劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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勘違いしてる人が何人か居る為に言っておきますが、IFルートをやったからと言ってハーレムに入らない訳ではありませんよ


IFルート その4

 誕生日の翌日、達也は図書室で文献を閲覧していた。風紀委員の仕事は今日は非番、深雪の生徒会での仕事が終わるまでは達也は自由に動けるのだ。

 

「あの、達也さん」

 

「ん? 光井さん、何か用?」

 

 

 文献もある程度読み終えたので達也はカフェテリアでコーヒーでも飲みに行こうとしたらほのかに呼び止められた。

 

「昨日は知らなくてゴメンなさい! これ、一日遅いですが誕生日プレゼントです」

 

「ありがとう、でも気にしなくても良かったのに」

 

 

 マスターの心遣いであのケーキは皆からのプレゼントと言う事になってたので、達也はそれで十分だと思っていたのだ。

 

「良く無いですよ!」

 

「光井さん、図書室ではあまり大声は出さない方が良い」

 

「え? あっ! ゴメンなさい……」

 

 

 出入り口とは言えあまり大声を出して見逃してもらえる場所では無い事に気付き、ほのかは赤面する。

 

「とりあえず場所を移ろうか」

 

「はい……」

 

 

 達也自身も移動するつもりだったので特にほのかを気遣った訳では無いのだが、ほのかは達也に感謝の篭った視線を向けていた。

 

「何か飲む?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そう。それで、これは此処で開けても良いのかな?」

 

「え、あ、はい!」

 

 

 綺麗に包装された箱を目の前に出され、ほのかは何を言われたのかを理解した。箱の中には少し不恰好だが気持ちが篭っているだろうクッキーが入っていた。

 

「少し失敗してしまったのですが……」

 

「いや、気にならないよ。ありがとう」

 

 

 深雪が基準になっている達也は採点に厳しいのだが、目の前で泣きそうになっているほのかを見て慰めの言葉を言う。

 

「良かったら食べて下さい」

 

「此処で? それじゃあ頂きます」

 

 

 手作りのお菓子を目の前で食べて欲しいとは、よほど自信があるのか、それとも……そんな事を考えながら、達也は手作りクッキーを一枚口へと運ぶ。

 

「……美味しい」

 

「本当ですか!?」

 

「うん、形は少し失敗したみたいだけど、味は文句無いよ」

 

「本当に本当ですか!?」

 

「本当だよ。食べてみる?」

 

 

 達也に差し出されたクッキーを見て、ほのかは急に赤面した。

 

「如何かした?」

 

「い、いえ! 何でもありません!」

 

「そう? 何だか急に赤くなったようだけど」

 

 

 自分がしている事が結構恥ずかしい事だと気付いていない達也は、首を捻りながらもほのかへ差し出したクッキーを引っ込めようとはしない。

 

「あーん」

 

「!?」

 

 

 完全に狙ってるとしか思えない事を言われ、ほのかは更に赤面するのだが、達也は完全に素面だ。

 

「あ、あーん……あっ、美味しい」

 

「でしょ? 光井さん、お菓子作り上手なんだね」

 

「ひ、一人暮らしですし、女子ですから……」

 

「そうなんだ。でも女子だからと言って、必ずしもお菓子作りが上手だとは限らないんじゃないかな?」

 

 

 特に誰かを想像して言った言葉では無いのだが、ほのかは深読みし過ぎた。

 

「深雪だって上手なんですよね?」

 

「深雪? そうだね」

 

「じゃあ達也さんのお母さんが苦手だったんですか?」

 

「母さん? いや、覚えて無いな」

 

「覚えて……ひょっとして達也さんのお母さんって」

 

「死んだよ。でもそれほど前でも無いかな」

 

 

 覚えて無いと言ったのは、そう言った普通の母子としての記憶が無いからであって、決して母親の事を覚えて無いと言った意図では無かったのだ。

 

「ゴメンなさい! 悲しい事を思い出させちゃって!」

 

「別に悲しいとは思って無いよ。ただ深雪には言わないでくれるか? まだ引き摺ってるかも知れないから」

 

「は、はい!」

 

「ありがとう」

 

「はうっ!」

 

 

 達也が向けた笑顔に、ほのかの胸は締め付けられた。

 

「? やっぱり何処か具合が悪いの?」

 

「い、いえ! ……やっぱり?」

 

「さっきから顔が赤かったり、急に苦しそうにしてるし……風邪?」

 

 

 ほのかの額に手をあて、自分の額の温度との違いを計る達也。額同士をくっつけなかったのはほのかが赤面してる理由に何となく気付いてるからだった。

 

「特に熱くは無いか」

 

「だ、大丈夫ですから!」

 

「そう? なら良かった」

 

 

 ほのかから貰ったクッキーをお茶菓子に、達也はコーヒーを飲み終えた。

 

「そう言えば光井さん」

 

「………」

 

「光井さん?」

 

 

 呼んでも返事をしないほのかに、達也は目の前で手を振ってみた。

 

「は、はい!?」

 

「やっぱり具合悪いの?」

 

「ち、違います! ただちょっと……」

 

「何?」

 

「エリカや美月の事は名前で呼んでるのに、私や雫の事は苗字なんだなって」

 

「駄目? なら名前で呼ぶけど……」

 

「本当ですか!?」

 

「あ、ああ……」

 

 

 感情の変化が激しいのは仕方ないにしても、抱きつかんばかりの勢いで近付かれるのはちょっと勘弁してほしいと思っていた達也だが、口にしたのは別の事だった。

 

「ほのか、そう言えば部活は良いのか? 今日は休みじゃないはずだろ?」

 

「……あっ!」

 

「そろそろ開始の時間だろ、急いだ方がいい」

 

「だ、大丈夫です。今日は体調が悪いって事で休みますから」

 

 

 ほのかの言い訳に、達也はちょっとしたイタズラを思いついた。

 

「やっぱり具合が悪いのか。それじゃあ保健室に行こうか」

 

「え、えっと……」

 

「何? ひょっとして歩くのも辛いの?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

 

 からかわれてるんだと気付き、ほのかは赤面しながら達也の胸を叩いた。

 

「冗談はさておき、そろそろ本当に急がないと間に合わないよ」

 

「だ、だって……」

 

「だって?」

 

「まだ肝心な事を言ってないんです」

 

 

 ぎゅっと拳を握り締め、ほのかの視線が達也を射抜いた。

 

「達也さん、好きです! 私とお付き合いしてください!」

 

 

 公衆の面前での告白だと言う事に気付き、ほのかは真っ赤になって逃げ出してしまった。

 

「やれやれ、まだ返事はしてないんだけどな。でも、ほのからしいか」

 

 

 告白された方の達也は、相変わらずのポーカーフェイスだったが、何処か嬉しそうだったのだと、周りの人たちが後に証言したのだった。

 後日正式に達也が返事をして、めでたく二人は付き合う事になったのだが、祝福の言葉を言ってるはずの深雪から、もの凄い冷気がほのかに向けられるのだが、幸せで頬が緩みきっているほのかはその事に気付かないのだった……




後二人くらいで本編に戻ろうと思ってます

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