劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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エイミィって難しいんだな……


甘IFルート エイミィ編 その1

 十三束との模擬戦の後、達也は残っていた生徒会の仕事を片付けて昇降口へと向かう。深雪と水波は別の昇降口なので、一旦別れて校門で合流する手筈になっているのだ。

 

「おっ、司波君はっけ~ん!」

 

「エイミィか……君も昇降口は向こうじゃないのか?」

 

 

 気配でエイミィがついて来ているのに気づいていた達也は、何故深雪たちとでは無くこちらに来たのかを訊ねる。

 

「十三束君と戦ったんだってね~。それで、結果は?」

 

「一応俺の勝ちって事になったが、まともに喰らわせた攻撃は十三束の方が多いな」

 

「そうなんだ。やっぱり司波君は戦闘になれば強いんだね」

 

「……何故そう思うんだ?」

 

「ほら。去年の九校戦だって、森崎君たちの代わりにモノリス・コードに参加したでしょ? あの時、森崎君たちには悪いけど、司波君たちが代わりに出たから三高のプリンスに勝てたんだってみんな言ってたから」

 

 

 確かに達也だから、あの攻撃を喰らっても生きていたのだし、レオだから生身でプリンスの攻撃を防げたのだ。だが、もし森崎たちがそのまま参加していればプリンスも別の戦い方をしただろう。そうなった場合、結果がどうなっていたかなど達也には関係ない。妄想に耽る趣味は持ち合わせていないのだから。

 

「それに、詳しい事は教えてもらえなかったけど、論文コンペの時だって司波君が活躍して大陸の魔法師の侵略を防いだって聞いたよ」

 

「あれは十文字先輩と一条が中心となって撃退したんだ。俺は避難する手助けをしたに過ぎない」

 

「そうなの? でもほのかが興奮して喋ってたから、きっと司波君も活躍したんだと思ってた」

 

 

 興奮しても、ほのかは口止めされた事は内緒にしているようだと、達也はその事に意識を向ける。万が一口を滑らせば、自分が消し去る事になるのだから……自分に好意を向けてくれている女の子を消すのは、さすがの達也も避けたい事なのだ。

 

「それにしてもエイミィ、こんな時間まで何をしていたんだ? 狩猟部は今日活動してないだろ?」

 

「あはは……さすが司波君。クラブ活動の日時まで把握してるなんて……」

 

 

 元風紀委員で、現生徒会副会長なので、それくらいは容易いものだとエイミィは納得したが、達也は別に全ての部活動の活動時間を把握しているわけではないのだ。

 

「さっきチラッと見た時、狩猟部の馬が繋がれていたから知ってるだけだ。部活動の活動時間まで把握しているわけではない」

 

「なるほど……でも、そんな小さな事でも覚えてるんだから、やっぱり司波君は凄いよね」

 

「そうか?」

 

「うん! あっ、駅まで一緒に帰っても良いかな?」

 

「別にそれは構わないが……」

 

「じゃあ待ってて! すぐ外に出るから」

 

 

 別に外履きに履きかえるわけでもないのだから、エイミィが魔工科の昇降口から外に出る分には何も問題無いのだが、普段使ってる昇降口を使ってしまうのは習慣なのだろう。達也はそう結論付けて、深雪たちが待っている校門へと歩みを進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也と合流した深雪と水波だが、一人多い事が気掛かりでチラチラとその一人に視線を向けている。向けられている方は気づいてないのか、ニコニコと達也に話しかけていた。

 

「それにしても、司波君は凄いよね」

 

「何がだ?」

 

「さっきの十三束君との模擬戦も凄いと思ったけど、あの実験も凄かったじゃん。あんなの私には計画出来ないな~」

 

「当たり前よ。私にだって無理だもの。あれはお兄様だから計画出来たのよ」

 

「だよね。さすが司波君!」

 

 

 深雪の嫌味にも気づかず、エイミィは無邪気に達也を褒め称える。普段なら兄が褒められるのは嬉しい事なのだが、今の深雪は何処かつまらなさそうに見えた。

 

「そう言えばエイミィ、貴女十三束君の事が好きなんじゃ無かったの?」

 

「えっ? 十三束君はお友達として好きだよ」

 

 

 悪意の無い、本人が聞いたらどう思うか分からない事を平然と言ってのけるエイミィに、深雪は少したじろぐ。異性として、では無く友達として。つまり今のところはそれ以上にはなり得ないと言ったのだ。

 

「十三束君は確かに人気だけど、私は司波君の方が良いな。色々知ってるし、勉強も教えてもらったし」

 

「今度の試験は自分で何とかするんだな」

 

「えー! そんな事言わないで教えてよ~」

 

 

 達也にべたべたと触れるエイミィ、その背後では氷界の女王が降臨しているのだが、エイミィは気配を探る事など出来ないので、その事には気づかない。達也がアイコンタクトで深雪を宥めたおかげで辺り一面に霜が降りるなどという季節外れの現象は起こらずに済んだのだが、それでも深雪の機嫌は治らない。

 

「ねぇ司波君」

 

「なんだ?」

 

「名前で呼んでも良いかな? 深雪って呼んでるけど、司波君の事は『司波君』だったし」

 

「前は『達也さん』だったような気がするが?」

 

「うーん……何となく違うかなって思ってさ。でも、やっぱり距離を感じちゃったから」

 

「エイミィの好きに呼んで構わない」

 

「ほんと!? じゃあ達也さんだね」

 

 

 名前で呼ぶ事で、エイミィと達也の距離が詰まったように深雪には思えてならなかった。水波が懸命に抑えているから掴みかかる事は無いが、もし水波がいなかったら掴みかかっていただろうと達也は他人事のように考えていた。

 

「ねぇねぇ達也さん、今度のお休み、一緒にお出かけしようよ。もちろん、深雪や桜井さんも一緒に!」

 

「ゴメンなさい。次のお休みは私と水波ちゃんは用事があるの。お兄様はどうなさいますか?」

 

「あそこに行くのは避けたいからな……俺はエイミィと出かける」

 

「そうですか……エイミィ、くれぐれもお兄様にご迷惑をかけないようにね」

 

「分かってるって! 子供じゃないんだから」

 

 

 深雪の言葉の裏に隠された、本当の意味をエイミィは理解する事が出来なかった。深雪はエイミィに――

 

「お兄様に近づきすぎるのなら容赦しない」

 

 

――と告げたのだ。だがエイミィはその事に気づかない。

 駅で別れたエイミィは、次の休みを楽しみにしているように深雪と水波には見えたのだった。一方の達也は、深雪たちの用事――四葉本家への訪問を避ける口実が出来た事を喜んだ反面、この後の二人の行動を考えて頭を悩ませていたのだった。




十三束ではなく達也につけた手前、やらないわけには……

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