劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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前回同様この時点での本気です


達也の本気

 建物の奥へと逃げていく一を追いかけていく達也だが、一が一つの部屋に逃げ込んだのを見て存在を探った。

 

「(司一を含め、テロリストが11人。これで全員のようだな。マシンガンは十丁、他に遠距離武器は無しか)」

 

 

 物理的な障害をものともしない達也の魔法の前には、待ち伏せなど意味を成さない。CADの引き金を引き、マシンガンを分解して達也は部屋へとゆっくり進んでいく。マシンガンが分解され驚いていたテロリストたちだったが、その次の行動へ移る際にそれほど怯まなかったのは自分たちの優位を確信していた為なのかもしれない。達也の耳には不快な音が響いていたのだった。

 

「如何だ魔法師。これが本物のキャスト・ジャミングだ! 壬生一人を相手にした時とは訳が違うぞ!」

 

「……大量のアンティナイトを入手出来たと言う事は、お前らのパトロンはウクライナ・ベラルーシ再分離独立派。そのパトロンのスポンサーは大亜連合か。催眠術と良い馬脚を現しすぎだ、三流め」

 

 

 達也が心底つまらなそうにつぶやくと、一は一瞬たじろいだがすぐに笑みを浮かべた。

 

「それが分かったから如何だって言うんだ! お前はこの場所では魔法を使えないんだ! お前のお得意の推理を誰にも聞かせる事無く此処で死ぬんだからな!」

 

 

 キャスト・ジャミングを発動しながら、テロリスト十人は達也にナイフで襲い掛かる。つまらなそうな目のまま達也はテロリストに向けてCADの引き金を引く。

 

「何を悪あがきを……」

 

 

 一が笑おうとしたら、目の前で仲間の身体から血が噴出した。

 

「ぎゃぁ!」

 

「グワァ!」

 

「な、何故だ!? 何故このキャスト・ジャミングの中で魔法が使える!? そして何だこの魔法は……」

 

「お前らのキャスト・ジャミングの波長から、魔法妨害になる部分を抹消した。如何やってかはお前らの知る必要の無い事だ」

 

 

 心底つまらないのを隠そうともしない目を向けられ、一は壁にへばりつき震えだす。

 

「(ただの高校生と甘く見て、とてつもないものに手を出してしまったのではないか……完全に規格外(イレギュラー)だ)」

 

 

 震えてた一のわきの下辺りから、日本刀のようなものが生えてきた。

 

「ヒィッ!?」

 

「おっ、如何やら当たりっぽいな」

 

 

 道を文字通り切り開いてきたのだろう桐原が、この部屋の惨状を眺めて達也に視線を向けた。

 

「よう司波兄。こいつらはお前がやったのか? やるじゃねぇか。……で、コイツは何だ?」

 

 

 桐原が達也から視線を一に向け、その視線に一ははいつくばってでも逃げ出そうとしていた。

 

「ソレがブランシュのリーダー。司一です」

 

 

 既に興味を失っている達也は、桐原に事実を告げた。

 

「コイツが? コイツが壬生を誑かしたのか!」

 

「ヒィ!?」

 

 

 辺りに不快な音が響く。桐原の得意魔法『高周波ブレード』が一に襲い掛かった。ただでさえ模造刀で壁を切り裂いてきた桐原が、腕一本を斬り落とすのは容易い。一の腕は何の抵抗も無く切り落とされたのだった。

 

「このっ!」

 

「止せ、桐原!」

 

「会頭……」

 

「これ以上お前が手を汚す必要は無い」

 

「……はい」

 

 

 桐原が切り開いてきた道を通ってきた克人が、一に止めを刺そうとしていた桐原を止める。そして一瞥して興味を失ったのか、克人は一の切り落とされた腕の先を魔法で燃やした。

 

「ウギャァ!?」

 

 

 肉の焦げる臭いと共にブランシュリーダーは意識を失った。

 

「司波、コイツらで全員か?」

 

「はい」

 

「そうか、では俺の家に電話しよう。後の事は何とかする」

 

「お願いします」

 

 

 十氏族の中でも、十文字家の力は警察庁トップにも負けないくらいの影響力を持つ。これで今回の事が外部に漏れる事も無ければ、達也や深雪の事も世間には知られる事は無くなったのだ。

 

「(さて、深雪は……)」

 

 

 状況をイデアに接続する事で察した達也は、無言で左手のCADを壁に向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十文字家の人たちが次々とアジトに入っていくのを見ながら、深雪はただ一人の帰りを待っていた。

 

「お兄様! ご無事でしたか」

 

「ああ、俺は問題ない」

 

 

 達也の無事を確認してホッとした深雪だが、自分がした事を思い出して気分が滅入ってきた。

 

「お兄様、実は……」

 

「大丈夫、深雪が気にする事は無いよ」

 

 

 そう言って視線を横に逸らした兄につられて、深雪も視線を横に逸らした。そこには十文字家の人間に運ばれていく意識不明のテロリストが居た。

 

「あの人……」

 

「後遺症も無いし命にも別状は無い。偶々コールドスリープ状態になったようだ」

 

「お兄様……」

 

 

 何もかも分かっていて達也は深雪を責める事は無かった。しかし深雪は自分が停めてしまったはずの男が再び動き出した原因を知っている。そしてそれは本当なら使ってほしく無い達也が自由に使える魔法の内の一つなのだ。

 

「(あの人は私が凍らせたはず。お兄様はあの部屋を通って来た訳では無いのに、全てを察して……それなのに深雪は……)」

 

 

 達也の妹として相応しいように振舞うのが、深雪が中学一年の夏から心掛けてきた事なのだが、またしても感情的になり兄に迷惑をかけてしまったのだと深雪は深く反省したのだった。主に自宅限定で……

 普通に生活してる分には深雪が落ち込んでるとは気づけないのだが、自宅では部屋に篭ったり些細なミスを連発したりしていたのだった。

 そんな時には達也は思う存分深雪を甘やかすので、深雪は外に自分が滅入ってる事を漏らす事無く達也に甘えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブランシュの問題が片付いて少し経った四月二十四日、学校帰りに達也たちは例の美味しいケーキがある店に来ていた。

 

「随分と賑やかだけど、何かあるのかい?」

 

 

 店のマスターが訪ねると、達也が苦笑いを浮かべながら答えようとした。

 

「お疲れ様会のような……」

 

「今日はね~達也君のお誕生日会だよ!」

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

 

 エリカの突然の発言に、レオも美月もほのかも雫も驚きの声を上げた。如何やら友人たちには言ってなかったようだ。

 

「エリカちゃん! 如何して教えてくれなかったの!」

 

「だって正確な日付は知らないし、四月なら誤差の範囲だろうって昨日深雪に……」

 

「ええ。良く知ってるわねとビックリしたのだけど」

 

「……はい? ねぇ達也君、もしかして……」

 

「あぁ、今日が誕生日だ」

 

「謀ったわね!」

 

「あら、私は何も言ってませんよ」

 

 

 エリカがふざけてる中、ほのかと雫はかなり落ち込んでいる。達也へのプレゼントを考えて無かったのを、準備する時間も無いので相当落ち込んでいるのだ。

 

「それじゃあこのケーキを君たちと僕からのプレゼントって事で」

 

「さんせ~い!」

 

「おい、お前は知ってたんじゃねぇのかよ」

 

 

 レオのツッコミをさらしと受け流し、エリカはその後もはしゃぎまくったのだった。




次回、紗耶香が選ぶのはどっちだ

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