劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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次回から四葉継承編です


IFルート 響子編

 東京に戻ってきてすぐ、達也は報告も兼ねて響子に連絡をし、後日会う約束をし、今日がその約束の日だった。

 

「ごめんなさい、遅れたかしら?」

 

「いえ、時間通りですよ」

 

「お祖父さまから電話があって、家を出るのが遅れちゃったのよ」

 

「閣下からですか?」

 

 

 響子と烈は祖父と孫の関係だから、電話があっても不思議ではない。だがこのタイミングで掛けてくるのは、あまりにも不自然だと達也には思えていた。

 

「何かまた厄介ごとですか?」

 

「違う、って言いたいけど、達也くんの予想通りよ。今度の休日に達也くんに会いたいそうよ。今度は深雪さんたち抜きで」

 

「また京都まで行けと?」

 

 

 前回は自分から申し出た事だから従ったが、今回達也に烈の言葉に従う義理は無い。その意味も込めて、達也はあえて鋭い視線を響子へ向けた。

 

「今回はお祖父さまがこちらに来るそうですから。その時に達也くんの時間をもらえないか聞いてほしいって」

 

「場所は?」

 

「私の部屋に寄るみたいだから、多分そこになると思うわ」

 

「響子さんの部屋ですか? そういえば行ったことないですね」

 

「普通の面白みのない部屋だもの。達也くんを招くほどの場所じゃないし」

 

「会う時は大体ホテルですもんね」

 

 

 付き合ってこそいるが、達也も響子もいろいろ忙しい身なので、会う時は大体独立魔装大隊で使用しているホテルの部屋なのだ。それ以外は、こうして外で会うようにしている。

 

「詳しい事が決まったら、また連絡する事になると思うけど、達也くんはそれでいいかしら」

 

「遠出しなくていいのなら問題ありません。また京都となると、絶対に深雪や水波もついてくるでしょうし」

 

 

 前回は遊びで行ったわけではなかったのだが、深雪や水波は普通に京都観光を楽しもうとしていたと、達也には感じられていた。まぁ、四葉からの任務を受けたのは達也であって、深雪や水波ではないのだから、何処か気のゆるみがあったとしても仕方なかったのだろう。

 

「それじゃあ、達也くんからの報告を聞こうかしら。まぁ、大体は知ってるんだけどね」

 

「そうでしょうね。何せ、軍の基地内で起こったことが大半ですから」

 

 

 達也は、国防陸軍宇治第二補給基地で起こったことから、周公謹討伐の内容を響子に正確に伝えた。彼女の仕事の一つである、事件の概要を文字に起こし記録する事への協力なのだが、あえて電話ではなく直接話す事に、あまり意味は無かった。意味があるとすれば、二人がただ会いたかっただけなのだ。

 

「――以上が事の顛末です。何か不明な点はありますか?」

 

「いえ、良く整理されていて、とても分かりやすい話だったわ。達也くん、改めてお疲れさまでした」

 

 

 達也を労い、祖父との約束を果たした響子は、満足そうな笑みを浮かべこの場を去っていった。報告を終えた達也も、深雪と水波の機嫌を取るために、ケーキを購入して自宅へと帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の休日、響子からの連絡を受けた達也は、意外な事に初めて響子の部屋を訪れていた。部屋には既に、響子の祖父である九島烈の姿があった。

 

「これはこれは司波達也君。わざわざ時間を作ってもらって申し訳ない」

 

「いえ、それで本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 

 素っ気ないの見本のような態度で達也が本題に入るように促すと、烈は苦笑いを浮かべ頭を振った。

 

「光宣から聞いたが、君は何処までもドライな対応をするのだな」

 

「自分は貴方と縁を深めたいとは思いませんので。今回も響子さんに頼まれたから時間を作ったに過ぎません」

 

「そうか……じゃが、君は私と縁を深める事になるかもしれないな」

 

「どういう事でしょうか」

 

 

 口調は丁寧に、だが威圧的な態度は変えない達也に、響子が居心地悪そうに身動ぎを始めた。

 

「実は君の事を見た藤林家のものが、響子の婿にどうだと言い出してな。光宣も率先して賛成しておるのだ」

 

「閣下はご存知のようですが、俺は四葉真夜の甥です。そして深雪のガーディアンとして、アイツの側を離れるわけにはいきません」

 

「何も婿養子にするとは言っておらん。真夜にも相談したが、響子を嫁に出す分には問題ないそうだ」

 

「本人の意思を無視して、勝手に話を進めたのですか」

 

「響子はこのことを知っておる。君に伝えなかったのは響子の意思で、私の意思ではない」

 

 

 達也は視線だけ響子に向けると、彼女は申し訳なさそうに両手を合わせていた。

 

「叔母上は他に条件を出さなかったのですか?」

 

「君はあくまでも四葉のモノであり、九島・藤林両家の干渉は必要最低限にすることと、式を挙げる際には君を正式に四葉縁者として魔法師界に発表するのを後押しすることの二点だ」

 

 

 真夜は、単純に四葉に達也の居場所を作るために響子との婚姻を認めたようだった。本音としては突っぱねたいのだろうが、せっかくのチャンスとでも思ったのだろうと、達也は内心ため息を吐いた。

 

「俺が四葉縁者であることを公表すれば、同時に深雪の事も知られることになるのですが、その辺りは何も言ってなかったのでしょうか」

 

「その時はもう、深雪くんを後継者に指名しているだろうと笑っていた。まだ決めてないがと続けたがね」

 

「響子さんは、この事を納得しているのですよね?」

 

「う、うん。漸く婚約者の事を忘れさせてくれたのが、達也くんだったし。それに年齢的にも、そろそろ結婚したいって思い始めてたから」

 

「そうですか。では、俺には異存ありません。深雪の件が片付き次第、その話を進めさせていただきます」

 

 

 最後まで烈への態度は軟化させなかったが、結果として義理の孫となることを承諾したのだった。

 数年後、四葉縁者と九島・藤林縁者のみで行われた結婚式には、涙を流す深雪と光宣の姿が見られたのだが、その涙の意味は、まったく異なるものであることは、達也にも響子にも理解できたのだった。




外堀から埋めていって、最終的に響子さん大勝利

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