劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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説明はバッサリと


バリオン・ランス

 真夜の衝撃の発言を処理するのに手間取っている分家の人間や使用人を無視して、真夜はもっとも大事な発表を行う。

 

「私の次の当主は、ここにいる司波達也にお任せしたいと思います」

 

「ご、ご当主様。質問をお許し願えますでしょうか」

 

「何かしら、貢さん」

 

 

 本来であれば「黒羽殿」と呼ばなければいけない席だが、真夜はニッコリとほほ笑みながら、普段通りの呼び方で貢を呼んだ。

 

「達也殿は当主候補ですらなかったはずですが、何故いきなり次期当主にご指名なさったのでしょうか」

 

「そうですね、いい機会ですので、達也が生まれてからの事をお話ししましょう」

 

 

 そう前置きをして、真夜は慶春会に出席している人間全てに、達也の事を説明始めた。

 

「ここにいる達也は、生まれながらにして次期当主として育てるよう、先代の英作によって魔法力を制限されて育ちました。津久葉殿の協力を得て、夕歌さんを鍵とした封印を施し、皆さんには達也は二つの魔法しか使えない欠陥を抱えて生まれた、という報告をしました。その後、私と姉の深夜は、達也を深雪さんのガーディアンとして四葉の中に居場所を作ることとし、人造魔法師実験の被験者として選び、唯一の成功例として四葉の戦力となりました。そして更に枷を掛けるべく、今度は深雪さんを鍵として封印を施し、生まれ持った二つの魔法にも制限を設けました。その事を知っていたのは、私と姉の深夜、先代当主の英作と協力してくださった津久葉殿、そしてこの実験の責任者を引き継いだ紅林さんだけでした。みなさんが達也をあまりにも見下すものですから、私は本当に皆さんを消し去らないように努力するのが大変だったんですから」

 

 

 物騒な事を笑みを浮かべて言い放つ真夜に、貢をはじめとする分家の当主たちは表情を青ざめる。昨日まで無能だ欠陥品だと罵ってきた達也が、真夜の息子で次期当主に指名されたのだ。その反応が普通なのかもしれない。

 

「それと、達也の婚約者なのだけど、どうも他所の家は四葉と関係を深めたいらしいので、達也を次期当主に指名した事と同時に、他家から募集してみようと思っています。もちろん、夕歌さんや亜夜子さん、深雪さんも候補には入りますので、そんな顔しないでくださいます?」

 

 

 微笑みながら三人に視線を向ける真夜に、夕歌、亜夜子、深雪の三人はそろって頬を赤らめて真夜から視線を逸らした。

 

「挨拶とか、そういったことはまた別の機会に設けますので、今日はとりあえずご報告だけとさせていただきたいと思います」

 

 

 そう締めくくり、真夜は達也と深雪に視線を向け、すぐに逸らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次期当主に指名されたことで、達也を取り巻く環境はがらりと変わった。青木以下の使用人たちは、顔を引きつらせながら平服し、今までの事を許してほしいと申し出たり、貢をはじめとする分家当主の面々も、腹に含むものはあるだろうが表面上は忠誠を誓った。

 そんな中で、初めから全てを知っていた葉山は、見事に達也の前でもいつも通りの――真夜に対する時と変わらぬ態度で一礼した。

 

「達也様、この度はおめでとうございます。この老体、この身朽ち果てるまで達也様に忠義を尽くすことをお約束いたします」

 

「頭を上げてください。俺は本家の礼儀作法やしきたりなど、一切知りませんので、葉山さんに教えていただけたらと思っています」

 

「それはもちろんでございます。ところで達也様、覚えておいででしょうか? この慶春会の席で新たな魔法をお見せいただけるお約束だった事を」

 

「新しい魔法!? 達也、それはもう完成しているの!?」

 

 

 葉山の言葉に、真夜が演技とは思えない――恐らく本気で興味を惹かれているのだろうが――声と表情で割って入ってきた。

 

「はい」

 

「本当!? 是非見せてちょうだい!」

 

「お兄様――達也さん、私も見てみたいです」

 

 

 真夜への援護射撃ではないのだろうが、深雪まで興味を示してきた。これでは達也に断る、という選択肢は選べなくなったのだった。

 

「では準備してきますので、少々お待ちください」

 

 

 そう言い残して、達也は必要なものを取りに部屋に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新魔法、バリオン・ランスのお披露目を終えた達也は、片づけを始めたのだが、説明なしに納得できるほど優秀な頭脳の持ち主ばかりではなかった。

 

「今のはどういう現象なのですか?」

 

「単一の起動式を格納したCADと炭素鋼の杭を組み合わせた一種の武装デバイスです。この杭の部分をバリオンのレベルに分解して、薄い円盤状に密集させ撃ち出したんですよ」

 

「……では何故、その先端部分は丸々残っているんですか?」

 

「『再成』しました」

 

「なるほど、そうでしたか!」

 

 

 勝成が何かを言う前に、真夜の満足げな声が庭に響いた。

 

「だからこその『バリオン・ランス』。『キャノン』でも『ランチャー』でも『ガン』でもなく『ランス』と名付けたのは、最終段階で再成魔法を組み込んでいるからなのですね。放射化された物質が残っていないのも、『再成』によって射出した中性子を全て回収しているからですね? 中性子線によって、物質内の水分が高熱に熱されるという結果だけが残る対物攻撃。達也、見事です!」

 

 

 手放しに誉める真夜を見ながら、勝成が達也にだけ聞こえる声で囁いた。

 

「その魔法を使えば、私たちを一蹴する事が出来たのではありませんか?」

 

「『バリオン・ランス』は『分解』が効かない相手を退けるために作り上げた魔法です。『分解』が通用する相手に使う機会はありません」

 

 

 達也の「分解を使っていれば、すぐに片が付いた」という言外のメッセージは、勝成にちゃんと届いたようで、彼は顔を真っ赤にして黙り込んでしまったのだった。

 そして翌日、西暦二〇九七年一月二日。四葉家から魔法協会を通じて十師族、師補十八家、百家数字付きなどの有力魔法師に対して通知が出され、その中に当然、達也の婚約者募集の項目も含まれていた。

 一日置いて、応募者が多数現れ、その中には七草家令嬢、七草真由美、藤林家令嬢、藤林響子、千葉家末子、千葉エリカの名前も見られたのだった。




次回からは師族会議編に繋げるための話になります

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