劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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文弥、ケント、十三束のキャラが似てるような……


初対面…

 達也が将輝に調査を依頼したその頃、四高の男子生徒が雫に声を掛けてきた。

 

「雫さん」

 

「晴海従兄さん」

 

 

 声をかけられた雫は、軽く挨拶を返した。ほのかもその少年、鳴瀬晴海の事は知っているようで、互いに会釈を交わしている。雫が口にした「にいさん」という呼びかけに、深雪は雫の従兄が四高に通っているという話を思い出した。それを思い出す事で、男子生徒の後ろに続く四高の新入生から意識を逸らし知らないフリに成功する。

 集団から離れて従兄と言葉を交わしていた雫が何度か頷いて、深雪の側へ戻って来た。

 

「深雪、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「何かしら?」

 

「私の従兄が達也さんを後輩に紹介してほしいって」

 

「お兄様を?」

 

「うん。従兄は四高に通ってるんだけど、新入生が達也さんの噂を聞いて会いたがってるって」

 

「お兄様次第だけど、嫌とは仰らないと思うわ」

 

 

 そう答えて、深雪は達也の所へ小走りに駆け寄る。愛梨たちが深雪に鋭い視線を向けたが、深雪は特に気にした様子も無かった。

 

「お兄様、少しよろしいですか。四高の一年生がお兄様にご挨拶したいと」

 

「俺に? ああ、分かった」

 

 

 達也が腑に落ちたのとは別の理由で、愛梨たちも納得顔をしている。それだけ「四高」と「達也の実績」は親和性が高いものなのだ。

 

「一色さん、お兄様をお借りいたしますね」

 

 

 鉄壁のポーカーフェイスで愛梨たちにそう告げた深雪は、引っ張るように達也を四高の新入生の前まで連れてきた。

 

「黒羽文弥です。初めまして、司波先輩」

 

「初めまして、黒羽亜夜子と申します。文弥とは双子の姉、弟の関係になります。よろしくお願い致します、司波先輩」

 

「初めまして、司波達也です。しかし俺は一高生だ。二人の先輩ではないんだが」

 

「学校は違っても司波さんは魔法師としての先輩です」

 

「四高生といってもわたくしたち姉弟は技術系があまり得意ではありませんけど、それでもよろしければご指導をいただけませんか? わたくしも弟も司波先輩の技に感動しましたの」

 

「九校戦中はさすがに無理だが、別の機会があれば構わない」

 

「本当ですか!」

 

「ありがとうございます。いずれ、是非に」

 

 

 初対面のお芝居をしている三人の――達也の背後で深雪は一言も発しなかった。表情には出さなかったが、深雪にはこのお芝居の中に混ざれる自信が無かったのだ。

 文弥たちと別れた達也は、前夜祭パーティーの為に各校割り当てられている――暗黙の了解で場所が決まっているのだ――テーブルの側で考え事をしていた。

 

「達也、さっきの四高生」

 

「あの二人の一年生の事か?」

 

 

 隣に忍び寄って声を掛けてきた幹比古に、達也は特に驚いた様子も無く答える。忍び寄ったと言っても、達也の五感を誤魔化せるほどではないのだ。

 

「うん……あの二人『黒羽』って名乗ってたようだけど」

 

「唇でも読んでいたのか?」

 

「ごめん、盗み聞きするような真似をして」

 

 

 わざと棘のある言い方を達也がすると、幹比古は罪悪感に塗れた声で謝罪する。

 

「聞かれて困るような話をしていたわけではないから別にいいがな。それで、あの二人に何か問題でも?」

 

「今年の春頃から流れ始めた噂なんだけど……四葉家の配下に黒羽って分家があるらしいんだ」

 

「今年の春とはいきなりだな……幹比古はあの二人が四葉の縁者だと思ってるのか? つまりあの姉弟には近づくべきではないと言いたいのか」

 

「少なくともこちらから近づくべきじゃないと思う」

 

「向こうから近づいて来るのは構わないのか」

 

「トラブルが達也に寄ってくるのは仕方ないよ」

 

 

 酷い言い種だと達也は感じ、嫌味の一つでも返してやろうかと思ったが、来賓の挨拶が始まった為それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティーが終わりそれぞれがそれぞれに割り当てられた部屋に戻ったのだが、達也の部屋には同室となっている五十里の姿は無く、その代わり深雪の姿があった。彼女が腰を下ろしているベッドの前には彼女のスーツケースが置かれている。これだけでだいたいの事情は分かるだろう。

 

「九島閣下はご欠席でしたね。雫が聞いてきた話ではお加減を悪くされていると……」

 

「嘘だな。いや、本当に身体か頭か精神に異常を来しているのかもしれないが、パーティーを欠席した理由は別にある。とはいえ病気を理由にしているなら家に閉じこもっているだろう。少なくともここには来ていないはずだ。何を企んでいるのか知らないが、近くに九島烈がいないのは好都合。深雪、行ってくる」

 

 

 黒一色の服に着替えた達也が深雪にそう告げる。本当はステルススーツか、ステルス機能を強化したムーバル・スーツが欲しかったところだが、それが無い物ねだりだという事は達也も理解していた。

 

「お兄様、お気をつけて」

 

 

 達也の声にベッドから立ち上がり、深雪はそう応えた。ついて行くと言わないのは、自分の適性を弁えて我慢しているからだ。本当は一緒に行きたいと彼女の瞳は訴えていたが、達也はそれに気づかないフリをした。

 

「深雪の方こそ、この部屋にいるのを覚られないように気を付けろよ。もしばれてしまった時は、千代田先輩にどうしてもと言われて逆らえなかったと正直に説明するんだぞ」

 

 

 達也の言っている事は嘘でも責任転嫁でも無く事実である。深雪と同室という事になっている花音が、許嫁の五十里と一緒にいたいからという理由で部屋を交換したのだ。だが躊躇なく上級生に責任を全て負わせろと唆す達也の遠慮の無さが今更ながら可笑しくて、深雪はクスリと笑った。

 

「分かりました、お兄様。万が一バレてしまったら千代田先輩に無理矢理交換させられたと正直に言いますね」

 

 

 深雪の返事に小さく頷いて、達也は部屋から出て行った。残された深雪は、少しでも達也の事を感じたくて、つい先ほどまで達也が着ていた服を達也の洗濯かごから取り出し抱きしめていたのだった。




内心もっと話したかったんだろうな……

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