劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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とりあえず終わった


内乱終結

 ふくらはぎが弾けた事により、神行法は破れ、周公瑾は道路に転がった。

 

「ここまでだな」

 

 

 将輝がCADを構えたまま、投降を促す。周公瑾はすぐに立ち上がった。無様に転がったままは、彼の矜持が許さなかったのだろう。

 

「確かに、ここまでのようですね。ですが、貴方たちに私を捕まえることはできない。私は滅びない。例え死すとも私は在り続ける!」

 

「一条、下がれ!」

 

 

 達也が叫ぶのと同時に後方へ跳躍する。将輝も同じように周公謹から距離を取った。次の瞬間、周の全身から血が噴き出し、赤い血が、赤い炎に変わる。

 

「ハハハハハハハハハ……」

 

 

 燃え盛る炎の中、延々と続く哄笑。それは火が消えるまで続き、火が消えた後には、骨も残っていなかった。

 

「周公瑾は本当に死んだのか?」

 

 

 将輝がポツリと呟いたのは、黄昏が夜に変わり、星が瞬き始めた頃だった。

 

「逃げられてはいない。間違いなく、周公謹はあの炎の中で燃え尽きた」

 

 

 達也は将輝の顔を見ておらず、彼の眼は、宇治川の上流へ向けられていた。

 

「そうか……これで、横浜事変の後始末は完全に終わったのか?」

 

「そうだ」

 

「そうか……危うかったな」

 

「何がだ?」

 

 

 脈略の無い将輝のセリフは、達也にも理解できなかった。

 

「国防軍が操られて、戦車まで出てくるとは。危うく内戦になるところだった」

 

「市街地であれだけ派手に魔法を撃ち合ったんだ。内戦状態には既に足を突っ込んでいた」

 

「ならば、事態の早期収束、拡大前に内乱の鎮圧で『めでたしめでたし』ということか」

 

「そうも言えるかもしれんな」

 

 

 達也の真面目腐った答えに将輝が笑いだし、達也もつられて笑い出した。二人の笑い声は、寂寞たる秋の風に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイクを返しにホテルに戻ると、文弥と亜夜子が先に帰ってきていた。

 

「達也兄さん、お疲れ様でした」

 

「文弥と亜夜子こそお疲れさま。相変わらず見事なコンビネーションだった。お陰であの男の足を止めることが出来た」

 

 

 達也がそういって褒めると、二人は照れて目を逸らした。

 

「そういえば達也さん、何故あの男の居場所が分かったのですか? わたくしたちは車で追跡していたのにも拘わらず、見失ってしまいましたのに」

 

 

 照れ隠しの意味も有るだろうが、亜夜子が達也の眼を見ないまま尋ねた。

 

「一人の魔法師の執念が、死してなおあの男を追い詰めた……というところか」

 

「?」

 

「達也兄さん、どういう意味ですか?」

 

 

 亜夜子は訳が分からないという顔をし、文弥は声に出して尋ねた。

 

「どういう原理でそうなったのか、今はまだ分からない。詳しい事が判明したら教えるよ」

 

 

 達也は二間続きの隣の部屋に入り、ここに来たときに着ていた服に扉を開けたまま着替えた。

 

「文弥、任務完了を葉山さんに報告しておいてくれないか。俺は色々とフォローしなければならない先がある」

 

「分かりました。その程度の事でしたら、お任せください」

 

「頼んだぞ」

 

 

 それを挨拶代わりにして、達也はそのホテルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 論文コンペ当日、達也は会場に来ていた真由美と会っていた。

 

「そう……名倉さんを殺した犯人は、自殺したのね」

 

「俺たちが追い詰めた結果の自決ですから、自殺と言って良いものかどうか分かりませんが」

 

 

 達也は名倉殺害事件が解決したことを真由美に伝えていた。

 

「その方が良いわ。達也くんが名倉さんの無念を晴らしてくれたと言う事だもの。ありがとう、達也くん」

 

「いえ、お礼を言われることは何も」

 

「今度はゆっくり付き合ってもらうからね。深雪さんも審査頑張って」

 

 

 深雪に意味ありげな視線を向けて、真由美は喫茶室を後にした。

 

「お兄様、深雪がいない間に七草先輩と何をしたのですか? 差し支えなければお教えください」

 

 

 残された達也は、人混みに消えていった真由美に、心の中で恨み言を述べたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 論文コンペは、第二高校の優勝で終わった。コンペが終わった頃、四葉本家の屋敷でも、小規模ながら論文コンペ以上に真剣な発表が行われていた。

 

「お聞きいただきました通り、今回の一件において司波達也は、強制を受けていなかったにも拘わらず任務を忠実に果たし、クライアントの求める結果を出しました。彼は四葉にとって有用な人材であり、仕事に対する忠誠心も問題ないと思われます」

 

 

 苦虫を噛み潰した顔が並ぶ中で、真夜がおもむろに口を開いた。

 

「今回の任務は達也さんに対するテストでした。結果は葉山さんから報告があった通りです。皆様もそう思われませんか?」

 

「認めないわけにはいかぬだろう」

 

 

 椎葉家当主が、重く閉ざしていた口を開く。

 

「この能力は、確かに惜しい」

 

 

 真柴家当主が、納得の声を上げる。

 

「今回は合格だ。今回はな」

 

 

 新発田家当主が不快感を隠そうともせず言い放つ。

 

「我々は変な先入観を捨てるべきではありませんか」

 

「賛成です。思うに、我々は最初に期待し過ぎていたのでは? そろそろ客観的になることが必要でしょうな」

 

 

 武倉家当主の提案に、津久葉家当主が頷く。

 

「私は、最終的な判断を下すには早すぎると思う。客観的評価と言うなら、司波達也が偏った才しか持たぬのもまた客観的事実」

 

 

 静家当主が慎重論を唱え、一同の目が、沈黙を守っていた黒羽家当主、黒羽貢の上に注がれる。

 

「黒羽殿はどうお考えか?」

 

 

 新発田家当主が発言を促す。

 

「私は、今回の任務に失敗しました。故にこの件について、意見を述べる資格は無いと思っています」

 

「でしたら、新年の慶春会まで結論は保留といたしましょう」

 

 

 重い沈黙をものともしない、おっとりとした声が議論に終止符を打った。それは、次の正月に最終結論を出すという宣言であったが、この場に集まった分家の当主たちは、四葉家当主の言葉に、異を唱えることが出来なかったのだった。




コンペはカットして、次回からちょっとおまけをやります

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