劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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500話みたいですね……全然実感湧きませんが……


キナ臭い情報

 結果的に、深雪は対戦相手を全く寄せ付けず予選を突破した。男子の方も少しひやりとさせられる場面はあったが無事予選を勝ち上がった。そして一高首脳陣が懸念した通り、ロアー・アンド・ガンナーのソロは男女とも四位、得点ゼロの惨敗に終わった。

 他校の結果を見ると、七高が男女ともに優勝して勝ち点一〇〇、累計二〇〇点で前日に引き続きトップに立っている。三高は男女ともに二位で勝ち点六〇、累計一二〇点で一高を抜き二位に躍り出た。

 だが三高の夕食風景は決して喜色一辺倒ではなかった。二年生が集まっている一角、どんよりとした空気に覆われていた。暗雲の発生源はロアー・アンド・ガンナー・ソロで優勝出来なかった吉祥寺と沓子だった。

 

「吉祥寺、二位でも立派なものだ。そんなに気にするな」

 

「沓子も十分結果を出しているわよ」

 

 

 食べ終わったトレーを片づけに行く途中、通りがかりに励ましている三年生もいるが、効果はあまりみられなかった。

 

「七高がまさかあんな手で来るなんて……」

 

「悔しいのぅ……」

 

 

 それまでゆっくりではあるが黙々と箸を動かしていた吉祥寺と沓子の口から、不意に悔しげなつぶやきが漏れる。目の前に食器が無ければ突っ伏していたかもしれない。吉祥寺がショックを受けているのは、単に負けたからでは無く、負け方が問題だった。実力で負けるより作戦で負ける方が知謀を拠り所とする吉祥寺にとってダメージが大きい。

 そして沓子は、水場での勝負事で負けた事がショックで吉祥寺同様どんよりとした空気を纏っているのだ。

 

「そりゃ仕方ないって」

 

「そうだよ。あのルールで射撃を捨てるなんて普通じゃない」

 

「的中率では吉祥寺の方が上なんだから」

 

「沓子だってあのスピードで進みながらあの的中率は立派だって」

 

 

 周りの生徒たちが二人を慰める中、将輝と愛梨が慰めに来ないのが気になり、二年生たちは二人に視線を向けた。

 

「将輝?」

 

「どうかしたの、愛梨?」

 

「んっ? ああ、勝負は時の運というが、今日はそれがマイナスに作用しただけだな。七高には負けたと言っても一高は逆転したんだ。全体として見れば悪くないどころか良い展開だと思うぞ」

 

「そうね。最終目標は総合優勝ですので、明日からもやる事は山ほどありますわよ」

 

 

 二人の言葉を聞き、吉祥寺と沓子は俯いていた顔を上げた。

 

「そうじゃの……一高は逆転したんじゃからの」

 

「今日の結果を引き摺るのが一番良くないって事だね? 分かったよ、将輝」

 

 

 将輝と愛梨の言葉で二人は吹っ切れたようだ。そのまま夕食時間は終わり、将輝と愛梨の不自然な態度を追求する者は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日もお茶会が予定されていたが、開始はCADの調整を始めとする諸々の作業が終わってからだ。

 

「司波先輩、桐原先輩のCADの電圧チェック終了しました」

 

「次はオートデバッカーに掛けてくれ」

 

「はい」

 

 

 ケントを助手に使いながら雫と桐原のCADの調整をする。この作業は調整というより点検の色合いが濃いもので、ケントを助手にしているのは彼に正統的なCADの調整手順を指導するという教育的意味合いが強い。

 二人の作業もそろそろ終わりが見えてきたところで、達也に来客があった。

 

「一条、それに愛梨か。どうした」

 

 

 作業車を訪ねてきたのは将輝と愛梨だった。

 

「こんな時間にスマン。今、ちょっといいか?」

 

「俺たちにとってはそれ程遅くも無いし、少しくらいなら構わない。ケント、休憩だ」

 

「はい、先輩」

 

 

 達也はケントにそう声を掛けて、将輝と愛梨と共に作業車の灯りの届かない所へ移動する。

 

「一年生にエンジニアを任せているのですか?」

 

「俺も去年は一年だったさ。それで? 二人が俺の所に来る用事は、スティープルチェースの件しか思いつかないが」

 

 

 愛梨一人なら兎も角、将輝も一緒となるとそれしかないだろうと達也は考え、二人のセリフを先取りした。

 

「そうですわね。一条だけでは心配でしたので、一色でも調べてみましたの」

 

「何となくムカつくが、どうも思ってたよりキナ臭いぞ」

 

「何か分かったのか?」

 

 

 達也の問い掛けに、まず愛梨が反応した。

 

「まだ分かったと言えるほどではありません。ただ、国防軍の強硬派が噛んでいるようなのです」

 

「強硬派?」

 

「国防軍内の対大亜連合強硬派の事だ」

 

「それが九校戦の裏で暗躍していると?」

 

「酒井大佐は、俺たち魔法科高校生が防衛大を経由せず直接国防軍に志願する事を望んでいるそうだ」

 

 

 一条家も国防軍内にそれなりのパイプを持っているだろうと達也も思っていたが、この短期間に首謀者の名前まで調べ上げるのは容易ではないはずだ。達也は首を傾げながら独り言のように呟いた。

 

「……良く酒井大佐の名前まで分かったな」

 

「酒井大佐は、親父の昔の知り合いなんだ……」

 

「一条、まさかとは思うが」

 

「それは違うぞ! 司波、誤解するな! 知り合いだったのは昔の事だ!」

 

 

 将輝が慌てて否定している側で、達也は内心別の事を考えていた。

 

「(いっそのこと、スティープルチェースのコースを破壊してしまうか。そうすればどんな仕掛けも関係ない)」

 

「昨日親父と話した時も『反乱なんてバカな真似をしなければ良いが』と悩んではいたが『最早他人だからどうしようもない』って仕切りと頭を振っていたくらいだ」

 

「反乱?」

 

 

 将輝の言い訳を半分以上聞き流していた達也だったが、その単語には引っかかった。

 

「根拠があるわけではないが、酒井大佐のグループが『そのうち内乱でも起こすんじゃないか』と噂されているらしい」

 

「そうか……参考になった。礼を言う」

 

 

 達也が頭を下げると、将輝は焦ったように達也の前から逃げ出した。

 

「愛梨も助かった。感謝する」

 

「い、いえ! 九校戦に関係しているのでしたら、私も無関係ではありませんので」

 

「そうか」

 

 

 慌てる愛梨に愛しむような視線を向け、達也は愛梨の頭を軽く撫で作業車へと戻って行く。撫でられた愛梨は、暫くの間その場所に立ちつくし、現実に復帰した途端頬を真っ赤に染め上げたのだった。




達也にとって、愛梨も妹みたいな感じなのだろうか……

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