エリカの機嫌取りとして、休日に出かけた達也だったが、そこでもばったり五十里と花音に出くわした。
「司波君たちって、あたしたちの事つけてるの?」
「それは先輩たちじゃないんですか? あたしと達也くんはストーカーみたいなことをして喜ぶ趣向は持ち合わせてないですから」
「あたしと啓だってそんな趣味ないわよ!」
「まぁまぁ花音、たまたまだって事だよ」
「エリカも、あまり攻撃的になるな」
「「だって!」」
声を揃えて、それぞれの彼氏に泣きつく二人を、達也と五十里は苦笑いを浮かべながら慰める。
「それじゃあ、五十里先輩、俺たちはこれで」
「うん、僕たちももう行くよ。ほら花音」
五十里に手を引かれて離れていく花音を、エリカは睨むようにして見送った。
「達也くんと啓先輩って、やっぱり仲良いの?」
「別に、普通の関係だと思うが」
「でも、達也くんも啓先輩も技術者タイプじゃない? だから気が合うのかなーって思ったり」
「考えが似る事はあるが、まったく同じってわけでもないし、それに俺と五十里先輩は年が違うから、仲が良いという表現が当てはまるかどうか……」
「仲が良いでいいんじゃないの? 達也くん、七草先輩とか渡辺摩利とかとも仲が良かったし」
「あの二人は、俺をからかおうとして企んでただけだろ。別に特別仲が良かったわけでもないぞ」
摩利の名前をいう時、エリカの顔が嫌そうに歪んだのを、達也は見逃さなかった。エリカの次兄である修次と付き合っている摩利の事を、エリカは快く思ってないのだ。
「深雪の事をブラコンだとか言ってるが、エリカも大概じゃないのか?」
「……最近そう思うけど、でも私は深雪ほどべったりじゃないし、次兄上の前じゃ緊張しちゃうしね」
「エリカも、境遇だけ見れば俺と近いものがあるからな」
「うん……でもあたしは、いないものとしては扱われないし、沢山の味方がいてくれた。でも達也くんは敵の方が多いんでしょ?」
「敵という表現が正しいかは分からないが、存在を認めようとしない人の方が多いのは確かだ」
四葉家の人間として認められていない達也と、千葉の娘としてようやく認められたエリカは、境遇だけ見れば似た者同士なのだ。おそらくエリカが達也に惹かれた理由の少しは、自分と同じ匂いがすると思ったからなのだろう。
「さて、達也くんは何処に連れて行ってくれるのかしら」
「服を見るんじゃなかったのか?」
「達也くんのセンスに期待してるのよ」
「そんなこと言われてもな。俺にエリカのような美少女に似合う服を選ぶセンスがあると思ってるのか?」
「深雪ので慣れてるでしょ? ほら、行くわよ」
自分の腕を達也の腕に絡ませ、エリカは楽しそうに達也を引っ張っていく。達也も、踏ん張れば引っ張られることは無いと分かっているが、抵抗する理由も無いので、大人しく引きずられていくのだった。
何着か達也に選んでもらい、試着したエリカは、それぞれ違うニュアンスで指摘してくれた達也に満面の笑みを見せていた。
「やっぱり達也くん、センスいいわよね。深雪で慣れてるんだね」
「最近は水波のも選ばされてるし、それで慣れたんだろう」
ごく自然にエリカが気に入った服を店員に渡し、会計を済ませてエリカに手渡す達也。その動きがあまりに自然だったために、エリカは会計が済んでから慌てだす。
「お金は自分で払うわよ」
「気にするな。彼女に服を買ってやるくらいの甲斐性はあるつもりだ」
「……ありがと」
エリカは、達也が四葉縁者であることも、独立魔装大隊の特務士官であることも、トーラス・シルバーの片割れであることも知っている。だからではないが、達也の収入がどのくらいなのかも、ある程度予想することが出来るのだ。そしてそれは、自分のお小遣い程度では太刀打ち出来ないと言う事ななので、冗談で払ってもらうと言ったが、実際に払ってもらうと負担ではないのだろうが心苦しくなるのだ。
「達也くんの家って、家計とかは達也くん持ちなの? それとも仕送りがあるの?」
「深雪には親父から振り込みがあるらしいが、その金を使ってるところを見たことがないな……あの家は母親の実家持ちだし、俺も深雪も無駄遣いする方じゃないからな」
「そっか。そういえば深雪も、父親とは仲が悪いんだっけ?」
「母親が死んですぐ再婚したからな。心の整理がつかないんだろう」
「だから達也くんに甘えるんだね……ちょっとあたしと似てるかも」
親に甘えることは出来ないし、姉は自分の事を避けるような感じがしているのに気づいていたエリカが甘えられたのが、修次ともう一人の兄、寿和だけだったのだ。
「さて、しんみりした空気はここまでにして、どっかご飯でも食べに行きましょうよ。もちろん、達也くんの奢りでね」
「別に払うのは問題ないが、何処で食べるんだ?」
「そうだねぇ……啓先輩たちと被らない場所にしましょう」
さすがに何度も花音と口論して、達也と五十里に呆れられるのを避けたいエリカは、趣味が被らなそうな場所を探した。
選んだ店は、完全に個室の店だったので、花音と顔を合わせることも無く、また思う存分達也に甘えられる空間を確保したので、エリカは終始ご機嫌だった。
「このお店気に入ったわ。また来ましょうよ」
「別に構わないが、学生が来るような場所では無かった気がした」
「大丈夫だって。達也くん、大人っぽいから」
「何が大丈夫なのか分からないんだが」
ジト目で見てくる達也に、エリカは笑顔を見せ誤魔化した。初めの方にちょっとした気まずさはあったが、そのあとは満足のいくデートであったのだろうと、エリカの顔を見て達也はそう思って自分の見た目の事は気にしないようにしたのだった。
明日でIFは終わりです