劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ちょっと出番が減りそうなので、今回は真夜をメインに


嫉妬する真夜

 達也から監視カメラの映像のチェックを頼まれた葉山は、少しつまらなそうに作業をしている主の事が気になった。

 普段からあまり積極的に作業をする主では無いのだが、達也から頼まれた事にまで気乗りがしていないのは非常に珍しいのだ。

 真夜は達也から頼まれればそれがどんな事だろうと喜んで作業するのだが、今回は何故か何時ものようなテンションの高さは感じ取れなかった。

 

「真夜様、如何かいたしましたか?」

 

 

 普段あまり立ち入った事は聞かない葉山だが、もし体調不良とかだったら困るので今回は聞く事に……それが面倒事になると分かっていながらも主の事を心配してしまうのがこの老執事の良い所でもあり悪い所なのかもしれない。

 

「別に如何もしないわ……何故そんな事を聞くの?」

 

 

 やはり何時ものような雰囲気は感じられない……もしかして本格的に体調が優れないのかもしれないと葉山は焦った。

 

「やはり何処かお身体が……」

 

 

 だが、真夜が普段と違うのは別に体調不良が原因では無かったのだ。

 

「大丈夫、そっちの心配はしなくて平気なのだけど」

 

「では?」

 

「これを見て頂戴」

 

 

 真夜がチェックしていたのはベイヒルズタワーの監視映像。達也に直接頼まれた葉山ならそれを見間違える事はしない。

 

「これが何か?」

 

「問題はこの後! こっちに移った後よ!」

 

「はぁ……」

 

 

 主が声を荒げている原因が思いつかず、熟練の執事にあるまじき生返事をしてしまった。だが真夜はそんな事を気にするほど余裕が無い感じがしている……よほど重大な何かが映っているのだろうと葉山は緊張感を高まらせた。

 だが何時まで経ってもそんな感じがする映像は流れない……葉山は真夜の顔を見て困惑の表情を浮かべた。

 

「今の何処に問題がありましたか?」

 

「葉山さん、今のちゃんと見てたの?」

 

「えぇまぁ……ですがさほど問題があるような映像は無かったかと」

 

 

 達也の魔法で深雪の姿ははっきりと映ってなかったし、達也が使った魔法だってこの映像からでは確認出来ないようになっている。これならあの2人は『普通』に注目されるだけで済むだろう。

 そう思っていたのだが自分の見落としている問題があるようなので、葉山はもう1度監視映像を初めから確認する。

 

「やはり問題は無いように思えますが」

 

「ハァ……葉山さん、貴方でも気付かないなんてね」

 

「申し訳ありません」

 

 

 主にため息を吐かせた事を恥、葉山は深々と頭を下げた。これが青木ならば土下座をしたのだろうが、葉山は彼ほど真夜に呆れられたと思って無いのだ。

 

「これよこれ!」

 

「どちらです?」

 

 

 映像を早回しして問題のシーンが映っているを指差して声を荒げる主を気にしながらも、問題のシーンを確認する。

 

「これが……ですか?」

 

「そうよ!」

 

 

 モニターに映し出されているのは、よろけた深雪を達也が抱きとめ、何回か言葉を交わした後に深雪が達也に抱きつくと言ったシーンだった。

 確かに達也と深雪は兄妹なのだから、こう言った事は問題になるだろうが、彼らの事を良く知っている真夜が問題視するような事でも無いように葉山には思えた。

 

「これくらいなら達也殿と深雪様なら日常茶飯事なのでは」

 

 

 だから気にする必要は無いと言いたかったのだが、如何やら葉山が問題視した事と真夜が機嫌を悪くしてる原因は似ているようで大いに違った。

 

「だからよ!」

 

「はぁ……」

 

「たっくんにこうやって甘えられる深雪さんが羨ましいしズルイのよ!」

 

「なるほど……」

 

 

 真夜の本性を知っている葉山としては、何故そう言った考えに至らなかったのかと自分を責める……自分なら気付けそうな事だったのに気付けなかったからだ。

 

「大体たっくんがあんな風に現れたらますます深雪さんがたっくんに依存しちゃうじゃないのよ!」

 

「深雪様には達也殿しか居ませんので……」

 

「姉さんが死んだからってまだあのサイオン量だけの男が居るでしょ!」

 

「龍郎殿は後妻と仲睦まじくしております故」

 

「あの男は……」

 

 

 真夜にとって義兄にあたるのだが、龍郎の事をよく思って無いのだ。姉が病死してからすぐに再婚した男を、真夜は快く思って無いのだ。

 

「ですから深雪様が多少達也殿に依存してしまっても仕方ない事だと……」

 

「分かってるのだけど、たっくんにもっと甘えたい私に見せ付けてるような感じがするのよ!」

 

 

 穿ち過ぎな真夜の見方に若干の呆れを覚えながらもその事を顔に出さない葉山は、やはり一流の執事なのだろう。

 

「あぁもう! 深雪さんが羨ましいわ!」

 

「おや?」

 

 

 葉山の懐で携帯が震えた。真夜に呆れてたので気分を変えるには丁度いいタイミングだったので葉山は真夜に一礼して携帯を取り出した。

 

「はい」

 

『葉山さん、達也です』

 

「おぉ達也殿!」

 

 

 まさに今この展開を解決出来る可能性のある相手からの電話に、葉山は年甲斐も無く大きな声を出した。

 

「えっ、たっくんからなの!」

 

「えぇまぁ……」

 

『想像通りの展開になってますね』

 

「さすが達也殿、お見通しでしたか」

 

 

 このタイミングで達也が葉山に電話を掛けてくるなど、普通ならありえないのだ。後処理を任せた時点で達也の仕事は終わってるのだから。

 だが達也が電話してきたのは、葉山が真夜に絡まれているだろうと分かった上での行動だったのだ。もちろん葉山にもその事は分かっている。

 

『叔母上に代わってください。後は俺が引き受けますから』

 

「よろしく頼みましたぞ」

 

 

 電話越しに頭を下げる葉山。それほど今の主を相手にするのは大変なのだろう。

 

「真夜様、達也殿が代わるようにと」

 

「本当! たっくんとお話が出来る~」

 

 

 葉山から手渡された携帯電話を、まるで家宝を扱うように丁寧に包み込み会話を始める真夜を見て、葉山は人知れずため息を吐いたのだった。

 

「もしもしたっくん、何か用なのかな?」

 

『いえ、別に対した用では無いのですが』

 

「ん~?」

 

『色々と今回はお手を煩わす事になってしまった謝罪と、感謝の言葉をその……『真夜ちゃん』に伝えようかと』

 

「!?」

 

 

 普段からどれだけおねだりしても呼んでくれなかった呼び方でお礼を言われ、真夜の気分はすっかりと晴れたのだった。

 これが達也の目的だったのだが、真夜をちゃん付けで呼んだ事で今度は深雪の機嫌をとることになってしまったのは言うまでもないだろう。




う~ん難しい……原作があんな感じなので崩すのに苦労します……

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