劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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さて、桐原と達也のどちらを選んだのか、結果発表です。


紗耶香の選択

 ブランシュの問題は、十文字家が握り潰した為に学内でその全容を知っているものは限られた。紗耶香と甲の二人はマインドコントロールを受けていたとして罪に問われる事は無く、今は入院している。

 

「具合は如何ですか?」

 

「ありがとう。司波君がお見舞いに来てくれるなんて思って無かったよ」

 

「先輩の中の俺は、随分と薄情な人間なんですね。まぁあながち間違っては無いですが」

 

「一回は来てくれるとは思ってたけど、まさか何回も来てくれるなんて思って無かったから」

 

「桐原先輩やエリカには負けますけどね」

 

 

 毎日お見舞いに来ている桐原とエリカは、紗耶香を通して知り合ったようで、今は剣道場で稽古をしている。

 

「それで先輩、何時頃退院出来そうですか?」

 

「如何だろう、マインドコントロールの影響がなくなるまでは入院してなきゃ駄目だろうし、夏までには退院出来たら良いとは思ってるんだけどね」

 

「九校戦ですか?」

 

「中継はやるだろうけど、実際に見たいじゃない」

 

「そうですね」

 

 

 普通にマインドコントロールを解くのなら、九校戦に間に合うか如何か微妙なところだ。甲ほど強い洗脳は受けてないにしても、回数を重ねている為に紗耶香も長期入院は仕方ないのだ。

 

「ゴメン、司波君。ちょっと眠くなってきたから」

 

「それじゃあ俺はこれで」

 

「ゴメンね……」

 

 

 薬が効いてきたのか、紗耶香は眠ってしまった。それを確認した達也は、懐からCADを取り出した。左手で構え引き金を引き、静かに病室から出て行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が見舞ってから数日後、急遽決まった紗耶香の退院祝いに深雪と共に昼休みに病院に向かう達也の手には、花束があった。

 

「お兄様も情緒が分かってらっしゃる。こう言うのは手渡しだから良いんですよね」

 

 

 深雪が病院に入った途端、ロビーがざわめきだした。深雪の姿に見とれた男性が殆どだが、中には達也に見とれている女性もちらほらと見受けられた。

 

「あれ、達也君に深雪も来たんだ」

 

「エリカ? そう言えば教室に居なかったな」

 

「あら、サボったの?」

 

「先生も居ないし、後で課題をすれば良いんだから問題無いでしょ。それに、せっかくさーやが退院するって言うんだからさ」

 

「さーやって壬生先輩の事? 随分と親しくなったのね」

 

「あったりまえよ! 毎日来てたんだから、桐原先輩も」

 

 

 エリカが指差す先には、少し顔の赤い桐原と、まるで弟を見てるような目をしている紗耶香が居た。

 

「桐原先輩、さーやに告白したんだけど振られちゃったんだって」

 

「千葉! 余計な事は言うなと言っただろうが!」

 

「えー! だって事実でしょ? 『桐原君の事は弟にしか見えない』って言われたんですよね? 良かったね先輩、お姉ちゃんが出来て」

 

「テメェ! いい加減にしろ!」

 

「きゃー」

 

 

 桐原をからかって遊んでいたエリカだが、如何やら本気で桐原が怒ってるのを感じ取りわりと本気で逃げ出した。

 

「それにしても壬生先輩、随分とお早い退院ですね。前に聞いたときは夏頃だと仰っておいででしたのに」

 

「私も良く分からないんだけど、司波君がお見舞いに来てくれた次の日の検査で、洗脳状態では無くなってたのよ」

 

「不思議な事もあるようですね。先輩、退院おめでとうございます」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 達也が差し出した花束を、頬を染めながら受け取る紗耶香。その隣では深雪が達也の事を貫かんばかりの勢いで見ていたが、達也は何も答えなかった。

 

「君が司波君かね?」

 

「お父さん」

 

「壬生先輩のお父上でしたか」

 

「壬生勇三だ。司波君、ちょっと良いかね」

 

「構いません」

 

 

 勇三と達也が離れていくと、深雪は達也に向けていた視線を紗耶香に向けた。

 

「如何かした?」

 

「いえ、桐原先輩を振った理由は別にありますよね?」

 

「……私は司波君が好き。ちょっと怖いと思ったけど、ちゃんと人の事を考えてくれてる」

 

 

 紗耶香の気持ちを聞いた深雪は、複雑な心境に陥った。達也が他人に好意を抱かれてるのは嬉しいのだが、恋愛絡みだと自分は太刀打ち出来ないからだ。

 

「ライバルは多そうだけどね」

 

「ですが、お兄様の事が好きなんですよね?」

 

「うん。司波君に抱いてたのは憧れでは無く好意だったんだって桐原君に告白された時に気付いたんだ」

 

「そうですか……」

 

 

 現時点では自分の方が達也に好かれてると自信を持っている深雪だが、自分は最後の一線を越える事が出来ない存在なのだとも自覚している。何せ相手は血の繋がった兄なのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇三と二人で話す事になった達也は、何を言われるのか検討が付かずに少し困っていた。

 

「君のおかげで娘は立ち直れた。本当にありがとう」

 

「いえ、壬生先輩ご自身の力と、千葉や桐原先輩などが励ました結果でしょう。自分は突き放すだけで何もしてません」

 

「君は、風間に聞いた通りの男のようだな」

 

「……風間少佐をご存知で?」

 

「昔兵舎で起居を共にした仲だ。私はもう退役してるがね」

 

 

 この言葉を達也は額面通りには受け取らなかった。ただの戦友に風間が自分の事を話すはずが無いと確信してるからだ。

 

「安心していい。風間から聞いた事は他言しないから。それから娘が急に治ったのも君のおかげなんだろ? 重ねて礼を言わせてくれ」

 

「自分は先輩の希望を潰した男です。せめてもの罪滅ぼしで、先輩が言った九校戦を見たいと言う望みを叶えられるようにしただけです」

 

「やはり君はしっかりとしている。これなら娘を任せられるな」

 

 

 随分と気の早い事を言われ、達也は内心苦笑いを浮かべた。だが表面には出さずに、鉄壁のポーカーフェイスで勇三に一礼して深雪たちの許へと戻って行った。

 

「お帰り。お父さんと何話してたの?」

 

「先輩のお父上と俺が昔お世話になった人が親しいようでして。その事で少し」

 

「へぇ~それじゃあやっぱりさーやと達也君には浅からぬ縁があるんだろうね」

 

「エリちゃん!」

 

 

 今度は紗耶香に追い掛け回される破目になったエリカだが、今度は楽しそうな顔をしていた。

 

「お兄様」

 

「ん?」

 

「先輩に魔法をお使いになられましたね」

 

「……苦痛は含まれないし、問題無いだろ」

 

「内傷は治せないのでは!」

 

「声が大きいぞ」

 

 

 深雪の唇に指をあて、肩をすくめて誤魔化した達也に、深雪は不安を抱いたのだった。達也の魔法は、他人に知られては困る理由があるのだから……




と言う訳で紗耶香は達也に。そして次回からちょっと妄想話になります。

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