれ」

 

「はい、達也兄さま」

 

 

 同じテーマを研究している仲間として、鈴音は達也の企画した実験に興味を惹かれたのだが、大学の方が忙しかったのか、数日たった今日聞きに来たのだ。それを一瞬で理解した達也は、鈴音に説明する為に寄り道をすると二人に告げ、行きつけのアイネブリーゼは避けて別のカフェに歩を進めた。

 店に入るなり、店員が二人を見て固まったがそれは一瞬の事、すぐに席に案内してもらい、注文した品が来るまで二人は無言で待ち続けた。そして運ばれてきたコーヒーを一口啜り、鈴音から口を開いた。

 

「あの実験は見事でした。時間さえあれば実験そのものを見学したかったのですが」

 

「別に事前に告知していたわけではありませんからね。時間があったとしても、市原先輩が実際に見られたかは微妙です」

 

「何故あのタイミングだったのですか? 司波君の事ですから、偶々民権党の神田議員が訪問する日だったというわけではありませんよね」

 

「さすがですね。実はあの日に神田議員が来るのは知っていました。そしてマスコミを使って反魔法師運動を企てる計画だと知ったので、それを利用して逆の世論操作をしようとしたのです。そうしたら思いのほか効果があってその必要は無くなりましたが」

 

 

 誰にでも話せる内容ではないが、鈴音なら言いふらす事はしないだろうと判断した達也は、裏事情も込みで鈴音に実験を行った経緯を話した。その経緯を聞きながら、鈴音は達也が端末から呼び出した企画書の原案を必死に見ていた。

 

「なかなか興味深い研究ですね。廿楽先生が興味を持たれたのも納得です」

 

「あのメンバーだから出来たんですよ。俺一人ではまだ無理です」

 

「それは去年の論文コンペの時の私も同じです。司波君や五十里君、そして沢山の手助けがあったからこそあの発表が出来たのです。アプローチ方法は違いますが、同じ目的の為に動いているんです。司波君は私より数段先を行ってますけどね」

 

 

 原案を達也に返し、鈴音はホッと一息吐いた。あまりにも興味深く、集中して読んでいたので、自分のカップの中身が空になっている事に気づかず、鈴音は空のカップを口に運び、そして少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「私も参加してみたかったですね、この実験は……五十里君や中条さんが羨ましいです」

 

「企画の段階で五十里先輩と中条先輩には話していましたので、もしかしたら七草先輩や市原先輩にも話が行くかもとは思ってたんですけどね」

 

「残念です。今度またする時は声をかけてください」

 

「分かりました。ところで先輩、CADの調整の腕は上達しましたか?」

 

「……司波君に教えてもらわないとまだダメですかね。付き合ってもらえますか?」

 

「構いませんよ。時間があるならこの後でも」

 

「ええ、大丈夫です。場所は一高ですか?」

 

 

 鈴音の頭の中には、調整機器がある場所で入れそうなのは一高だけだった。だが、達也の提案は別の場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 司波家を訪れた鈴音は、本格的な調整機器が揃ってる地下室を見て驚きを隠せない様子だった。それだけここには本格的な機器が揃っているのだ。

 

「では始めましょうか」

 

「えっと……誰のCADを調整するんでしょうか」

 

「ここに水波の調整前のCADがあります。データ測定は済ませてますので、試しに調整してみてください」

 

「分かりました」

 

 

 達也に手渡されたCADと測定データを元に、鈴音は水波のCADの調整を始める。その横では達也が別の作業を始めたが、鈴音にそれを気にする余裕は無かった。

 

「えっと……ここはどうすれば……」

 

「そこは、こうですね」

 

 

 背後から抱き締めるように鈴音の手を取り、そして手順を教える達也。もし第三者が見たら勘違いするだろう――

 

「お兄様! 市原先輩と何をしているのですか!」

 

 

――このように。

 鈴音の前だという事を失念した深雪は、何時ものように達也に攻撃する。鈴音から見ても致命傷だったはずの深雪の攻撃は、次の瞬間には何事も無かったかのように流されていた。

 

「市原先輩に調整の手順を教えていただけだ」

 

「そうでしたか。失礼しました、お兄様」

 

「あの……今のはいったい……司波君は深雪さんの攻撃が直撃したのでは……」

 

「あっ! えっと今のは……」

 

 

 焦り出した深雪に微笑み、達也は深雪を地下室から追いやった。つまり説明は自分でするから、深雪は落ち着きを取り戻せという事だ。

 

「これから話す事、内緒にしてください」

 

「では条件で、なるべく土日は私の為に時間をください」

 

「……可能な限り鈴音さんに時間を差し上げます」

 

 

 それくらいなら問題ないと判断した達也だったのだが、調整の為では無くデートやら買い物などに付き合わされ、その都度深雪と水波が機嫌を悪くするので、そっちの対応に追われ、自分の時間が更に少なくなったのだった。




全然イメージが湧かなかったので、こんな感じに……

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