劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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待ちわびてた人がいたみたいですね


周りの反応

 愛梨の婚約申し込みについて、栞、沓子、香蓮の三人は衝撃を受け、一色家の愛梨の部屋にやってきていた。

 

「愛梨、お主本当に達也殿に惚れておったのだな。まさか愛梨が一番に申し込むとは考えておらんかったぞ」

 

「でも愛梨は一色家の跡取り、達也様は四葉の次期当主、この場合はどっちが家を出るの?」

 

「一色はあくまでも師補十八家ですし、達也様が次期当主である以上、私が嫁入りする事になるでしょうね」

 

 

 愛梨はまだ、次期当主の指名を受けていないので、既に指名されている達也を婿にもらうなどという事は考えられない。

 

「ですが愛梨、そうなると一色家はどうなるのでしょう?」

 

「どう、とは?」

 

「愛梨以外に子供がいないのですから、愛梨は当然次期当主として婿を招かねばいかないはずです。その愛梨が嫁入りすると言う事は、一色家の後継がいなくなるのでは?」

 

「そんなの、お父様が亡くなる前に私と達也様の間に子を儲け、その子を次期当主にすればいいのです」

 

「じゃが愛梨、その子は四葉の人間なのではないかの」

 

「政府の動きを見れば、達也様は複数の嫁を迎える事が出来そうですし、私のように師補十八家や百家の跡取り娘も達也様に婚約を申し込んでいるようです。四葉の跡取りは他の人が産んだ子でも問題ないはずですし、四葉の手がかかる前に一色へ養子に出せばいいのですよ」

 

 

 つまり、愛梨の子ではなく、一色の子として育てれば問題ないと言い出した愛梨に、三人は少し考え込んだ。確かに四葉の子であると同時に、一色の子でもあるのだから、愛梨がしようとしている事を四葉が止めることは出来ないのかもしれない。そして四葉の遺伝子を持つ子が一色の当主になれば、師補十八家から十師族へ昇格する事も可能になるだろう。

 

「その案が使えるのなら、わしや栞、香蓮も達也殿の嫁として四葉家に入れるの」

 

「ですが、いくらそんな事が可能でも、四葉家に睨まれるのでは」

 

「あそこは閉鎖的な家ですし、四葉の遺伝子を持つ子が外に出るのは嫌がるのではないでしょうか」

 

「あら、四葉の遺伝子を持つ子が、別の家の当主になれば、その家は四葉の分家として扱う事が出来るのではないでしょうか。そもそも、四葉に嫁ぐのですから、反旗を翻す心配など無意味なのですよ」

 

 

 自信満々に告げる愛梨に、三人の感覚もいよいよ麻痺してきた。家の為、国の為としたくもない相手と結婚するくらいなら、多少の裏技を使ってでも好いた相手と結婚したいと思い始めてしまったのだ。

 

「それが可能なら、わしも申し込もうかの」

 

「ならば、私も。十七夜家を守る為にも、最低二人は産まないと」

 

「私は兄がいますから、最初から問題ないんですけどね」

 

 

 この中で唯一兄がいる香蓮は、家の為に四葉家に嫁ぐ事が簡単に出来たのだが、愛梨たちが悩んでいるのでそれをするのはどうなのだろうという躊躇いを持っていた。だが愛梨の話を聞いて、これで心置きなく四葉家に婚姻を申し込むことが出来ると、胸を撫でおろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四葉家の通達を鳴瀬家から聞き、その通達を受けて娘が四葉家に婚姻を申し込んだ事を受けて、紅音は不機嫌そうにグラスを傾けていた。

 

「何がそんなに気に入らないんだい? 四葉家は秘密主義だから、司波達也君が四葉の縁者だと隠していても仕方なかったんだと思うけど」

 

「潮君は良いわよ。最初から彼の事を気に入っていて、いずれは雫の婿にって考えてたのが、雫をお嫁に出すに変わっただけなんだから」

 

「元々北山は航に継がせる予定だったんだ。雫に婿を取る必要は無かったんだよ。だが、彼があまりにも優秀だったから、ぜひ北山にと思ったんだ」

 

 

 潮は、達也になら自分の企業を任せても良いと考えていた。だから雫の婿に、と考えていたのだが、その相手が四葉の跡取りだと判明し、娘が彼を好いており、結婚したいという意思を確認し四葉家に婚姻を申し込んだのだ。

 だが紅音は、一度対峙した達也の態度が気に入らず、ましてやあの時既に四葉の関係者だと言う事を知っていれば別の対応が出来たのにと悔やんでいた。

 

「当たり前のように嘘を吐き、それを嘘だと感じさせないなんて、相当な教育をされてなければ無理よ」

 

「軽く調べただけだが、彼は次期当主に指名されるまで、四葉の人間であることを否定されていたらしいよ。現当主とその周りの一部の人間に本来の力を封じられ、無能な魔法師として育てられていたと」

 

「魔法師としては有能じゃなくても、魔法工学師としては優秀だったのよ? いくら四葉家とはいえ、そんな優秀な人材を手放すのかしら」

 

「妹の深雪くんがいたから、離れないと思っていたのだろう。雫が言うには、それくらい彼ら兄妹――実際は従兄妹だったみたいだが、仲は良かったらしい。それは紅音だって見ているだろ?」

 

「それはそうだけど……」

 

 

 あの大人相手でも動じない少年が、四葉の次期当主になった事を、紅音は未だに信じていない。妹の深雪が指名されたのなら、紅音もすぐに納得したと思っている。それくらい衝撃的な通達だったのだ。

 

「雫とほのかちゃん、同時に幸せになれるチャンスが訪れたんだ。過去の遺恨は水に流して、娘の幸せを祈ろうじゃないか」

 

「遺恨って、多分向こうは何も思ってないでしょうけどね」

 

 

 紅音が一方的に喰ってかかっただけなのだから、達也にしてみれば遺恨も何も残っていない。精々友人の母親にあれこれ言われた程度にしか思っていないだろう。

 

「彼は本当に優秀よ。それは私も分かってる。だけど前にも言ったけど、優秀すぎる人間の側にいると、不幸が訪れるかもしれないのよ。雫もほのかちゃんも、それに巻き込まれない保証は何処にもないのよ」

 

「そんな覚悟は、あの二人はとっくに決めているさ。何せ優秀すぎる男を好きになってしまったんだからね。僕みたいに平凡ではない、あの彼を」

 

「潮君だって優秀よ。でも、優秀の範囲に収まる程度だけどね」

 

「ありがとう。紅音はいい奥さんだよ」

 

 

 最後に惚気たが、紅音も潮も、本気で娘たちの幸せを願い、そして心配しているのだった。悪名高い四葉家に嫁がせて、本当に大丈夫なのかと。




本当に最後惚気たな……

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