劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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嫌悪感を持っていないから、香澄のセリフを大幅に改編……疲れた……てか、難しい。


いざ、会場へ

 今年の九校戦は八月三日が前夜祭パーティー、五日に開会、十五日閉会のスケジュールになっている。競技日程だけは去年より一日多い十一日だ。ただ日数は変わっても開催場所は変わらない。一高の選手団は例年通り、前夜祭パーティー当日午前八時に学校集合で、そこから大型バスとエンジニア用の作業車に分乗して会場に隣接するホテルへ向かう段取りだ。

 今年は技術スタッフに一年生が二人参加している。男子一名に女子一名だ。そのうち男子生徒の方は隅守賢人だ。達也から移動中の注意を受けている賢人は、尻尾があればブンブン振っていそうな雰囲気があった。

 

「あの男子生徒、もしかして司波先輩の事が?」

 

「香澄ちゃん、この間もですが気持ちの悪い妄想は止めてください」

 

 

 この間――ファッションビルでの一件は、香澄の中でまだ処理しきれていないらしい。

 

「ところで、あの3Hってお姉ちゃんが言ってた……」

 

「何かあるのでしょうかね」

 

 

 ピクシーの中にパラサイトが宿っている事は、香澄も泉美も姉の真由美から聞いていた。その所有者が達也である事も知っているのだが、二人は単純に達也がピクシーに世話を焼いてもらいたいだけだとは思えなかったのだった。

 

「香澄」

 

「あっ、北山先輩」

 

「何してるの? そろそろ時間だよ」

 

「はい! ……ところで北山先輩は、司波先輩の事をどう思っているんですか?」

 

「司波先輩って……達也さん?」

 

 

 チョコンと首を傾げた雫を、香澄と泉美は可愛いと思ってしまった。普段感情をあまり見せない雫がこのような仕草を見せる事は、二人が知る限り無かったのだ。

 

「だって司波先輩ってモテるんですよね? お姉ちゃんから聞きましたけど、去年のバレンタインは凄い事になってたとか」

 

「その時は私、アメリカにいたから詳しい事は知らないけど……確かに凄かったらしいよ」

 

「あっ、留学なさってた先輩って北山先輩だったんですね」

 

 

 交換留学の話は泉美も知っていたが、それが雫だったとはさすがに知らなかったようで、泉美は驚いたような表情を見せた。

 

「達也さんの人気は、一高だけじゃないけどね」

 

「それって……」

 

「とりあえずバスに乗って。話はそこでするから」

 

 

 出発の時間が迫ってきているので、雫は双子を急かすようにバスに乗り込ませた。雫はチラッと背後を振り返り、そして少し照れた顔をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年は途中事故も無く、バスの中に不穏な空気が漂う事も無く、一高選手団は無事ホテルに着いた。細かなトラブルも起こらず全てが予定通りに進み、前夜祭パーティーの開幕を迎えている。達也も既に会場入りしており、去年と違い自分の制服を着ている。その肩に刺繍された八枚ギアのエンブレムを見て、隣に控えていた深雪が嬉しそうに微笑んだ。

 

「深雪、何を笑っているんだ?」

 

 

 愛想笑いか本物の笑顔か、達也は見分ける事が出来る。妹が浮かべた嬉しそうな微笑みの理由が何となく気になって、達也はそう問いかけた。

 

「お兄様に魔工科の制服が良くお似合いで、深雪は嬉しくなってしまったのです」

 

「どうしたんだ、改めて。もう四ヶ月も見ているはずだぞ」

 

「私もそう思いますよ、達也さん!」

 

「私も」

 

「うん。借り物だった所為かな。去年は何となくしっくり来ていない感じだった」

 

「そーだねー。達也さんは一科生でもおかしくない成績だったけど、やっぱり普段見慣れて無いからおかしな感じがしてたしね」

 

 

 深雪に張り合うように、ほのかと雫が同調。それに続いてスバルとエイミィも深雪の考えに同調した。達也が困惑しているのに同調したのは、水波ただ一人だった。達也の周りには今、ピラーズ・ブレイクのソロの深雪、ペアの雫、ミラージ・バットのほのかとスバル、ロアー・アンド・ガンナーのペアのエイミィ、それに加えて水波が彼を囲っている。傍から見れば完全にハーレム状態だが、更なる要因が達也の側に姿を現した。

 

「お久しぶりですね、達也様」

 

「久しいのぅ、光井殿も元気かの?」

 

「あっ、お久しぶりです、四十九院さん!」

 

「今年は競技が無いから無理だけど、来年は絶対に貴女に勝つわ、北山さん」

 

「うん、臨むところ。私も負けない」

 

「皆さん、お久しぶりです」

 

 

 一条が遠くでどう声をかけようか悩んでいる間に、同じ三高の愛梨、栞、沓子、香蓮が達也の傍にやってきて、そのままハーレムの中に加わった。

 

「ところで達也様、今年は競技に参加されないのですか?」

 

「俺は技術スタッフだからな。そもそも去年だって選手としてエントリーはしてなかったんだが」

 

「達也さん、少し気になる事があるのですが……」

 

「なんだ?」

 

 

 この中での参謀である香蓮は、今回の九校戦に違和感を覚えていた。それが思いすごしならそれで良いと思っていたが、同じく参謀の位置にいる達也に意見を求めたいと思っていたのだ。

 

「競技内容の変更ですが、どう考えてもおかしいんです。スティープルチェースは観戦出来ないようになってるんですよ……モノリス・コードでさえ、森林ステージとかでもしっかりと観戦出来るようにカメラが設置してあるのに……」

 

「調べてみる価値はありそうだな。一条、頼めるか」

 

「なっ、何で俺が!」

 

「十師族だろ。親父さんに頼めないのか? まぁ、そんな事に手を割く余裕が無いのなら仕方ないが」

 

「そ、それくらいの人員は確保してある! 分かった、調べれば良いんだろ!」

 

「一条家がやらないのでしたら、私たち一色家が調べますわよ」

 

 

 同じ「一」の数字付きである愛梨から言われ、将輝は必要以上に強気に出た。

 

「それくらい俺たちが調べる! 二日か三日待ってろ!」

 

「ちょっと、将輝……」

 

 

 大口を叩いて踵を返した将輝に真紅郎が後を追う。その姿を見送って、愛梨たちは再び達也との歓談を開始したのだった。




将輝が本格的にモブみたいになったな……

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