劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久しぶりにあの子たちが……


変更の問題点

 今日も達也たちは放課後の定番、行きつけの喫茶店「アイネブリーゼ」に寄り道していた。メンバーは達也たち二年生八人と一年生が水波一人。途中まで一緒だった泉美は混ざりたそうな顔をしていたが、双子の姉の香澄が絶対に居心地が悪いと判断して泉美を連れてまっすぐ帰る事にしたので、泉美もそれに従った。

 居心地が悪い、というのも無理は無いだろう。双子が多かれ少なかれ意識している相手を、自分たちより先に意識している相手が複数人いるのだ。下級生の身でその中に混ざるのはかなりの勇気がいる行動だ。その点、水波は役目という名目で同行出来たので良かったのかもしれない。

 

「達也、九校戦の種目が変更になったって本当かい?」

 

 

 オーダーを済ませてすぐに、幹比古から達也へ質問が飛んだ。実を言うと放課後のコーヒーブレイクを言い出したのは幹比古だ。何か訊きたい事があるに違いないと分かっていた達也だったが、この早さには少し驚いていた。

 

「随分と耳が早いな。誰に聞いたんだ?」

 

「委員長と五十里先輩が話してた」

 

 

 幹比古への質問の答えは、雫からもたらされた。

 

「詳しい内容までは知らないんだけど」

 

「今日生徒会宛てに通知が来た。スピード・シューティング、クラウド・ボール、バトル・ボードが外れて、ロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウン、スティープルチェース・クロスカントリーが加わる」

 

「それ、どういう競技なの?」

 

 

 達也が生徒会室でしたのと同じ説明をエリカに行うと、彼女はニンマリ笑みを浮かべた。

 

「へぇ……楽しそうじゃない。特にシールド・ダウンとか」

 

「えっ、そうかな……何だか怖そう」

 

 

 エリカの感想は心なしか弾んで聞こえたが、見るからにワクワクしている友人に美月が控えめな反論を行った。

 

「うん……去年まで採用されていた競技はどれも、選手同士が直接ぶつかりあわないものばかりだったよね」

 

「モノリス・コードですらそうだったのに」

 

 

 ほのかのセリフに美月は自身もそう思っていたのか、すぐに相槌を打った。

 

「でも本当に危ないのは、シールド・ダウンよりスティープルチェースの方だと思う」

 

「ええ。お兄様もそう仰っていたわ」

 

 

 そこへ雫が意見を挿み、深雪がその言葉に頷いた。

 

「なぁ達也、今回変更になった競技ってやけに軍事色が強い気がすんだけど?」

 

 

 レオの問い掛けはこの場にいる全員が何となく感じている事だった。

 

「そうだな。おそらく横浜事変の影響だろう。去年のあの一件で国防関係者が改めて魔法の軍事的有用性を認識し、その方面の教育を充実させようとしてるんじゃないか」

 

「反魔法主義がマスコミをアジっている通りになってるね」

 

 

 エリカが人の悪い笑みを浮かべて茶々を入れる。彼女の皮肉な混ぜっ返しを達也は笑ってすませる事が出来なかった。

 

「ああ、時期が悪いとしか言いようが無い。何故こんな分かりやすい変更を行ったのか……現下の国際情勢で焦る必要は無いと思うんだがな……それはとにかく、これから忙しくなりそうだ」

 

 

 達也の言葉にほのかと美月が不安を覚えたのか表情を曇らせたのをみて、達也はことさらうんざりした様子で続けた。それは全くの演技ではなく、今回の事で達也は快適な放課後が暫くの間お預けになるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦の競技変更が送られてきて困惑していたのは一高生徒会だけでは無い。三高の有力選手たちも今回の競技変更には頭を悩ませていた。

 

「今回の変更、どういう理由が考えられるか香蓮さん、何かあります?」

 

「そうですね……去年の横浜事変の影響で、国防軍が魔法協会に圧力をかけたのかと」

 

「じゃが香蓮よ、この時期にそのような変更を行えば、マスコミが騒いでおる反魔法師主義者共が勢い付くじゃろ」

 

「沓子の言う通りだろうけど、香蓮の考えも事実っぽい」

 

 

 三高女子エリート集団と呼ばれる一色愛梨、十七夜栞、四十九院沓子、そして九十九崎香蓮の四人は、師補十八家である一色家に集まり九校戦の競技変更について話しあっていた。

 

「この時期の変更には確かに疑問は感じますが、今回の変更は我々三高に有利だと思います」

 

「……どういう事?」

 

「今回の入れ替えで追加された競技は、どれも実戦的な色彩が強いものです。一高より三高に有利だと思います」

 

「そうじゃの。一高は生徒の国際評価基準のランクアップに重きを置いておるから、魔法技能の向上に直結しない戦闘技術は重視されておらんからの」

 

「マジック・アーツの沢木選手や、あのお方とかの例外はいますけど、学校全体として見れば実戦的な魔法は一条たちが上だものね。九校戦の選手団に限ってもこちらに分があるわね」

 

 

 香蓮、沓子、栞の意見を聞いていた愛梨は、その意見に同意する動きを見せたが、完全には納得していないようだった。

 

「愛梨、どうかしたのか?」

 

「九校戦の勝敗は出場選手の平均順位ではなくて、各競技の順位に応じた得点の合計で決まる。今回の協議ルールですと、ミラージ・バット以外は一競技に一人、ペアですと一組しかエントリー出来ないもの。誰をソロに持って行き、誰をペアに組ませるか、その人選が鍵よ」

 

「ワシとしては、バトル・ボードが無くなって不満じゃが、あの光井選手ともう一回戦ってみたいの」

 

「スピード・シューティングも外れたから、私も何でも良いわよ」

 

「では、正式に決まりましたらお伝えします」

 

 

 得意分野が無くなってしまった二人は、とりあえず何に決まっても全力で取り組む姿勢を見せた。だが、それ以外にも気になってる事がこの四人には存在している。

 

「ところで、香蓮さん。今年も達也様は参加なさるのかしら?」

 

「どうでしょう……去年は急な代役としてモノリス・コードに出場されてましたが、基本的にはエンジニアとしての参加でしたし」

 

「あのお方の調整したCADは、ワシたち相手にも有効じゃったからの。間違いなく参加するじゃろうて」

 

「リベンジしたい気持ちもあるけど、もう一度会いたい気持ちの方が大きい。愛梨もでしょ?」

 

「えぇ……論文コンペ以降まともにお会いできてませんし……」

 

 

 勝敗よりもそっちが気になって仕方なくなっている四人は、その後暫く思い出の中の達也を感じていたのだった。




口調を改めて再登場させました。原作では将輝と真紅郎ですが、ここでは愛梨たちで。てか、沓子の口調難しい……

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