劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今回は甘さ控えめになってるはずです


IFルート その3

 四月二十五日、放課後の見回りを終え帰ろうとしていた達也たちの許に、雫とほのかがやって来た。

 

「深雪、一緒にお買い物に行かない?」

 

「今から? 明日でも良いんじゃない?」

 

「今日はセールで色々安いのよ!」

 

「あらそうなの? それじゃあ行こうかしら」

 

 

 なにやらちょっと強引な感じだが、ほのかと深雪はこのまま買い物に行く事になった。

 

「北山さんは行かないのか?」

 

「私は一人暮らしじゃないから」

 

「光井さんは一人暮らしだったのか」

 

 

 クラスの違う友人の事なんてそんなものだろう。達也が知らなくても別におかしくは無いのだが、雫は意外そうな顔で達也を見ている。

 

「何?」

 

「達也さんでも知らない事があるんだと思って」

 

「俺だって何でも知ってる訳じゃない。そもそも光井さんが一人暮らしか如何かなんて知りようが無いだろ?」

 

「そうかな? 調べようとしたら達也さんなら簡単に調べられそうなんだけど」

 

「……北山さんの中の俺はどんな風になってるんだ」

 

 

 随分と過大評価されてるなと、達也は苦笑いを浮かべながら考えていた。

 

「それじゃあ俺は帰るとするかな。北山さん、また明日」

 

「待って」

 

「ん?」

 

 

 駅のホームでキャビネットの順番が来たので別れを告げたのだが、雫に制服の裾を掴まれた。振りほどこうとすれば簡単に振りほどけたのだろうが、達也はそれをしなかった。

 

「如何かしたのか?」

 

「達也さんに付き合って欲しいところがあるの」

 

「俺に? 別に構わないが今からか?」

 

「うん」

 

 

 小さく頷いた雫に、達也は頭を掻きながら答えた。

 

「分かった。それじゃあとりあえず乗ってくれ。後が閊えてるから」

 

「あっ……ゴメンなさい」

 

 

 それほど混んでいる訳では無いのだが、それなりに人は並んでいるので、雫は小さく謝って達也と同じキャビネットに乗り込んだ。

 

「それで、何処に行くんだ?」

 

「ショッピングモールに」

 

「深雪たちとじゃ駄目だったのか?」

 

「達也さんとじゃなきゃ意味が無いから」

 

 

 何だか意気込んでいる雫を見て、達也はまた面倒事を引き受けてしまったのではないかとため息を吐きたくなった。

 

「それで? いったい何の目的で俺を誘ったんだ?」

 

「それは後で話す。今は兎に角付き合って欲しいの」

 

「……まぁ特に予定も無かったしな」

 

 

 深雪にこの事を知られたらまた面倒な事になりそうだと考えながらも、今は雫のわがままに付き合う達也。意外と付き合いは良い方なのだ。

 

「ねぇ達也さん」

 

「何?」

 

「私の事は『雫』で良い」

 

「分かった」

 

 

 実際苗字で呼んでる同級生の友人は雫とほのかくらいで、後は全員名前を呼び捨てにしているため、この申し出は達也にとってありがたいものだった。

 

「それじゃあいこ?」

 

「ん? もう着いたのか」

 

「達也さん、途中から考え込んでたからね」

 

「特に何かを考えてた訳じゃないんだがな」

 

 

 実際大した事は考えて無かった達也だが、雫には達也が謙遜してるのではないかと思われていそうだった。

 

「なぁ雫」

 

「何?」

 

「此処って男物の店だが、誰かにプレゼントでもするのか? 親父さんとか」

 

「違うよ」

 

「じゃあ誰に? お兄さんでも居るのか?」

 

「それも違う」

 

「じゃあ……」

 

「達也さんにプレゼントするんだよ」

 

「俺に?」

 

 

 意外だった為に、達也は滅多に見せない驚きの表情を浮かべた。まさか自分のプレゼント選びにつき合わされてるとは思いもしなかったのだろう。

 

「昨日は知らなかったから仕方ないかったけど、達也さんの誕生日プレゼントを買おうと思って」

 

「別に気にしなくても良かったんだが」

 

「駄目!」

 

「そ、そうか」

 

 

 珍しく雫が強気に出たので、達也は大人しくプレゼントをもらう事にした。それほど付き合いが深い訳では無いのだが、雫があんなに感情を表に出すとは思って無かった達也は、何か逆らってはいけない雰囲気を感じ取ったのだ。

 

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 

「彼に似合いそうなものを」

 

「そうですね、お連れ様ですと……此方など如何でしょう」

 

 

 店員が差し出してきたのは渋めのハンカチ、さすがに高校生に勧める様な物では無い。

 

「もう少し若者向けのものは無いの?」

 

「若者向けですか、でしたら此方は如何でしょう」

 

 

 今度は明らかに達也の雰囲気にあってないものを差し出す店員。随分と教育の行き届いていない店なんだと雫は理解した。

 

「もういい。自分で探す」

 

「分かりました。それでは何かありましたらお声掛けください」

 

 

 一礼して雫の傍を離れていく店員が、誰にも聞こえないように舌打ちしたのを、達也は良く聞こえる耳で聞いていたのだが、その事は誰にも言わなかった。

 

「達也さん、達也さんって何色が好きなの?」

 

「色? そうだな、黒とかが多いな。でも青とかも好きかな」

 

「青……達也さんならピッタリかもね」

 

 

 何処を見てそう思ったのかと達也は疑問に思ったのだが、自分で好きだと言った以上ツッコミは入れない方が良いだろうと踏みとどまった。

 

「それじゃあこれとこれ、どっちが良いかな?」

 

「こっちの方が派手じゃ無い分良いかな。でも高くないか?」

 

 

 ハンカチ一枚に数千円は達也の感覚では高いと思ったのだが、雫は特に気にした様子は無く会計しに行った。

 

「おい雫?」

 

「大丈夫、お父さんからお小遣い貰ってるから」

 

「……そう言う意味じゃ無いんだが」

 

 

 あまり高価なものを貰っても達也としては困るだけなのだが……だが雫は聞く耳を持たないようでさっさと会計をして綺麗に包装してもらっている。

 

「はい達也さん、お誕生日おめでとう」

 

「ありがとう、だが本当に良いのか?」

 

「気にしないで。これくらい普通」

 

「そうなのか」

 

 

 金銭感覚がズレてるなと思いながらも、せっかくくれたのだから大事にしようと、達也は鞄に綺麗に包装されたハンカチをしまった。

 

「それともう一つ、達也さんに言いたい事があるの」

 

「俺に? 何だ?」

 

「此処では……ちょっと付き合ってくれる?」

 

「別に構わないが」

 

 

 何やら恥ずかしそうに達也の手を引っ張って人気の少ない場所まで歩く雫を見て、何となく言いたい事に検討がついた達也だったが、大人しく付き合う事にしたのだ。

 

「此処なら良いだろ」

 

「うん……あのね、達也さん」

 

「ああ」

 

「私と付き合ってくれないかな?」

 

 

 雫の用件は達也が想像した通りだった。その申し出に、達也は頷いて返事を返したのだった。




大体想像ついてると思いますが、次回はほのかルートです

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