劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作では脅しっぽかったですけどね…


達也のお願い

 達也が食堂で質問されているのと時を同じくして、生徒会室でも深雪が同じ質問をされてうんざりした声を出していた。

 

「だから、まだ決めて無いって言ってるでしょう? 選挙も終わっていないんだから、そんなに急かさないで」

 

「ほのか、こうなったら深雪は梃子でも動かない。諦めるべき」

 

「うん……ゴメンね、深雪。五月蠅くして」

 

「……私も言い方が少しきつかったわね。ごめんなさい、ほのか。貴女がお兄様の進退を気に掛ける理由は良く分かってるつもりだけど」

 

「そ、そんなんじゃないわよ! 別に達也さんと一緒にいられる時間が減っちゃうかもなんて思ってないからね!」

 

「ほのか、自爆してるよ」

 

 

 深雪の顔には笑みが浮かんでおり、ほのかは自分が誘導尋問に引っ掛かった事に気が付き項垂れる。

 

「お兄様は最近、ほのかや雫の事をちゃんと見てくださってるのは分かってるわ。だからほのかも雫も、お兄様の事が気になるのでしょう?」

 

「うん。達也さんが生徒会役員じゃなくなっちゃったら、私やほのかが一緒にいられる時間が減っちゃうもん」

 

「雫……」

 

 

 自爆した自分とは違い、あっさりと本心を告げる親友に、ほのかは素直に白旗を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂では、美月とエリカが水波の姿を見つけ、不思議そうな声を上げていた。

 

「あれっ? あそこにいるの、水波ちゃんじゃないですか?」

 

「んっ? ホントだ」

 

「そりゃあ水波だってクラスメイトと食堂に来ることくらいあるだろ」

 

「それもそっかぁ」

 

「そうですよね」

 

 

 達也の呆れた声と視線に居心地が悪くなったのか、エリカと美月は乾いた笑いを浮かべたが、形勢不利だと覚ったエリカが強引に話題転換を試みた。

 

「そう言えば達也くん、何で論文コンペに出ないの?」 

 

「深い意味は無い。単に間に合わなかっただけだ」

 

「えっ、どういう意味?」

 

 

 達也の回答に真っ先に疑問を呈したのは幹比古だった。おそらく彼が一番関心があったのだろう。

 

「どういうもこういうも、そのままの意味だが……恒星炉実験の後、自主的に取り組んでいるテーマがあるんだが、それがまだ発表出来る段階に至っていないということだ」

 

「へぇ……相当高度なテーマに取り組んでいるんだろうな」

 

「まあな。だがそれが何かは秘密だ」

 

「えーっ」

 

 

 レオのニュアンスは教えて欲しいという意味が強く込められていて、エリカの視線もそうだった。だから達也が秘密と言った時、エリカから不満の声が上がった。

 

「エリカちゃん、無理を言っちゃ駄目だよ」

 

「エリカ、達也が秘密にするからにはきっとそれなりの理由があるんだよ。第一、恒星炉レベルの魔法理論を打ち明けられても、僕たちでは好奇心を満たす足しにすらならない」

 

 

 幹比古のセリフにレオもエリカも反論しなかった。変に意地を張って藪蛇になるのを避けたのだ。

 

「ところで達也くん、サポートは頼まれていないの?」

 

「今のところは頼まれていないな」

 

「今回のメインは啓先輩でしょ? 達也くんと啓先輩。仲良いのに」

 

「もちろん手伝えと言われれば協力するが、今回は京都で開催されるからな。純理論的なテーマは五十里先輩の得意分野だ」

 

 

 達也の説明に、美月が疑問を呈する。

 

「達也さんは純理論分野も十分高校生離れしてると思いますが……」

 

「だから余計にやり難いんじゃないかな? 達也くんと啓先輩とじゃ、同じ術式を補助するにしてもアプローチ方法が違うし」

 

 

 エリカの説明で納得したのか、幹比古がしきりに頷いていた。本人を無視して盛り上がっていた友人に何かを言う前に、午後の授業の予鈴が鳴って達也は教室に戻る事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後七時半。夕食後の、何時もであれば団欒の時間に、達也は自分の部屋に引っ込み自室のセキュリティ強化型音声専用電話機で一人の女性のプライベートナンバーをコールした。

 

『もしもし、達也くん? 藤林です』

 

「司波です。夜分遅くに申し訳ありません」

 

『達也くんの方から連絡をくれるなんて珍しいわね。どうしたの? 急な用事?』

 

「九島閣下にご協力をお願いしたい件があります」

 

『……祖父に?』

 

「はい。独立魔装大隊副官である藤林少尉殿へのご依頼ではなく、九島閣下のお孫さんである藤林家ご令嬢へのお願いです。閣下と私的な面談の場を設けて欲しいのですが」

 

 

 達也からのお願いに、響子は少し考えてから理由を聞き、その提案が自分が抱えていた仕事に関係する事を理解し回答した。

 

『祖父の都合を訊いてみなければ分からないけど、多分大丈夫よ。横浜の周公瑾は国防軍でも苦労してるし、祖父も痛い目を見るきっかけの男だし、君にも興味があるみたいだしね』

 

「閣下に興味を持たれる覚えは無いのですが」

 

『パラサイトの時もパラサイドールの時も、君が暗躍してたのはご存知のようよ。てか、パラサイトの時は私が手伝って覗いてたんだけど』

 

「青山霊園ですね。あそこでピクシーに気付いた閣下がパラサイドールを思い付いたのでしょう」

 

『……相変わらずの洞察力ね。多分その通りだと思うわ。それで、祖父の都合についてはメールで知らせれば良いかしら?』

 

「ええ、それでお願いします。暗号は独立魔装大隊のものでお願いします」

 

 

 達也はセキュリティの面での提案のつもりだったのだが、響子はこの間の「差出人不明メール」について当てこすられたと邪推し、少し不機嫌になった。

 

『了解よ。それじゃあ達也くん、また何かあったら電話頂戴ね』

 

「そうそう藤林さんに頼るようでは、俺に仕事を回すなんてことはしないでしょうね」

 

 

 最後に達也の自虐風の回答に満足したのか、響子は通信を切った。

 

「さて、九島の家に飛び込むのはさすがに大変だろうな……」

 

 

 許可が下りるのは間違いないだろうが、達也は一応決まったら叔母であり当主である真夜に連絡しようと決め部屋からリビングに戻ったのだった。




ほのかも雫も興味津々

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