劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今回から暫く作者の妄想話です


IFルート その1

 ブランシュの一件が片付いて暫くして、達也は放課後に約束がある為に風紀委員の事務作業を早めに終わらせる事にした。もちろん終わらないで帰れるはずも無いので、何時もの倍の速度で仕事をしたのだ。

 

「委員長、今日の分の報告書、上がりました」

 

「もうか? 何時もより早いな」

 

「ちょっと約束がありまして、時間に厳しいの人なので遅れるわけには……」

 

「約束? 君が予定を話してくれるなんて珍しいな」

 

「そこまで踏み込んだ話をした覚えが無いのですが」

 

 

 面白がってるのを隠そうともしない摩利に、達也はため息を吐きたくなる衝動に駆られる。今後はこの人に予定を話すのは止そうと決心した瞬間だった。

 

「それじゃあもう帰るのかい?」

 

 

 生徒会室へと続く階段を見ながら言う摩利に対して、達也は摩利が言いたい事を完全に理解して答えた。

 

「深雪も知ってますし、委員長が心配する事じゃ無いですよ」

 

「そうだな。本人が納得してるなら良いんだ」

 

「言っておきますが、委員長が想像してるような事じゃ無いですからね」

 

「なっ! 別にアタシはおかしな事は想像してないぞ!」

 

「……俺は何も言ってませんが」

 

「あっ……」

 

 

 気まずい沈黙が流れたので、達也は無言で一礼して風紀委員会本部を去っていった。残った摩利は顔を真っ赤にさせて恥ずかしがっていたのだが、運悪くその場に鋼太郎が現れたので、摩利の照れ隠しに意味も無く叩かれる破目になったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後五時、待ち合わせには少し早いかもしれない時間帯だが、達也はあまり長い間外出出来る環境に無いし、相手も不規則な時間に仕事があったりするから、空いている時間を有効活用する為にこの時間に待ち合わせたのだった。

 

「時間ピッタシ、さすが達也君ね」

 

「本当なら俺が先に来てなければいけなかったんですがね」

 

「ううん、達也君は忙しいんだろうし、何より深雪さんの事があるしね」

 

「スミマセン」

 

 

 待ち合わせの場所には、達也より少し年上風の女性が待っていた。普段彼女と会う時はスーツか制服のどちらかなのだが、今日はスカートを穿いている。

 

「珍しいですね、スカートなんて」

 

「いけない? だってせっかくのデートなんだから」

 

「デート……それじゃあ俺たちは付き合ってるんですか?」

 

 

 目の前でおどけている女性――藤林響子にイタズラっぽい笑みで問いかける達也。その質問に響子は頬を膨らませて抗議した。

 

「何よ、この前勇気を振り絞って告白したじゃないの!」

 

「冗談ですよ。まったく、響子さんは可愛い反応してくれるのでついイタズラをしたくなるんですよね」

 

「年上のお姉さんに可愛いだなんて、達也君ちょっと生意気よ」

 

「何か会長っぽいセリフですね」

 

「会長って、真由美さんの事?」

 

 

 真由美と響子が旧知の仲だったのを知っていたので、あえて似ていると言った達也だが、実際に目の前に真由美が居たらこんなに楽しい気分にはなってなかっただろうと思ったのだった。

 

「止めましょう。せっかくのデートが台無しになりそうです」

 

「そうね。そうだ達也君! お誕生日おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

「少佐に無理言って今日は非番にしてもらったのよ」

 

「その分明日から忙しそうですね。手伝える事があるのなら手伝いますよ?」

 

「ありがと、でも達也君だって忙しいんだし、お互い無理しないように頑張りましょう」

 

 

 響子は軍務が、達也は深雪のガーディアンや四葉からの依頼、そして学園生活などとその気になれば一日中忙しくなれる生活をしているのだ。

 こうした生活の中で、響子と一緒に居られる時間は、達也にとって至福の時間だと言えるだろう。

 

「今日は達也君の欲しいものを買ってあげるわよ」

 

「欲しいものですか? そうですね……新しいアイディアがあれば……」

 

「それは買えないでしょー!」

 

「それじゃあ普通の魔法力が……」

 

「もっと買えないじゃない!」

 

「冗談です。響子さん、分かっててやってますよね?」

 

「だって達也君が屈折した思いを抱いてるのを知ってるからね。冗談だって分かっててもつい反応しちゃうのよ」

 

 

 響子が気にしてる事は杞憂なのだが、それくらい自分の事を気にしてくれているのかと達也は嬉しくなってつい響子の頭を撫でそうになった。

 

「達也君?」

 

「あっと、つい癖で」

 

「私は深雪さんじゃ無いんですけど?」

 

「じゃあこっちなら良いですか?」

 

 

 そう言った達也は素早く腰を屈め、響子の唇を奪った。一瞬何をされたのか分からなかった響子だが、自分がキスされたんだと理解した途端に全身が真っ赤に染まったような感覚に襲われたのだった。

 

「油断大敵ですよ。少尉らしくも無いですね」

 

「今は階級で呼ばないでよね。せっかくのプライベートなんだから」

 

 

 口では怒ってる風を装ってるが、響子は完全に照れている。しかも自分では制御出来ないくらいにだ。その事が分かってる達也は、楽しそうな顔で響子に手を差し出す。

 

「行きましょう。いくら非番になってるとは言え、時間は有限です」

 

「そうね。せっかくの達也君と二人きりの時間を、無駄にするのはもったいないわね」

 

 

 手を繋ぎ響子が予約したホテルのレストランへと向かう二人。達也が制服(一高のだ)のままだったら姉弟に見えたかもしれないが、しっかりと着替えてきてるので誰が如何見ても恋人同士だと言える雰囲気だった。

 

「そう言えば達也君、例の件では大活躍だったみたいね」

 

「巻き込まれた以上、全力で叩き潰しますよ」

 

「あら物騒。さすがは達也君ってところかしら?」

 

 

 食事中にするような会話ではないので、詳しい事には触れないが、二人にはそれだけで会話が成立するだけの情報と意思疎通が出来るのだ。

 

「俺だからって訳じゃ無いですが、自分の空間が侵されようとしてるんですから、あれくらいはしますよ」

 

「深雪さんも関係してるからじゃないの?」

 

「響子さんが狙われても同じようにしますよ」

 

 

 達也の物言いに、少し不満顔の響子。達也は響子の気持ちを察し、言い直す。

 

「響子さんが狙われた時はもっと過激になるかもしれませんね」

 

「そう、ねぇ達也君」

 

「何ですか?」

 

「今日はね、非番なんだ」

 

「さっき聞きましたよ」

 

 

 何を言いたいのか分からないのか、達也は響子の発言に首を傾げる。

 

「達也君も今日は時間あるんでしょ? この後部屋に来ない?」

 

「……本気ですか?」

 

 

 響子が意図した事を完全に理解した達也は、自然と声のトーンを落とした。

 

「冗談でこんな事言う訳無いでしょ。誕生日プレゼント、あげなきゃいけないんだから」

 

「無理に貰うつもりはありませんよ」

 

「女が此処まで言ってるんだから、素直に貰いなさいよ!」

 

 

 響子が立ち上がり怒鳴ると、達也はスッと響子の耳元に近付いてささやいた。

 

「それじゃあ、響子さんの据え膳、ありがたく頂きます」

 

 

 その言葉に顔を真っ赤にした響子だった……




今回は響子と達也が付き合ってる設定で話を作りました。物足りない人は個々で妄想してください。

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