劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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本当はカットしたかったんですがね……


蠢く闇

 今日も烈は朝から日が傾くまで旧第九研で陣頭指揮を執っていた。この後も予定が入っていなかったら夜中まで研究所を離れなかっただろう。その会食の予定も九校戦に強い影響力を持つ元軍人の政治家のご機嫌取りの為、招待に応じたものだった。

 午後六時過ぎ、烈が大阪の料亭へ向かい、その後を任された真言がデスクの前に腰を落ち着けた丁度その時、守衛から来客を告げる内線電話が掛かって来た。

 

「客? そんな予定は入っていないが。何者だ?」

 

『横浜中華街の周公瑾と名乗っております。用件は旦那様に直接申し上げたいとの事ですが、如何致しましょうか』

 

「すぐに行く。応接室に通しなさい」

 

 

 横浜中華街の周公瑾という名に真言は聞き覚えがあった。たとえ他の二十八家は聞いた事が無くても旧第九研を出自とする「九」の家にとって無視できない名前だ。真言は自らの言葉通りすぐに立ち上がり応接室へと足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周との会談を済ませた真言は、彼から渡されたデータに目を通して研究所の警備主任を呼び出し、周公瑾の来訪について緘口令を敷くように命じた。

 

「先代にもこの事を知らせてはならない。良いな」

 

 

 秘密にしておく対象に九島烈も含まれる事を真言は特に徹底するよう指示した。訝しげな顔で警備主任が退出するのを見送って、今度は私的に使っている情報屋を呼び出す。一時間弱でやって来た情報屋に、真言は周公瑾の申し入れに関する裏付け調査を依頼する。

 一通りの手配を終え、真言は背もたれに寄りかかり大きく息を吐いた。

 

「黄巾力士か……都合が良すぎるな」

 

 

 ポツリと呟いたのは、食客として受け入れ要請された方術士のプロフィールに搭載されている専門分野に関する記述。パラサイドールの開発のタイミングを見計らっていたように持ち込まれた専門家の売り込み、周の依頼を真言はそう理解した。パラサイドールの開発が極秘プロジェクトであるにも拘わらず、周はその情報を手にしている。真言にはそう思えた。

 

「情報が漏れているとすれば憂慮すべき事態だが……」

 

 

 しかし傀儡法、成兵術、ゴーレム魔法など、無機物の人形を遠隔操作する術式は古式魔法が現代魔法より一歩も二歩も先んじている。パラサイドールに必要とされる技術は意思の無い人形を操る魔法ではなく機械人形に宿した魔性を支配する術式だが、SBをエージェントにして人形を操る古式魔法との共通点は非常に多い。

 これらを合わせてれば、大陸の失われた秘術「黄巾力士」を研究する魔法師は、パラサイドールの開発を進める上で是非とも欲しい人材だった。

 

「まあいい。虫となるなら捻り潰すだけだ」

 

 

 獅子身中の虫であろうと三戸の虫であろうと。心の中でそう呟いて、真言は独白を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末になって第一高校は漸く九校戦の「運営ショック」から脱却しつつあった。七月二日にもたらされた競技種目変更の報せから代表選考のやり直しを経て、七日土曜日、競技の練習が再開された。火曜日から定期試験だがその前に一度でも新代表で練習しておこうということになったのだ。特に新種目のロアー・アンド・ガンナーとシールド・ダウンは競技のイメージを掴む為に模擬戦をやってみようという話になった。

 今女子のリングではシールド・ダウンのソロ代表の千倉朝子がエリカと対戦していた。

 

「くっ、速い……!」

 

 

 朝子はさっきから偏倚開放の魔法でエリカをリングの外へ押し出そうとしている。だが自己加速魔法を使うエリカの動きにまるでついていけていない。ジグザグにステップを踏むエリカの身体を朝子が見失った次の瞬間、彼女のシールドを強烈な衝撃が襲った。

 山津波の応用でエリカが朝子のシールドに自分のシールドを叩きつけ、接触の瞬間、自分の楯の慣性を極大化させていたエリカの強打は、朝子をシールドごとリングの外へ弾き飛ばした。

 場外に敷き詰められたクッションに背中から落ちて埋まってしまった千倉朝子をリングから飛び降りたエリカが手を貸して引っ張り出している。それを達也の隣で見ていた服部がため息を吐き、そんな自分を達也が横目で伺っているのに気付いた服部は、男子用のリングに顔を向ける。そこでは沢木・レオのペアが桐原・十三束の代表ペアと一戦交えていた。

 リングの中央に腰を落としたレオが桐原の刺突を受け止める。小揺るぎもしないレオも大したものだが、完全に防ぎ止められた反動を受けながら体勢を崩さない桐原もさすがだった。

 二人の動きが止まる。そこを狙い十三束がレオに攻撃を仕掛けた。しかしその直前、十三束の身体が突風に襲われた。

 

「うわっ!?」

 

 

 十三束が桐原の右に回り込んだように、沢木がレオの左側に回り込んでいたのだ。左腕に片手持ちの盾を固定した沢木が、右の拳を突き出していた。沢木が得意とする拳速による空圧波。十三束の小柄な身体がキャンバスを転がる。辛うじて場外転落を免れたが、遠隔攻撃手段を持たない十三束はこの瞬間において戦力外となる。レオと鍔迫り合いならぬ盾迫り合いを演じていた桐原が、それを見て空いている左手で右腕に巻いたCADを操作した。二対一の状況を打破する為の一手。レオの盾を破壊すべく編み上げた魔法は、盾を媒体とした「高周波ブレード」。高速振動術式と自壊防止術式が桐原のシールドに作用した。振動は接触しているエッジからレオの盾に伝わり――

 

「ぬおっ!?」

 

 

――桐原の盾が半壊した。

 思わず驚愕の声を漏らした桐原だが、それも無理は無いだろう。振動の反作用で盾が壊れたという事は、桐原の自壊防止術式がレオの硬化魔法に力負けしたという事なのだから。棒立ちとなった桐原の盾に、今度はレオがシールドのエッジを叩きつける。魔法で強度を増したレオのシールドが、桐原の盾を叩き割り、この模擬戦は沢木・レオペアの勝ちとなった。




周公瑾、面倒だからカット。だが内容は残しておかないと後で面倒になるので……
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