劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

512 / 2283
タイトル長い……


激甘ラブラブIFルートpart1 その1

 九校戦も終わり、一高選手団は行きと同じくバスで集合した場所に戻り、そこからそれぞれの帰路に就く――はずだったのだが、達也は深雪や水波とは一緒に帰らず、他の全員が帰路に就いてから駅へ向かい歩き出した。

 九校戦の間は深雪や黒羽姉弟、水波やピクシーの相手で忙しかった達也だが、それが終わればそこからは恋人との時間になる。いくら大人びていようと達也も高校生、それなりに遊びたい欲求はあるのだ。

 

「さて、学校まで付き合ってもらうぞ」

 

「ピクシーを返しに行くんだね」

 

「一高への貸借契約は生きているからな。ウチに連れて帰るわけにはいかないだろ」

 

『私はマスターの側にお仕えしたいです』

 

「ちゃんと会いには来るから我慢してくれ」

 

 

 ピクシーを連れながら、達也は恋人と一高へと続く道を歩く。九校戦の間は全くと言っていいほど恋人との時間は取れずに、互いに不満はあれど表には出さなかった。だからではないが、今は思いっ切り達也に甘えている。

 

「腕を組むなんて珍しいな」

 

「だって、達也さんは九校戦の間、深雪に構いっきりだったから。これからしばらくは私の為に時間を使う義務がある」

 

「義務って……まぁ、パラサイドールの件も片付いたから、一週間ほど自由な時間があるな。もちろん、FLTでの開発が大詰めだから、研究所に行かなきゃいけないが」

 

「世界の『シルバー』が九校戦にエンジニアで参加してる、なんてバレたらどうなるかな?」

 

「別に問題は無いだろ。俺は高校生で、一高の生徒なんだから」

 

「それはそうだけど。三高の吉祥寺くんとかは悔しがるだろうね。達也さんにライバル心を持ってるっぽいし」

 

「吉祥寺だけじゃなく、一条まで敵視してるからな……俺は魔工科生で既に社会的地位を確立してる二人とは比べ物にならないんだが」

 

 

 そんな愚痴を達也が零すと腕を組んでいる彼女――北山雫は不満そうに頬を膨らませた。彼女は達也が四葉縁者である事も、大亜連合から日本を救った魔醯首羅である事も、世界中がその正体を知りたがっている「トーラス・シルバー」の片割れである事も知っている。

 そんな達也が、自分には社会的地位が無いと言っているのが、雫にはたまらなく悔しかった。確かに達也の正体は、おおっぴらに言いふらす事が出来ないものだが、実際には一条や吉祥寺とは比べ物にならないほど地位だと雫は思っているし、事実そうだと信じている。

 

「達也さんは今回も、私たち九校戦に参加していた生徒全員を助けてくれた。本当は達也さんに危ない目に遭って欲しくは無かったけど、達也さんがあのパラサイドールを処理してくれてなかったら、私たちの誰かが犠牲になっていたかもしれないし、九校戦自体も無くなってたかもしれない。参加者としてもだけど、一九校戦ファンとしても、今回の事件は許せない」

 

「珍しいな。雫がそこまで感情的になるなんて」

 

『マスターの事だからですよ。私もマスターが危ない目に遭われるのは心が痛みます。おそらく私の元となった光井ほのかさんやマスターの妹さんであられる深雪さんなども心を痛めるでしょう』

 

「そんなものか。さてと、ピクシー」

 

 

 ロボ研のガレージに到着した達也は、会話を打ち切りピクシーに短く命令する。

 

「サスペンドモードに移行、命令があるまでテレパシー能力の使用を禁止する」

 

「サスペンドモードに、移行、命令を、受け容れます」

 

 

 流暢なテレパスから一転、ピクシーは機械的に喋り動きを停めた。雫はピクシーのテレパスは聞こえなかったが、達也がピクシーと会話しているの達也が声を出していたので分かっていた。

 

「ピクシーはなんて?」

 

「雫が感情的になったのは、俺の為だと」

 

「うん。達也さんに何かあったら、私は九島家に文句を言いに行ってた。一魔法師の卵でしか無い私だけど、一矢報いたいと思ったはず」

 

「そうか」

 

 

 自分をここまで心配してくれる人が、深雪以外に現れるなんて、高校入学前の達也は思っていなかっただろう。過去に想い人を目の前で亡くし――半分は自分が未熟だったからだと達也は思っている――それ以降自分に残されたわずかな恋愛感情が誰かに反応する事は無かった。深雪はそう言った対象ではないし、真夜にそういった感情を向けるのは不可能だったから。

 そんな達也にも、雫という恋人が出来て、普通とは違うがそれなりに高校生活を謳歌しているのだ。だけど雫の気持ちを聞くまで、達也は自分をそこまで想ってくれていたなどとは知らなかったのだった。

 

「雫にも心配させたんだな。すまない」

 

「ダメ、許さない」

 

 

 まさかの言葉に、達也は――彼には珍しく困惑の表情を浮かべていた。まさか許してくれないとは思っていなかったのだろう。

 

「どうすれば許してくれる?」

 

「達也さん、九校戦の間ずっと、深雪と同じ部屋で寝泊まりしてたでしょ」

 

「ああ、千代田先輩が五十里先輩と一緒にいたいと言ってな。表面上は俺と五十里先輩、深雪と千代田先輩がルームメイトという事になっていたし、バレたら千代田先輩が責任を負ってくれると言ったからな」

 

 

 実際はそんな事言って無いのだが、達也も深雪も、万が一バレたら花音に罪を着せるつもりだったのだ(深雪は達也に言われたからだが)。だがそんな裏事情は雫にはどうでも良い事で、彼女にとって大切なのは、自分の彼氏が別の女子と(妹であろうと関係ない)同じ部屋で寝泊まりしたという事実だけなのだ。しかも十日以上も。

 

「達也さんはこれから半月、私と一緒に生活してもらう。もちろん寝泊まりも一緒の部屋で、出来ればお風呂も」

 

「……さすがに風呂は別々だし、ベッドも別だったぞ」

 

「当たり前! 達也さんと一緒にお風呂に入って良いのも、一緒のベッドで寝て良いのも私だけ」

 

「やれやれ……場所は?」

 

「ウチの別荘がある。お父さんに九校戦が終わったらそこで生活するって言ってあるから大丈夫」

 

「……深雪と関係なく、俺をそこに呼ぶつもりだったな?」

 

 

 達也の問い掛けに、雫は笑顔で視線を逸らした。つまりはそういうことかと、達也は諦めて雫の提案を呑む事にした。

 

「じゃあ今から車を呼ぶから、ちょっと待ってて」

 

「やれやれ……着替えはあるから別に構わないがな」

 

 

 深雪たちになんて連絡しようかと頭の中で考えながらも、達也は雫との時間を楽しみにしていたのだった。




あ、甘い……まだまだ続きます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。