劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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平和な物語にならないな……


甘IFルート エイミィ編 その2

 達也との約束を翌日に控えたエイミィは、朝からそわそわしていた。狩猟部の練習中だというのに、何処か上の空だったり部長の説明を聞いていなかったりと普段とは別人じゃないかと疑いたくなるほど静かだったのだ。

 

「明智さん、何かあったの?」

 

「えっ!? えっと……なんにも無いよ?」

 

「嘘おっしゃい! 何時もらしくないんだから、絶対に何かあるって分かるわよ」

 

 

 休憩時間にエイミィは狩猟部の仲間から質問責めにあう。それだけ今日のエイミィはらしくないのだ。話していいのか悩んだエイミィだが、達也がこの程度で怒るはずもないと考えて理由を話す事にした。

 

「えっとね……明日、達也さんと二人っきりでお出かけする事になったの。だからちょっとそわそわしてるかもとは思ってる」

 

「ちょっとどころじゃないけどね」

 

「てか、司波君と二人っきり!? なんて羨ましい……」

 

「これが彼女の特権だというのか……」

 

「二人っきりって事は、深雪さんは?」

 

「なんかお家の用事で桜井さんと出かけるんだって。本当は達也さんも付き合うはずだったんだけど、向こうの事情で来なくてもよくなったって言ってた」

 

 

 さすがに達也が四葉である事を話すわけにはいかないので、エイミィは嘘っぽくない嘘で誤魔化す事にした。

 

「お家の事情か……深雪さんって何処かのご令嬢なのかな?」

 

「雫と同じぐらいの資産家の家だったりして」

 

「あっ、何でもお父さんがFLTの重役だって聞いたけど」

 

「そうなの!? 凄いな~」

 

 

 実際はそれどころでは無い程の名家なのだが、表向きの身分でも深雪たちは十分凄いのだ。シルバーモデルで有名なFLTの重役ともなれば、かなりの年収が見込まれるだろうと考えて、狩猟部の女子たちはそれ以上詮索する事は無かった。

 

「(何とか達也さんたちが四葉だって事を隠して、それっぽい理由を作れた……やっぱり嘘を吐くのは苦手だな……)」

 

 

 明るく人懐っこいエイミィは、普段から嘘を吐く事を嫌っている。それでも嘘を吐かなければいけない場合は、今のように所々本当の事を混ぜて話を作るように達也に教わったのだ。それくらい、達也たちの秘密は公にする事が出来ないものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上の空だった部活とは一変して、家に帰ったエイミィはずっと頬が緩んでいた。母親から心配されるくらいだらしない顔をしていたのだが、そんな事が気にならないくらいお出かけが楽しみだったのだ。

 そして当日、エイミィは待ち合わせの一時間も前に到着したのだった。

 

「いくらなんでも早すぎたな……どこか近くのカフェで時間でも潰さなきゃ……」

 

 

 いくら早めの行動をとる事を善としている達也でも、さすがに一時間前にはいない。その事を分かっていながらも緊張で早く来すぎたエイミィは、近くのカフェに入ろうとしたのだった。だが、エイミィはあまり自覚していないし、周りが凄すぎるので目立たないが、彼女もかなりの美少女なのだ。その美少女が一人で行動していれば、おのずと男どもが寄ってくるのだった。

 

「彼女一人? だったら俺たちと出かけないか?」

 

「? もしかして私ですか?」

 

「そうそう、君だよ。休日に一人なんて寂しいでしょ? だから俺たちと遊ぼうぜ」

 

 

 こういった旧世紀の遺物とも言えるナンパ男は、この時代にも存在しているのだ。明らかにチンピラ風情の男数人に囲まれている事に気付いたエイミィは、身の危険を感じつつも独力での脱出を試みた。

 

「連れを待っているところなので、失礼します」

 

 

 これで逃げられるなら、エイミィも苦労しなかった。当然の如くエイミィの言い分は聞いてもらえず、男たちはさらにエイミィとの距離を縮める。

 

「そんな事言って、連れなんて何処にもいなかったじゃん」

 

「ウソはいけないな~。お母さんに言われなかった?」

 

「別に酷い事しようなんて思って無いんだよ。ただ一緒に遊ぼうって言ってるんだぜ」

 

「嘘じゃないです。本当に連れを待ってるだけなんです」

 

「またまた~。だったらその連れが何処にいるか教えてよ。俺たちが交渉して一緒に遊んでも良いって言わせてやるから」

 

 

 懐からナイフを取り出してちらつかせる男に、エイミィは――彼女にしては珍しく嫌悪感をあらわにした。

 

「貴方たち、モテ無いんだ」

 

「「「「んなっ!」」」」

 

「悪いけど、貴方たちは私の趣味じゃないんだ。他の人をあたってくれる?」

 

 

 こんな事を言えば確実に激昂すると分かっていながらもなお、エイミィは男たちにそう言いたくなったのだ。一人では誘えず、魅力で勝負出来なければ脅しで女性を誘うなんて下種な考えがエイミィは許せなかったのだ。

 

「この女! 下手に出れば調子に乗りやがって!」

 

「こっちに来い!」

 

 

 強引にエイミィの腕を引っ張ろうとした男の腕を、第三者の腕が掴み捻り上げた。

 

「イテテテテッ! クソっ、誰だ!」

 

「この子の連れです。何か用があるんじゃないのですか?」

 

 

 普段見せない笑みを浮かべながら、男の一人の腕を軽々と捻り上げた達也。その姿に残りの男たちが怯み、数歩エイミィから離れた。

 

「達也さん!」

 

「随分と早いな。まだ三十分以上前だぞ」

 

「ゴメンなさい。楽しみでつい……」

 

「そうか。……さて、人の連れにちょっかいを出そうとしたんだ、覚悟は出来ているんだろうな?」

 

「何を――ギャァ!?」

 

 

 捻り上げた腕に、達也が指を突き立てた。八雲直伝の指圧技で、その衝撃は激痛では収まらないくらいの威力だ。

 

「大人しく帰るのでしたら、見逃してあげない事もありませんが」

 

「「「………」」」

 

 

 仲間の一人が必死に助けを求めているのに対し、残りの男たちは何も言えずに達也から視線をそらせなくなっている。

 

「どっちが良いですか? 大人しく帰るか、こうなるか」

 

「わ、分かった! 帰るから! 謝るから!」

 

 

 指圧する指に更に力を込めようとしたタイミングで、捻り上げられた男が懇願してきた。それに倣うように、残りの男たちもエイミィに謝罪して逃げかえって行くのだった。

 

「やっぱり、達也さんは王子様みたいですね。ほのかが夢中になるわけです」

 

「王子って柄じゃないさ。精々参謀ってところじゃないか?」

 

 

 その後のデートは、エイミィが満面の笑みを浮かべて帰る程、楽しかったのだった。




達也に睨まれたら逃げるかもな……

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