劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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戦闘シーンは面倒です……


達也VSパラサイドール

 木の陰からパラサイドールの前に飛び込んだ達也は、足場を固定しCADをその機体へ向けた。だが彼が魔法を放つより速く、達也は全身に強烈な衝撃を受け後ろ向きに吹き飛ばされた。

 

「(こいつ、速い!)」

 

 

 今の攻防でパラサイドールの反応速度は明らかに達也を上回っていた。相手の姿を知覚してから行動に移るまでのスピードが人間では追いつかない程、速い。単に電子頭脳だから情報処理が速いのではなく、戦闘用に開発された専用機としか考えられないスピードだった。

 一見、力強さとは無縁に思われる細身の身体だが、森林迷彩の女性用野戦服に包まれたそのボディに見た目を裏切るパワーとスピードが秘められている事を達也は思い出した。ヘルメットを着けず帽子も被っていないのは、ショートの髪が気流・水流センサーの役割を果たしているからだ。ゴーグルも保護メガネを掛けていないのは眼球自体が光学センサーを守るケースの役割を果たすからだ。皮膚は防弾合成ゴム、関節は球面モーターによる直接駆動。ピクシーより更に無機的な仮面の美貌を持つこのガイノイドは、歩兵を代替する戦闘機械として設計されたヒューマノイド型ロボット。

 

「(女性型機械兵。開発が続いていたのか)」

 

 

 装備を歩兵と共用出来るという触れ込みで危険度の高い地域における警戒任務などの目的で研究が進められていたが、わざわざ人型にするより素直に非ヒューマノイド型の自律走行自動銃座を配備した方が費用対効果が高いという結論になり開発がストップした、と達也は聞いていた。軍事用に作られたガイノイドの、戦闘に特化した情報処理能力。だが魔法を発動し終えるまでの時間で負けたのは、それだけが理由では無いはずだった。

 

「(加速系統単一――いや、念動力(PK))か!」

 

 

 達也は衝撃に備えて空中で姿勢を整えた。ミズナラの幹に背中から激突したが、思ったよりも衝撃が小さかった。スーツの緩衝性能のお陰だと達也は性能の高さを心の中で褒めた。

 木の幹を滑り落ちるように着地し、すぐに戦闘態勢を作る。達也は直感に従い地面を蹴った。魔法を使う余裕は無い。フラッシュキャストすら間に合わず、ただ筋肉を想子でブーストして得たダッシュ力でその場を飛び退く。

 

「(これも加重系魔法。この原始的な魔法式はやはりPK。パラサイドールは超能力を武器にしているのか!)」

 

 

 冬に戦ったパラサイトにも同じ傾向を持つ者がいた。「魔法」ではなく「超能力」を行使する個体。魔法師が「魔法」と引き換えに捨てた「超能力」。多様性、正確性、安定性と引き換えに捨てた圧倒的速度。もしかしたらこの個体の特殊性なのかもしれないが、達也は楽観視はしなかった。

 達也は一瞬の隙を突いてパラサイドールに接近、胸に掌底打ちを叩きこんだ。掌から浸透する想子そのものの振動波。それは一時的にパラサイトの本体を包む想子の防壁を緩め、パラサイトとガイノイドを繋ぐ術式を露わにした。

 

「(複写完了)」

 

 

 達也はそれを再成魔法の要領で複写し、立ち直ったパラサイドールが生身の人間を超える戦闘用のロボットの腕力で殴りかかって来たが、目的を果たした達也はサイドステップでそれを躱した。身体の性能そのものは機械人形が上でも、それを操る技は鍛錬を重ねた人間が上だ。

 左手を腰の横に引き絞り拳を握りしめる。その手の中にある極小の球体を更に圧縮するイメージで。拳を開き、圧縮した球体を押し出すように、距離を詰めぬまま腕の間合いの外からパラサイドール目掛けて掌を突きだす。達也は対パラサイト用想子弾を機械人形の電子頭脳に打ち込んだ。

 想子の防御をはぎ取られ、パラサイトの霊子情報体が剥き出しになる。パラサイトとガイノイドを繋いでいた術式も吹き飛び、パラサイトが解放されかける。

 達也は再成魔法を行使した。過去の情報体を複写し、複写した情報体で現在のエイドスを上書きする魔法。それは何も物質を意味する情報体に限らない。想子情報体であれば全て複写・上書きを可能とする魔法だ。

 達也はガイノイドに微量の想子を注ぎ、複写した忠誠術式でパラサイトとガイノイドを連結し直した。魔法式の記述内容は丸写しだから忠誠心の対象は九島家のままのはずだが、十分な想子が得られるまで活動出来ないというパラサイト融合体の性質もまた変わらないはずだ。

 彼の予想は正しく、必要最小限の想子を与えられたパラサイトは、想子と霊子の塊になって飛び去る事もなく、ガイノイドの中で休眠に入った。

 達也は倒れた機械人形へ慎重に「眼」を向けて、完全な休眠状態にある事を確認した。彼がこの手を思いついたのは昨晩の事。八雲と風間と響子の話を盗み聞きして、彼は九島の術式を利用するアイディアを得た。彼の情報認識能力は声にも有効であり、言葉は情報体としてイデアに刻まれる。

 傀儡を作る術式には必ず、傀儡を縛る術が含まれている。それは即ち、傀儡を作る術と傀儡を縛る術が本質的に同じと言う意味だ。パラサイトが機械のボディの何処に宿っているのか、彼はピクシーを通じて知っていた。戦闘用であろうと家事用であろうと女性形、もっと言うならリアルな人間の形状を模しているならその基本構造は同じにならざるを得ない。

 四肢と腰と首にモーター、頭部にセンサー、両胸に燃料電池、そして人間であれば心臓のある部分に電子頭脳。パラサイトは電子頭脳に宿る。ならばパラサイトとガイノイドを繋ぐ術式もそこに存在するはずだと推測し、達也はぶっつけ本番で動き、そして賭けに勝った。

 

「ピクシー、最も近いパラサイドールは何処だ」

 

『相対位置四時と七時の方向から二体のパラサイドールが接近中です。マスター、ご注意を』

 

 

 最後の一言に達也は思わず失笑しそうになった。呆れたのではなくほのぼのさせられたのだ。ピクシーも随分人間らしくなった……というか、ほのかに似てきた気がしていたのだ。

 パラサイト――「人」の独立情報体。あるいは彼らこそ「精神」の正体を解き明かす鍵となるのだろうか。




そろそろIFを考えなければ……

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