劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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雫編はこれで終了です


激甘ラブラブIFルートpart1 その3

 雫と二人っきりで生活している事は、生徒会でも話題になっている。もっとも、話題にしているのは深雪とほのかで、当の達也は早々に仕事を終わらせて山岳部に顔を出しているのだが……

 

「深雪、雫と来たんだから、今度は私が達也さんと生活しても文句は言われないよね?」

 

「どうかしら? 私は妹で家族だし、雫は彼女だから良いけど、ほのかとお兄様の関係は、友人以上ではないわよ?」

 

「ううぅ……あの時雫の背中を押さなきゃよかったよ……」

 

 

 自分を応援してくれる代わりに、ほのかは雫が達也に告白するか悩んでいた時に後押しをしていたのだ。その結果、雫は達也と付き合う事になり、ほのかは悶々と毎日を過ごしているのだ。

 

「雫が告白しなかったとしても、いずれお兄様の方から雫に告白してたと思うわよ。お兄様が『私以外』にあのような表情を見せるなんて……」

 

 

 あくまでも自分が一番である事を譲らない深雪だが、残念な事に、自分に向けてくれている感情と雫に向けている感情ではベクトルが違う事を理解している。それでも、達也の一番は自分であるという事を譲りたくないのだ。

 

「あのー……お喋りはお仕事が終わってからお願いします」

 

 

 九校戦も終わり、そろそろ生徒会長選挙も近づいてきているが、あずさは未だに生徒会室に顔を出している。元々の真面目な性格と、自分は真由美ほど優れていないからという卑屈さから、彼女は最後まで生徒会長としての職務を全うしようと思っているのだ。もちろん、真由美も最後まで全うはしたが、あずさほど熱心に最後まで顔を出していたわけではないのだ。

 

「会長は良いですわね。お兄様と雫の事で頭を悩ませなくても良いんですから」

 

「深雪、会長に苛立ちを向けるのはダメだと思うよ。それに、会長まで達也さんを狙ってた、なんて事だったらどうするの?」

 

「そうですね……じっくりと話しあってたかもしれませんね」

 

 

 にっこりと、底冷えのする笑みを向けられたあずさは、逃げ出したい衝動に駆られていた。それでも逃げ出さなかったのは、彼女が立派な生徒会長だったから――ではなく、単に動けなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山岳部での活動を終えた達也が着替えて校内を歩いてると、正面から小柄な女子が駆け寄って来た。

 

「達也さん、もうおしまい?」

 

「ああ、一通りは終わったな。そっちは見回りか?」

 

「うん。一緒に行く?」

 

「別に構わないぞ」

 

 

 雫と軽く言葉を交わすだけで、達也の表情は柔らかくなっている。その事を本人は自覚していないし、雫も特に気にしていなかったのだが、周りはそうはいかなかった。またしても達也に魅了された女子が増えているのだが、当人たちはその事に気づいていない。

 

「なんか、見られてる?」

 

「良くも悪くも有名だからな、俺は。それに、雫だって九校戦で活躍したから、新入生たちも前にも増して雫を見てるんだろう」

 

「それを言うなら達也さんも。九校戦で担当した選手が、今年も無敗だったんだから、更に注目されてもおかしくない」

 

 

 この二人に、自分たちの甘い空気が周りに影響を与えているなどという考えはなさそうだった。それくらい、雫は達也しか見てないし、達也もある条件下以外ではなるべく雫しか見ないようにしているのだった。

 

「仲良く見回り? 啓に会えないあたしへの当てつけかしら?」

 

「五十里先輩なら、先ほど生徒会室でお見かけしましたが」

 

「知ってる。でも、あたしも啓も忙しいし……てか、司波君だって生徒会で仕事があるんじゃないの?」

 

「俺の分は既に終わらせていますし、手伝わなくて良いと会長から言われてますので」

 

「中条さんが……くっ、司波君を生徒会に引き渡したのは失敗だったかもしれないわね」

 

 

 花音とあずさで取り決められた(達也の意思は介在していないが)達也の所属に関する約束を、花音は今更ながら後悔していた。達也を生徒会に引き渡していなければ、風紀委員が担当する事務作業、及び備品の管理やメンテナンスなどの面倒事を全て達也に押し付け――一任する事が出来たのだ。だがあずさの言い分も尤もだった為に、花音は達也の生徒会移籍を許可したのだ。

 

「司波君、今からでも遅くないから風紀委員に戻って来ない? 北山さんもその方が良いだろうし、吉田君だって喜ぶわよ?」

 

「生徒会役員の任命権は生徒会長にありますからね。中条先輩か、新たに選出されるであろう人間と交渉してください」

 

「新たなって、司波さん以外に候補者なんていないわよ。それこそ、君以外にはね」

 

 

 一年の時の選挙で、達也は無効票ながらも現職のあずさより多い票を獲得している。そして現在の達也は二科生では無く魔工科生、昨年より票を集めてもおかしくは無いと花音は思っていた。

 

「俺が会長になるとしたら、雫は生徒会でもらいますよ」

 

「それは困ったわね……北山さんは風紀委員でもかなり上位の戦力だもの。あたしが抜けた穴を埋められるだけの実力者を持ってかれたら吉田君も困っちゃうわよ」

 

「幹比古が次期風紀委員長なんですね」

 

「私が辞退したから、必然的に吉田君に決まった。森崎君は出番が少ないし……」

 

「雫、何を言ってるんだ?」

 

 

 若干メタ的な発言をした雫に困惑気味なツッコミを入れる達也。そんなちょっとした仕草も幸せそうに見えると、花音はますます許嫁に会いたい衝動に駆られていた。

 

「報告なんて待ってられない! 司波君、代わりに報告聞いておいて!」

 

「どちらに?」

 

「非常階段から生徒会室に! 啓に会ってくる!」

 

 

 階段を駆け上がっていく花音を見送り、雫はおねだりするように達也を見上げた。

 

「今なら誰もいないよ?」

 

「随分甘えん坊になったな、雫は」

 

「だって、達也さんと一緒にいられるのが嬉しいんだもん。達也さんは違うの?」

 

「いや、俺だって雫と一緒にいられて幸せだし、こんな風に思うなんて考えてもいなかった」

 

「じゃあ、お願い」

 

「仕方ないな」

 

 

 存在を探り、誰も風紀委員本部に近づいて来る気配が無い事を確認して、達也は雫の唇に自分の唇を重ねる。風紀委員本部に漂う甘ったるい空気が、生徒会室に流れていかない事を、達也も雫も願いながら、もう一度唇を重ね合うのだった。




風紀委員会本部が甘ったるい空気に……

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