劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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強引に終わらせます


お泊りIFルート その4

 達也と入浴した香蓮は、昨日達也と一緒に入浴した沓子をつれて部屋へと向かった。

 

「達也さんのあの傷痕、普通に訓練したくらいじゃあんな傷残りませんよね」

 

「そうじゃな。だが達也殿は聞いて欲しくなさそうじゃったし、わしたちが踏み込んではいけない領域なのかもしれんしの」

 

「一緒の部屋で寝た愛梨は気付いていませんし、普通に生活してる分には気付かれていないのでしょうね。おそらく一高の友人たちも知らない人が殆どなのかと」

 

「そうじゃな。そうなるとわしと香蓮は結構なリードになるのではないか? 愛梨も知らんようじゃし、今日一緒に寝る栞もおそらく気付かないじゃろうし」

 

「――何のお話でしょうか」

 

 

 沓子の背後から声がかけられた。二人は肩をビクつかせ声の主を確認すると、そこにはこの家の住人で、達也の従妹である桜井水波が立っていた。

 

「なんじゃお主か……おどかすでない」

 

「いえ、ここは私の部屋なのですが……」

 

 

 香蓮が今日泊まるのは水波の部屋で、相部屋になったのは水波、つまり彼女は自室で寝る事が出来るのだ。その水波がこの部屋にやってきても不思議は無いし、むしろ邪魔しているのは香蓮たちの方なのだ。

 

「達也殿の身体の傷について、お主何か知らぬか?」

 

「達也兄さまの身体の傷、ですか? 幼少期に血の滲むような訓練を積まれた結果です。実際に刺され、斬られ、焼かれながらも修行した結果、達也兄さまの今の強さがあります。私はあの傷痕を気持ち悪いとは思いません。達也兄さまが強くなろうと――強くあろうとした証なのですから」

 

「幼少期って、司波深雪も達也さんとの思い出は語りたがりませんでしたけど、司波家の幼少期はどのようなものだったのですか? 普通の家庭なら兄妹とはいえ一緒に入浴とかありそうなのですが」

 

「ここから先は私の口からは申し上げられません。深雪姉さまにお聞きになられるか、達也兄さまにお聞きになられてください。そして、お聞きになられるのでしたら、それ相応の覚悟だけはしておいてください」

 

「それほどまでに重大な事なのじゃな?」

 

 

 水波の声のトーンにつられ、沓子の声も重みを増す。香蓮は息を呑んで水波の答えを待っていた。

 

「これまでの日常を送れなくなるかもしれません。それくらい重大であり厳重に隠されていた事なのです。本来私がここまで話す事すら許されないかもしれない事ですので」

 

「じゃあ何故教えてくれたのですか? それほどまでに重大な秘密なら、知らないと言って隠し通せたのでは?」

 

 

 香蓮の問い掛けに、水波は軽く首を左右にふってから答えた。

 

「十七夜さんや一色さんもですが、四十九院さんや九十九崎さんも達也兄さまの事がお好きなのでしょう。私が知らないと言ってもおそらくは信じなかったと判断出来るくらいの想いなのでしょうね。許されるのでしたら、私も達也兄さまにそのような気持ちを抱きたかったです。ですので、裁かれるギリギリまでお教えしたのですよ」

 

 

 いったい誰に許されないのか、誰に裁かれるのかは言わなかったが、それくらい重大な秘密である事は沓子にも香蓮にも理解出来た。そしていざ聞きに行こうにも、二人だけでは耐えきれないと思い、愛梨を誘って達也の部屋を訪れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也と二人きりになれるはずだった栞だが、急に愛梨たちが部屋を訪ねてきたので若干不機嫌気味だった。だが沓子が口にした言葉で、そのような雰囲気は何処かに飛んでいってしまった。

 

「達也殿、そなたの身体にある傷痕はいったいどのような過程で出来たのじゃ? 先ほど桜井殿から聞いた話しでは、実際に刺され、斬られ、焼かれたらしいではないか」

 

「ちょっと沓子。それ、何の話?」

 

「私もさっき聞かされましたわ。達也様のお身体には、無数の傷痕が存在するらしいですの」

 

「今日一緒にお風呂に入って、私はこの事を沓子に相談しました。昨日私と同じものを見た沓子に」

 

 

 愛梨たちの疑問に答えるべきか、達也は考えていた。彼女たちは数字付きであり、愛梨に至っては師補十八家「一色」の家の人間だ。自分の秘密を簡単に話していい相手ではない。だが傷痕を見られ、水波がある程度話してしまったのだと仮定すると、韜晦は通用しないだろうと理解していた。

 

「……リビングで話そう。深雪と水波にも同席してもらった方が分かり易いだろうし」

 

 

 下ろしていた腰を上げ、達也は部屋からリビングに移動した。移動した先には、深雪と水波が既にスタンバイしている。相変わらずの勘の良さに苦笑いを浮かべながら、達也は愛梨たちに自分たちの境遇を話したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石川へ帰る途中、愛梨たちは複雑な思いを抱いていた。

 

「まさか達也様が『四葉家』の人間だったとは……」

 

「そして深雪嬢が次期当主候補とはの……」

 

「でも、達也さんが四葉縁者なら、私たちの婚約者に出来るかもしれない。同じ数字付きだし」

 

「ですが、四葉家は完全に謎に包まれている家です。もし婚約を申し込んだとしても、受け容れてもらえるかどうか分かりませんよ? まして私たちは次期当主なんですから」

 

「四葉家が入り婿を認めてくれるかが問題ですわね……現当主であられる四葉真夜さんは、達也様を溺愛しているようですし」

 

 

 達也が自分の婚約者になるかもしれない可能性が浮上した喜びと、そうするには幾つもの難関を突破しなければいけない絶望感がないまぜになりながらも、今回のお泊りは決行して良かったと思えている四人。そして自分たちさえその気になれば、達也を自分の手元に呼び寄せる可能性を胸に、それぞれの家に帰るのだった。




このメンバーはだらだら続きそうだったので……

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