劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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二日続けて手抜きタイトル…


忍術使い、撃退

 敵の初撃に反応したのはエリカだった。手にしていた日傘を背後から迫る気配へ向けて勢いよく振り抜く。すっぽ抜けた傘の部分が空中で蒼白い鬼火にぶつかり燃え上がる。傘に妨げられず三人目掛けて降り注いだ鬼火を、エリカは傘の柄に偽装した得物で打ち落とした。続けざまに襲い来る鬼火の第二波、第三波も、武装デバイスで迎撃する。

 今回の京都偵察のために、達也が大急ぎでFLT開発第三課に作らせ、エリカに貸し与えた武装一体型CADで、記録されている起動式は、重さではなく速さに重点を置いた慣性制御・加速術式。身体だけでなく武器のスピードまで加速される為、腕に余計な力を入れているとデバイスの動きについていけず、骨や腱を痛めてしまう危険性があるという凶悪な代物だが、エリカは最初から何の苦も無く使いこなしていた。

 エリカが鬼火を全て打ち落とすと、今度は風の刃が三人に襲い掛かる。さすがのエリカもどう対応しようか迷ったが、彼女の背後から幹比古が声をかけ、エリカが風刃に挑む前に彼が対処する。

 金属の呪符を束ねて扇にした術式補助具から選んだ魔法は、敵と同じ風の刃。空中に幾つもの小さな火花が散る。後から発動したにも拘わらず、幹比古の風は敵の風の刃を全て弾き返した。

 エリカと幹比古の意識は、空から降ってくる次の攻撃に向かっていた。彼らの背後、地面に落ちた木の影が人の形を取り、黒い影が立ち上がる。

 

「うりゃあ!」

 

 

 音もなく、気配どころか空気すら動かさずに幹比古の背中に迫った影に、レオが吼えた。

 

「忍者か、こいつら? へへっ、面白れぇ」

 

 

 三人、五人と増える忍者。どこから出てきたのか、レオには見えなかったが、そんなことで彼の闘志は損なわれない。彼は、相手が強ければ強いほど、萎縮するのではなく血をたぎらせる傾向がある。

 忍者たちがレオとの間合いを広げ、意識的にか無意識的にか、レオから後退る。そして、レオの横手で苦鳴が上がった。

 エリカのデバイスを腕で防いだ忍者が、折れた腕を押さえて蹲る。その位置がエリカから遠く離れているのは、忍者がエリカの間合いから逃れる為に跳んだのと、エリカが他の忍者の攻撃を警戒して追撃しなかったことの、二つの要因が重なり合った結果だ。

 

「レオ、心は熱く、意識は冷静に、よ。一人で戦ってるんじゃないんだからね」

 

「すまん、助かったぜ。幹比古も悪い。護衛のはずが、守られちまった」

 

「影に同化した敵の奇襲から守ってくれたじゃないか。お互いさまだよ」

 

「オーケー。そういうことにしておこうか」

 

 

 レオがポケットからナックルダスターを取り出して両手にはめる。見た目は玩具にしか見えないので、警察に見つかってもファッションで済まされるのだが、レオの左手首に起動式が纏わりつき、吸い込まれる。

 今回の視察旅行は目立ち過ぎないことが条件なので、普段使いのCADではなくこのCADを持ってきたのだ。エリカが日傘に偽装していたのもそのためだ。

 

「さて、と。それじゃ改めて」

 

「側面の敵は任せなさい」

 

「援護は任せて」

 

「行くぜ、オラァ!」

 

 

 三人が気合を入れて臨戦態勢を取るのを、忍術使いも何もせずに見ていたわけではない。レオの進路に木の葉が舞い上がり、彼の視界を塞ぐ。

 レオの視界を覆っていた木の葉が、幹比古の魔法によって吹き飛ばされ、レオの視界が晴れる。正面に立っていた忍術使いが巻物を咥え、苦無を投げて空になった手で印を結ぶ。目の前の敵が講談の中の忍者ではなく、現実の存在と力を持つ古式魔法師であることはレオも理解していたが、こうも通俗的なイメージ通りのポーズを取られるとかえって調子が狂ってしまう。

 突進こそ鈍らなかったものの、レオも一瞬、気が乱れた。忍術使いの胸が膨らみ、一気に萎んだ。鋭い音が発せられ、レオが眩暈に襲われる。

 忍術使いが咥えていたのは巻物に見せかけた笛で、音を媒体に相手の感覚器官へ干渉する魔法を放つ道具だ。大振りのナイフを向いてレオに襲い掛かった忍術使いだったが、彼の誤算はレオの肉体のスペックだった。

 敵の突き出すナイフを、レオは右手で殴りつけ、切っ先をナックルダスターで正確に捉え、その衝撃でナイフを地面に叩き落した。そして左手で忍術使いの顎目掛けてフックを放ち、その顎を砕いた。

 

「やべぇ!」

 

 

 手加減を誤ったことを後悔し、一瞬の隙に繋がる短所が露呈したが、彼はそれを埋める切り替えの速さを持っていた。倒した男の背後から次の敵が姿を見せ、その男はレオに向かって口を突き出していた。咄嗟にレオが伏せる。

 男の口から火が噴き出て、レオの頭上を通り抜けた炎の帯は、空中で反転して術者に襲い掛かった。顔面を焼かれ、男がもんどり打って倒れる。炎がUターンしたのは幹比古の魔法によるものだった。

 自分が作り出した凄惨な光景に、幹比古が顔を顰めたが、彼は次の攻撃を躊躇ったりはしなかった。彼は次の術を編み上げる。

 エリカは自分で言った通り、レオを挟み撃ちにしようとした忍術使いの片方を迎撃していた。華奢な得物は何時もの刀に比べて威力に劣るが、その分スピードに優る。エリカの鋭い打ち込みにナイフを落とした忍術使いの身体が、次の瞬間二つに分裂した。

 

「分身!?」

 

 

 エリカが上げた驚きの声に、二つに分かれた忍術使いは同じ動作で苦無を構えながら、同じ顔に得意げな表情を浮かべた。だがそれはすぐに驚愕へと変わった。分身の片方が消え、男は一人に戻る。幹比古の精霊魔法が忍術を破ったのだ。

 生まれた一瞬の隙を、エリカが見逃すはずもなく、忍術使いの両手両足の骨を綺麗に折った。その男を含め八人の忍術使いに、弱い雷撃が襲う。既に戦闘力を失っていた男たちは、幹比古の雷撃魔法により意識を刈り取られた。




今のうちに目立っておかないと……のちに将輝に不幸な出来事が起こる予定……

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