劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

613 / 2283
狸というよりコウモリみたいになったな……


七草家の動き

 一色家の婚約の申し入れと、一条家の深雪を嫁に欲しいという申し入れは、魔法協会を通じて四葉家に告げられた。その通達を、どうやったのかは分からないが七草家当主、七草弘一も手に入れていた。

 

「一色家は兎も角、一条家は思い切った事をするな」

 

 

 自分の娘も四葉家に嫁がせるつもりの弘一は、一色家の動きは妥当だと判断した。だが一条家の動きは、下手をすれば魔法師界から集中砲火を浴びせられかねない行動なのだ。

 

「一条の御曹司が、司波深雪嬢に惚れているのは、なんとなく知っていたが、家柄が問題なくなった途端にアプローチとは」

 

 

 達也が四葉家次期当主に指名されたのと同時に、深雪も四葉の縁者である事が発表されている。あくまで婚約者候補であるが、その「候補」という単語はすぐに外れるだろうと弘一は思っている。それだけ、深雪が達也を愛しているということを、関係が無い弘一も理解しているのだ、一条家が理解していないとは到底思えない。

 

『お父様、真由美以下二名、参りました』

 

「入りなさい」

 

 

 書斎に呼び寄せた娘たちが到着すると、弘一は一旦一条家事を頭の隅に追いやり、呼び寄せた用件を告げた。

 

「真由美には話したが、四葉家が次期当主に第一高校二年、司波達也を指名した」

 

「司波先輩が四葉っ!?」

 

「ということは、深雪先輩も四葉縁者と言う事ですか?」

 

「そうだな。そして司波達也、深雪兄妹は兄妹ではなく従兄妹だったと発表され、近く正式に婚約するだろうとも発表された」

 

 

 弘一のセリフに、香澄も泉美も動揺を隠せなかった。香澄は達也が四葉縁者だと言うことに、泉美は深雪が婚約するかもという事に。

 

「本来の力を、生まれながらに封じられていたようだが、次期当主指名に当たりその封印を開放したらしい。その実力は、十文字家の克人君を大いに凌ぐほどだと言われ、噂では戦略級魔法師に準ずるのではないかと言われている」

 

「……達也くんは、もともと相性が悪いだけで、十文字くんと同等くらいの力はありました」

 

「さすがは婚約者候補、相手の事を庇うのが早いな」

 

「えっ? お姉ちゃんも司波先輩のお嫁さんになるの?」

 

「司波達也君の結婚について、政府は特例として重婚を認めると正式に発表した。これに伴い、一色家のご令嬢も婚約を申し込んでいる」

 

 

 その事は真由美も知らなかったので、妹二人と同じく驚きを隠せずにいた。

 

「ですが、愛梨さんが嫁いだら、一色家はどうするおつもりなのです?」

 

「そのあたりは私にも分からないさ。一色家には一色家なりの考えがあるのだろう」

 

 

 恐らく感付いているであろう弘一がとぼけた回答をすると、真由美は弘一に見えない角度で顔を顰めた。

 

「それともう一つ、一条家が深雪嬢を迎え入れたいと四葉家に伝えている」

 

「深雪さんを? ……そう言えば、一条君が深雪さんに一目惚れしてたわね」

 

「一条家は近親婚は避けるべきだと考えたのか、それとも他に何か理由があるのか分からないが、そのような動きに出ている。そこで司波兄妹と交流のあるお前たちに聞きたいのだが、司波深雪嬢の司波達也君へ向けていた感情は、家族愛なのか? それとも異性に向けるそれだったのか?」

 

 

 弘一の質問に、三人は複雑な表情を浮かべた。周りから見れば、明らかに家族愛を超えたものではあったが、達也も深雪も家族なら当たり前だと言わんばかりの雰囲気を醸し出していたので、周りもそうなのだろうと思い込むことにしていたのだ。だがその前提条件が崩れてしまった今、果たしてあの感情は家族愛なのだろうかという疑問が浮上してくる。

 

「……恐らくですが、深雪さんの方は違ったでしょうね。達也くんに向けていた感情は、明らかに年頃の妹が兄に向ける感情ではありませんでした」

 

「私もそう思います。深雪先輩は、本気で司波先輩に愛を注いでいるように思えます。羨ましい……妬ましい」

 

「い、泉美? なんか怖いよ?」

 

 

 泉美の言葉と雰囲気に、香澄が若干引き気味の反応を見せた。だが弘一は泉美のそれに付き合う事は無く、香澄に視線を向けていた。

 

「香澄はどうだ? お前も交流があるのだろう?」

 

「私はお姉ちゃんや泉美のように、一緒に活動していませんので詳しい事は分かりませんが、司波先輩は確かにお兄さんに向けるべきではない感情を抱いていたように思えます」

 

「そうか。司波達也君の実力についてはどうだ? 魔工科生らしいが、そっちの技術については」

 

「高校生レベルではありませんね。彼は同年代の誰よりも――三高の吉祥寺真紅郎君でも太刀打ち出来ない程の実力を有しています」

 

「それに関しては、お姉さまに同意します。司波先輩は昨年の九校戦でも、その技術を惜しみなく発揮していました。担当した選手が実質無敗の記録は去年も破られることはありませんでした」

 

「担当した選手のレベルが高いっていうのもあるんだろうけど、司波先輩の技術力は確かにずば抜けていると私も感じました」

 

 

 三人の娘の評価は、聞かなくても知っていたが、あたかも初めて聞いたように弘一は驚いてみせた。

 

「やはり司波達也君はその才能の一端を見せていたのだな。魔法力は封じられても、知能や技術は封じることは出来ないと言う事か……真由美、いずれ司波達也君をウチに連れてきなさい」

 

「えぇっ!?」

 

「正式に婚約を申し込んだんだ。一度くらい顔を見てみたい」

 

「……分かりました。ですが、達也くんに婚約を申し込んでいるのは私だけではありませんよ。私が入学する前の生徒会副会長の津久葉夕歌さんや、四高の黒羽亜夜子さんや、北山さんや光井さん、千葉さんといった子たちも婚約を申し込んでいるんですから、その全ての家に顔を見せる羽目になるという理由で断ってくるかもしれません」

 

「なに、大丈夫だろう。四葉家に直接、司波達也君を家に招きたいと頼めばいいだけだ」

 

 

 夕歌や亜夜子が縁者であることは、弘一も疑っているだけで確証はない。だからではないが、同じ十師族として四葉家に頼めるのは自分だけだと考えていたのだった。

 真由美は弘一の自信に呆れそうになったが、達也を家に招けるならと浮かれていたのだった。




悪だくみがこの人の持ち味……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。