劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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順当な結果だ…


会長就任

 九月二十九日、土曜日。今年は生徒総会も生徒会長選挙も波乱なく終わった。

 

「それでは、深雪の生徒会長就任を祝って、乾杯!」

 

 

 エリカの音頭によりソフトドリンクのグラスが高々と掲げられる。乾杯の唱和はアイネブリーゼに集まった身内と友人と後輩、具体的には達也、レオ、幹比古、ほのか、雫、エイミィ、スバル、水波、泉美、香澄、ケントによるものだ。

 

「まっ、順当と言えば順当だけどね」

 

 

 乾杯が終わった直後、エリカが漏らしたセリフに反対した者はいなかった。その代わりすっかりエキサイトした下級生はいた。

 

「当然です! 深雪先輩以外に一高の生徒会長は考えられません! 当校を代表するに相応しい実力! 才能! 美貌! 立ち居振る舞いの美しさ! この結果はまさに天の思し召しです!」

 

「そ、そうかしら?」

 

「私は司波先輩でも良かったと思うけどね」

 

「僕もです」

 

 

 興奮している双子の妹を他所に、香澄はケントと会話しながらちびちびとドリンクを飲んでいる。

 

「深雪、役員は決めたの?」

 

 

 泉美を完全に視界から外して問いかけたのは雫。他の皆も気になっていたのか、エリカとエイミィが特に乗り気で雫に便乗してきた。

 

「ほらほら、決まってるならおしえてよ」

 

「ほのかや泉美ちゃんも興味津津みたいだしね~」

 

 

 ほのかは深雪と達也を交互に見ていたが、深雪はその事をあえて気付かないフリをして雫の質問に答えた。

 

「副会長は泉美ちゃんにお願いしようと思っているわ」

 

「本当ですかっ!? もが……」

 

 

 悲鳴と大差ない歓声を上げ、さすがに恥ずかしかったのかそれまで関わろうとしなかった香澄が泉美の口を塞いだ。その隣ではケントがわたわたと七草姉妹を何とかしようとしてたが、あまり成果は見られなかった。

 

「他の役員はまだ決めかねてるの。ほのかにも手伝って欲しいと思ってるのだけど……雫を引き抜いたら吉田君が大変でしょうし……」

 

 

 先ほどから達也の隣でちびちびドリンクを飲んでいる雫にチラリと視線を向けると、特に何も考えていないように小首を傾げた。だが、次期風紀委員長に内定している幹比古がしきりに首を縦に動かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイネブリーゼで軽く食事を済ませたので、今日は司波家では夕食を摂らない事になった。水波がトレイに二人分のお茶を用意し、深雪の前にミルクティーを、達也の前にコーヒーを並べ自室に戻ろうとしたところで深雪が声をかけた。

 

「水波ちゃん」

 

「はい、深雪姉さま」

 

「実はね、水波ちゃんに書記として生徒会入りして欲しいのだけど」

 

「……はい」

 

「CADの携行制限解除のメリットがある。水波、役目を全うする為なら生徒会役員になるべきだ」

 

「達也兄さまがそう仰られるのでしたら」

 

 

 先にも述べたとおり、水波の中で達也の方が常識人だと位置付けられており、ガーディアンとしての経歴も長い。一見すると、深雪の言葉では従えないように見えるが、達也に言われたことで覚悟が決まったのだ。

 

「さて、悪いが俺は本家に電話しなければいけないから、部屋に戻る。深雪は水波と二人でのんびりするなり部屋に戻るなりして休め」

 

 

 そう短く深雪に命令して、達也は自室に戻った。電話の内容はもちろん九島烈との面談の件だ。

 

『達也殿、申し訳ないが奥様はただ今都合が悪い』

 

 

 四葉家当主直通ナンバーに掛けたが、そのコールに出たのは真夜では無く葉山だった。

 

「それでは、先日頂戴した任務の件で叔母上にお伝えいただきたいのですが」

 

『伺いましょう』

 

 

 葉山は達也の依頼を予期していたかの如く即座に頷いた。

 

「ターゲットの捜索に九島家の力を借りたいと思います。既に藤林家を通じて九島家前当主との面会の約束を取り付けました」

 

『ほぅ……独立魔装大隊に助力を請うのではなく、九島家の手を借りる事にしましたか』

 

「大元の依頼が何処から出ているにせよ、四葉の仕事で国防軍に借りを作るのは避けた方が良いと考えました」

 

『九島家に借りを作るのは構わないと?』

 

「周某は『伝統派』と手を組んでいる可能性が高いのでしょう? であるなら、これまで長きにわたって『伝統派』と対立している『九』の力を借りるのが得策です。それに九島家には先月の一件で個人的に貸しがあります。貸しにせよ借りにせよ長期間続ければ腐れ縁になりますので、そうなる前に清算しておいた方が良いと考えました」

 

 

 達也のセリフに、葉山は本気で面白がっているのが分かる笑い声を漏らした。

 

『達也殿はお若いのに世間の機微が良くお分かりだ。確かに今回、九島家の手を借りると言うのは、色々な意味で賢い選択でありましょうな。良いでしょう、奥様にはそのようにお伝えします。また、協力を取り付ける条件について、いちいち報告の必要はありません。相手が国防軍だろうが十師族他家であろうと、本件については達也殿の裁量にお任せすると奥様は仰せです』

 

 

 最後に大きな爆弾を落として、葉山は電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉山が送話器を置いてデスクの向こう側へ深々と一礼した。

 

「奥様、お聞きの通りでございます」

 

「たっくんとお話出来なかったのは不満だけど、随分可愛い事を言ってたわね。誰があの子にあんな捻くれた知恵を付けたのでしょうね?」

 

「達也殿の言われている事は、間違いではないと存じますが?」

 

「まぁたっくんが普通じゃないのは、今に始まった事じゃないわね。ところで、周公瑾の捜索はどうなっていますか。新たな手掛かりは掴めたかしら?」

 

「先月末に京都三千院の脇で小規模な戦闘の後、逃走を許してしまったのが最後でございます。奥様、この情報を達也殿にお渡しせずともよろしいのですか?」

 

「必要ないわ。大原近辺は貢さんが徹底的に調べているのでしょう? それで見つからないのなら、あの者は別の場所に移動してしまったのでしょう。それに、たっくんなら私から聞かなくても知ってそうだしね」 

 

 

 主の指摘に無言で頭を下げた葉山だったが、真夜が如何にも楽しそうに話している姿を見て、内心は娘か孫娘を愛しむ気持ちで一杯になっていたのだった。

 

「(真夜様を楽しませられるのは達也殿だけですな、本当に)」

 

 

 心の中で達也にお礼を言い、葉山ははしゃいでいる真夜を見守り続けたのだった。




本当なら真夜と話させたかったんですがね……そうなると仕事の話じゃなくなりそうだったので……

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