達也が招き入れたメンバーは、五十里の警護である花音以外はOGだった。
「あーちゃん、大丈夫? へこんでない?」
「ま、真由美さん!? だ、大丈夫です。司波君に怒られちゃいました」
「達也君に? おいおい、君は上級生を叱ったのか?」
「何時までもへこんでいては、五十里先輩や三七上先輩も入りにくそうでしたので」
達也が苦笑いを浮かべながら、摩利の問いかけに答える。摩利も半分は笑っていながらの問いかけだったので、本気で達也が怒ったとは思ってなかったようだ。だが、あずさにはその二人の間にある信頼が理解できず、必死に達也のフォローを始めた。
「あ、あの……司波君は私の為を思って怒ってくれたのであって、渡辺先輩が思ってるような怒り方ではありませんでした……むしろ、年上の私を怒るのに、罪悪感を持っていたようにも思えましたし」
「中条さんには、お二人の冗談が通じにくいみたいですね」
「何だ、市原。あたしと達也くんの関係が羨ましいのか?」
摩利の返しに、鈴音は少し頬を赤らめて視線を逸らした。
「去年の司波君たちの発表もよかったけど、今年も凄かったですね、五十里君」
「平河先輩もいらしてたんですね」
「去年は迷惑を掛けちゃったから、せめて応援でもと思ってね」
「ところで達也くん、さっきあーちゃんの事を呼び捨てにしてたように聞こえたんだけど」
「何時から聞いていたんです? 先輩の能力では、声までは聞こえないはずですよね?」
「まぁ、それはいいじゃない」
明らかに盗聴しているような発言をした真由美に、達也がジト目を向けると、真由美はバツが悪そうに視線をそらしたが、先の質問の答えが気になって再び好奇心を纏った視線を達也とあずさに向けた。
「もしかして達也くんとあーちゃんはそういう関係なの?」
「寝言は寝てから言ってください。あれは、中条先輩の意識をこちらに向けさせるための策で、普段から呼んでいるわけではありません」
「真由美も呼び捨てにされたいんじゃないか? お前は京都の捜索に行くときも、十文字じゃなく達也くんの予定ばかり――」
「摩利! 余計なことを言わないで!」
「それで、先輩方は中条先輩たちをねぎらいに来たのですよね? では俺はこれで失礼します」
目的であったあずさを励ますことは達成したので、控室から出て行こうとした達也の腕を、あずさと真由美が掴んだ。
「何でしょう?」
「反省会に付き合ってくれないでしょうか? 二高の発表が素晴らしかったのは私にも理解出来ていましたが、どうすればウチが二高に勝てたかの改善点を司波君にも考えてもらいたいんです」
「それは構いませんが……七草先輩は何故俺の腕を掴んだんです?」
「それは……そのぅ……あーちゃんが何か言いたそうだったけど、あーちゃんの性格だと自分から言い出せないかな~って思っただけよ」
「本当か? 真由美個人が達也君と一緒にいたかったんじゃないか?」
「摩利! 変な事言わないで! まるで私が達也くんの事を……」
そこで言い淀んでは完全に摩利の思うつぼだ。彼女は真由美が達也に好意を抱いていることを理解しているし、それをネタにからかって遊ぶのに快感を覚えてきている。修次と付き合いたての頃、散々真由美にからかわれた時の意趣返しとでも思っているのだろう。
「何だぁー真由美。まさかお前、自分が達也くんに抱いてる気持ちが、本当に弟に対するものだとは思ってないんだろ? この前の夜の事だって、達也くんにだからあの程度で済ませたんだろ? あれが服部だったらどうしてたんだ? 達也くんと同じようにはしてなかっただろ?」
「何の話ですか?」
「ああ、京都で調べものをしてた時に、こいつは達也くんを連れてバーに行ったらしいんだ。そこで散々酔っぱらった挙句、達也くんに部屋まで連れて行ってもらい、あまつさえドレスを脱がしてもらったらしいんだ。しかもこいつから頼んだくせに、翌日に達也くんを責めるという照れ隠しまでしたらしいんだ」
「ちょっと摩利! 誰にも言わないでって言ったでしょ!」
「別に市原だけになら問題ないだろ? こいつが他のヤツに言いふらすように思えるのか、お前は」
「深雪さんの耳に入ったら大変じゃないの! ……あっ、そういえばさっき、自分から深雪さんに知らせるような事をしたかも……」
達也から報告を受けた際に、思わせぶりなセリフを残してきた記憶があると、真由美は今更ながらに顔を蒼くして達也の表情を窺い見た。彼は真剣にあずさたちと反省会をしており、改善点などを指摘すると三人が納得したように頷いていた。
「どうやらこちらの会話は聞かれてないようだな。しかしまぁ、すごい集中力だ」
「えっと……七草さんって、司波君の事が?」
「あっと……分かってると思うが、今のは他言無用だからな、平河」
「言えませんよ……十師族・七草家の令嬢が痴女だったなんて」
「ちょっ!?」
「今の流れの感想がそれか……お前もズレてるな」
小春の感想に、摩利は呆れ真由美は慌てた。そしてもう一人、鈴音はというと、複雑な思いを込めた視線を真由美と達也に向けていたのだった。
「――と、こんな所でしょう。五十里先輩や三七上先輩は、何か考えはありますか?」
「いや、僕にはないよ」
「俺もだ。やはりもう少し司波に手伝ってもらえばよかったかもな」
「中条先輩は、何かありますか?」
「いえ、私も司波君の考えで納得が出来ました。さすが先生方が認めるだけの頭脳ですね」
反省会が終了したタイミングで、控室に再び来客が訪ねてきた。扉を遠慮がちにノックする相手を出迎えたのは真由美だった。
「はい、どちら様――貴方、二高の九島光宣くん!?」
「あっ、七草家の真由美さん……ご無沙汰しております。あの、ここに達也さんがいると聞いてきたのですが」
遠慮がちに部屋の中を覗き込み、達也を見つけた光宣は、見る人を虜にするであろう笑みを浮かべたが、生憎この場所にいるのは達也にご執心の女子か、彼氏持ちの女子しかいなかったので、誰一人魅了されることはなかったのだった。
今回はIF短めになりそうです